狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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アオアイの町1

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 あの後僕たちはアオアイ国の計らいで、いくつかの国に先んじて入国することが出来た。
アイデン王は……後から到着した老人の姿をした10名に囲まれて、空を飛んで運んできたヴァヴェルの船に連れていかれた……

えと、船を空輸……
まあ龍が10人もいれば……ん、10人?数え方合ってるのかな……
とにかく、地球でおなじみの豪華客船なみの大きさの船が確かにあって、そこに連れていかれたのを、僕も見ました、ええ。

あの大きさを空輸って、船にこだわる理由あるんですか?と問いただしたくなるよね!

アイデン王は最後まで紗国の船にいたがったけど、手続き上そうもいかないのだとものすごく叱られていた。

100才生きてもまだ叱られるんですねえ。

「薫、準備はいいか?」
アオアイの地に足を踏み入れる前に、きれいでそして軽やかな南国風に服装を整えて、蘭紗様と僕は6日間を過ごした船のキャビンから出た。
長い廊下を歩き、ゆっくりと港に渡されたスロープへと向かう。
外はすでに暗い闇に包まれていたが、栄えた港町らしく美しい明かりが隙間なく灯され、とても賑わっている。

スロープの前に頭を下げている5人の役人がいた。
顔を上げると、ぴょこんと長い耳が見える。

ん……うさぎさん……
それからこっちは……このふさふさのしましまのあるしっぽは……りすさん……

僕の心は浮き立つがそれを顔に出さないように必死に耐えた。

アオアイ王国は草食系小動物系の獣人が集まる国家なのだそうだ。
聞いてはいたけど……
かわいすぎる……
背も小さいんだよ!僕の腰くらいまでしかない!
モフりたい!

「紗国王蘭紗様並びに、王妃薫様、ようこそおいでくださいました。この度は入国が大変遅れまして、申し訳ございません」
「いや、このような時なのだ仕方ない、アオアイの落ち度はないぞ」
「ありがとう存じます。では、書類の不備もございませんので、どうぞこのまま渡しを降りてくださいませ」

兎の役人さんは几帳面な様子でテキパキと港に掛けられたスロープを先導して歩き出す。
僕も蘭紗様のエスコートで歩き出し、船を出た。

ああ、異国の香りがする……
潮の匂いとともに、少しスパイシーな香り……
紗国とは全然違う香りに顔がほころぶ。
そんな僕に蘭紗様は気づいて美しい微笑みをくれた。
ああ、イケメン過ぎる……

「すぐに迎賓館に向かわせますので、お車にお乗りくださいませ」

豪華な飾りを付けた白馬二頭引きの金キラの馬車があり、その後ろに少し控えめな装飾の馬車が10台待っている。

一番前の豪華なものに僕たちは乗り、後ろに続く涼鱗さんやカジャルさん、そして喜紗さんサヌ羅さんたちも次々にそれぞれに乗り込んでいく。
使用人たちは最後の大き目の馬車に乗り込んだようだ。
近衛は白馬に乗り、僕たちの馬車の前後左右に陣取った。

そしてゆっくりと動き出した馬車は滑らかな動きで、全く振動もない。
2人っきりの馬車の中で、とてもゆったりできて気持ちいい。

「この後だが……我と涼鱗はすぐに明後日の会議の準備に入る、薫はカジャルと観光でもするとよい、この国の治安はとても良いからどこでも大丈夫だぞ」
「各国の王族がいらしているんですから、いつもより警備も多いでしょうしね」
「それもあるが、元々この国の者はゆったりとしていて争いを嫌うのだ」
「っふふ、すっごいかわいかったですね!」

僕はちょっとデレデレして思い出す、あの小さなモフモフ達を……

「……薫はあのような小さきものが好みなのか……」
「いや、好みとかそういうのではなくて!かわいい!ってその一言ですよ」
「我はかわいくないのか?」

真面目な顔の蘭紗様は僕を覗き込んだ。

「ん、蘭紗様は世界一素敵できれいでかっこいい僕の王様ですよ?誰かに負けるなんてありませんからね」
「ふむ、ならばいいが」

蘭紗様は気に入らない感じでまだごにょごにょ言っている。
時々こんな風に困ったちゃんになるところも、結構好き……

「そういえば船で一度も波羽彦さんに会えませんでしたけど……お元気なんです?」
「ああ、だが今はまだ紗国預かりの身だからなあ、好きに誰かに面会はできん」
「そうですか……でも、この会議で……」
「うむ、阿羅彦もすでにおらぬ上に、黒幕も捕まえてあるのだ、表だって反対するものもおるまい……そしてアイデンだが……」
「アイデン王がどうか?」

蘭紗様はふむと一呼吸おいて話し出した。

「はじめ、ヴァヴェル王国が会議に出席すると聞いて、どっちに転ぶか少し心配だったのだ。龍族は他国が何をしようがあまり気にせぬ奴らなのだが……阿羅国に一応隣接しているしな。ヴァヴェル王国があんな国潰せと一言でも言えば、それは無視できんからなあ」
「でもアイデン王はそんなこと言いそうになかったですよ」
「アイデンはそうでも、他の重鎮たちがどう考えるかだな」
「確かにそうですね、100年以上生きていてもアイデン王はまだ幼体というんですから、庇護下にあるわけですもんね」
「そういうことだ。しかしあの様子なら大丈夫だろうと踏んでいる」

僕は頷いて窓の外を見た。
窓からはアオアイの中心街が良く見えた。

各国の王族をもてなす迎賓館は、島の中心部の山の壁に階段状に作ってある。
白亜の美しい瀟洒な建物が、山肌に沿って折り重なるように立てられていて、それはそれは美しい。
船からもその様子が見れて、今すぐ飛んでいきたい気持ちを抑えるのが大変だった。

対して、市井は素朴で色とりどりの小さなテントの屋根がきっちりと並んでいる。
辺り一面に幾重にも並んでいるので、上から見ると小さな折り紙をたくさん並べたように可愛らしく見える。
そのテントはそれぞれ屋台のようで、煌々と照らされた明かりの元、店主らが揚げたり焼いたり串にさしたりなど、忙しく働き、それを求める人々が食べ歩きをしている様がとても活発に見える。

ああ、南国って感じ……
東南アジアの雰囲気だよなあ……

馬車が曲がる気配がした、そして坂を上り始めたようだ。
山道に入るのだろう。
周囲にきれいに整えられた美しい林が見えてくる。
きちんと街灯も備えられていて、あたりをぼんやりと美しく照らしている。

「ああ、素敵な国……」
「薫が喜んでくれてよかった、一応仕事の一環ではあるのだが、新婚旅行でもあるのだからな」
「はい!」

蘭紗様は僕の顎をスッと持って、優しいキスを落としてくれた。

「今はまだ早い時間だから少し散歩してみるとよい……今夜は我は遅くなるだろう、先に寝ているのだぞ」
「はい、がんばってくださいね、波羽彦さんにも、伝えてくださいね」
「ああ、わかった」

蘭紗様の腕の中に抱きしめられて、ふっと体から力が抜けていくような気持ちよさが駆け抜けた。

ああ、この人の腕の中が僕の居場所なんだなあと、そんな気持ちよさだ。





「ねえ、カジャルさん」
「うん?」
「カジャルさん辛いもの大丈夫?でしたっけ?」

僕たちは立ち並ぶ屋台をガヤガヤする雑踏をかき分けて巡っていた。
食べ物が並ぶ通りに出ると、おいしそうな匂いが立ち込めていて、夕食はいただいたというのに食欲がわいてきてしまったのだ。

「ん……まあまあ好きかな……というか、だいたいちょっと辛いんだよなあアオアイの料理って」
「やっぱり……」

僕は屋台に売られている食べ物をうんうん頷きながら見て思う、これはベトナムとかタイとかあのあたりの雰囲気だよ!
やっぱりちょっとピリ辛で……パクチーもあったりしてー。

「もしかして、独特の香草なんかが掛けてあってそれが好きじゃないとか……」
「……なんでわかるんだ」

カジャルさんは真剣な顔で覗き込んでくる。

「ふふ、正解かあ」
「……」

ジト目で見られて僕は種明かしをする。

「いえ、ここに似た国が僕の住んでた世界にもあるんですよ、だいたい料理も似てるような気がしないでもないです」
「なるほど……」

カジャルさんはちょっと考えてから、指をさした。

「あの屋台にある麺が、蘭紗様の好物でなあ、学生のころよく食べに来たぞ」
「なんですって」

僕はずいずい進んでその屋台の前に立って観察する。
ふむ、これは……フォーですね。
上には……はい、パクチーらしき香草が!

「食べてみたいです」
「うん、俺もなんだか懐かしいや、頼もうか」
「うんうん!おじさん、これ二杯ちょうだい、ああ、一個は香草抜きでね」
「あいよー」

店主は手際よく麺を茹でどんぶりに入れ、スープをたっぷりかけて具をのせる。
おいしそうな麺の出来上りだ。
値段も安くて嬉しい!

僕たち二人はあつあつのどんぶりを持ってテーブルのある方へ歩く。
人々でごった返しているが、ニコニコした狸っぽい何かの家族に手招きされて、席を譲られた。
もう帰るからどうぞって。
優しいし、かわいいし、もふもふだし……
僕はよだれが出そうですよ!

「さて、懐かしいな……」
テーブルの上に置いたどんぶりに早速箸をつける僕たち。
一口食べて、そのスープのおいしさに感動した!
てかこの味……すっごくラーメンぽい!
思ったよりエスニックではなくて、どちらかというと日本のインスタントラーメンの塩味っぽくて、とっても好みだ!
確かに少し辛味も感じるけど、ほんの少しだけで全然気にならない辛さ。

香草はパクチーの味はしなくて、どちらかというと三つ葉の味だ。
ああ、良い!!

僕はとっても満足して一言も発しないで黙々と食べた。
麺の上に乗っかる茹でた大海老も肉厚ですごく食べごたえがある。

「ふう……」

僕はスープまできちんと飲み干してやっと顔を上げた。
大満足である。
カジャルさんも同じだったみたいで、ニコニコだ。

「これさ、実は紗国にも同じ料理を出す料理屋があるんだよ、帰国したら連れてってやるからな、料理人を呼んで作らせるのもいいかも」
「うん、楽しみ!」
「でも、本場で食べるのにはやっぱ敵わないな!」
「場所の雰囲気も込みで味ですからね!」
「違いない!」

僕たちは楽しく笑い合ってアオアイの屋台村を楽しんだ。

気が緩んだ僕たちは気づかなかった。
ずっと……小さな目に見つめられていることを。

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