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アオアイの町13 お嫁様の守護・蘭紗視点
しおりを挟む「ええ、さようでございます。それでですねえ、アオアイの沈滞石の効果は絶大でございましてね、瀬国を経てこの地に来た阿羅国出身の男も、ここに住むうちにいくらか気持ちの変化がみられたようですね。良心に目覚め1滴しか入れなかった……いえ、とても致死量は入れられなかったということでしょう……おそらく妻のメイドは来客用の高級茶葉に薬が入ってる事など知らなかったはずです、紅茶の卸売を営む夫はアーメ王子の館に紅茶その他を納品していたそうですよ」
我らは言葉を失いただ僑の説明を聞くだけだったが……
薫はポカンとしながらも質問をした。
「では僑先生……その紅茶の卸売を営むという阿羅国出身の夫はなぜ、僕たちがアーメ王子殿下のお屋敷に伺うことを前もって知り得たのですか?……あのとき急なお招きでしたのに」
「それはですね、実はアーメ王子が屋台通りでお二人に遭遇したのが偶然ではないからでして」
「あぁ……」
カジャルが遠い目をして真顔になった。
「アーメ王子は、紗国の皆がアオアイに来るという情報を得てから、すぐに計画をしていたようですよ、お二人が屋台にお出かけになると推測しその際どのようにしたら自然に落ち合えるか?など、綿密に執事と計画しておられたようで……それを屋敷の使用人たちは知り得たということですな」
我は思わず変な笑い声が出てしまいそうになったがぎりぎりで自制し、代わりに真面目な表情で薫に頷いて安心させてあげようとした。
「……そうなんですか……アーメ王子は、そんなにカジャルさんに会うのを楽しみになさっていたのですね」
「んーいや……そうかな?……俺ではなくて……」
カジャルはなんとも言えない表情で困ったように首を傾げた。
「まあつまり……そのあたりのことはもうしっかり裏も取れているということだね」
涼鱗が僑に問うと何度も頷く。
「その通りです、ですのであとは証拠の品を押収するために薬品の確定を行います。ご協力くださいませ」
そう言って僑は薬品の中の一つを小皿に1滴取り出し、指先に纏わせた魔力で吸い上げた。
すると薬は指先に宿ったようにぐるぐると吸い付く。
「薫様、カジャル様、こちらへ……腕をここにお出しになって」
二人がテーブルに腕を並べると、そこへ薬を纏わせた指先を近づける。
指先に渦巻くように吸い付いていた薬はどこにも反応せず、そのままだ。
僑は小皿にその薬を戻すと、次の薬液をまたもや同じように指先に纏わせ、二人の腕を行き来する。
何度か繰り返した後、二人の腕の上で僑の指先の渦が激しく波打ち白く濁り出した。
「先生、これですね」
小さな体の助手が子供のような高い声で素早く小皿を差し出す。
僑はすぐさま指を小皿にかざし薬を小皿に戻すと、助手は指先の消毒をする。
「薬がわかりました……なるほどこれならば……匂いも味もないでしょうねぇ」
僑は助手の手元から書類を受け取り、それにサラサラと記入していく。
助手は小さな体でくるくるよく動き、先程広げた薬品瓶や小皿を素早く片付けた。
「薫様、カジャル様ご協力ありがとうございました。これで犯人は追い詰められます。すぐさまアオアイの部隊と合流いたしますので、これで失礼いたします……で、薫様……その……肩に乗っておられる神々しい魔力の塊は……」
もじゃもじゃ頭を一つに結んだだけの僑はきょとんとする薫に顔を近づけ、肩に乗る鳳凰をじっと観察した。
「なんとも……興味深い……しかし、残念ながら今時間がありません……明日にでもきちんとお話伺いますからね……」
そう言ってキランと目を光らせると、助手たちとともに嵐のように去っていった。
「にぎやかですねえ、僑先生はいつも」
薫はにこにこして肩に乗る鳳凰をなでた。
「僑は……魔力の塊と……言ったな……鳥とは言わずに」
「だねえ」
「確かに、すごい魔力を感じるな……人によっては鳥に見えないということか?」
「いや……そんなことはないでしょう!僑先生は少し変わった表現をされただけですよ」
相変わらず鳳凰を触っている薫は侍女を優雅な仕草で呼ぶと、「そろそろお夕食を」と準備を命じ、献立の話をしている。
なんだろうこの……寂しさは……
きっちりと王妃の役割をこなし、一人でしっかりと立っている姿を見ていると、己の存在などどうでもいいような気がしてくる……
「蘭紗……なんだその……寂しそうな顔は……」
「い、いや……」
「薫は日々成長しているようだぞ……お前も負けるな」
「そうだな……」
「おそらくだが、あの鳳凰は薫の守護だ……お嫁様の記録の中に時々出てくるのでおかしいとは思っていたのだ」
「記録に?それはどのような」
「まだ二人のお嫁様しか確認できていないが、お嫁様の守護がいつもあたりを光らせお嫁様の行く先を照らすかのようにし、いつもそばにあり王がいないときの強力な守護となると書いてあったのが、それかもしれん」
「しかし、我はそんなこと聞いたことないが……王家に伝承されていないなんてことがあるだろうか」
「記録にも抽象的に書かれていて、まるで、きちんと伝えたくないかのように思える記述でね。私もそれをどう解釈したものかと悩んでいたんだ……これで解決した気がするよ」
「だとしたら、天から遣わされた薫の守護そのものということか?」
「そうなのではないかな……とにかく連日薫は危ない目に遭っているのだ、自らそれを呼び出したかのように言っているし、薫が心で助けを求め、それに応じる形で出現したのかもしれん」
「……」
「だから、そんな顔をするな」
涼鱗は我の背中をポンポン叩いてくる。
励ましてるつもりか……いや、確実に励ましているのだろう。
薫が頼るものが多いのは喜ばしいはずなのだ、我だけで守りきれるものではないのだから。
気持ちを入れ替えねば……
「皆様、日も暮れて参りましたので、1時間後には食事にいたしましょう。一度お召し替えでもして後ほどお食事ご一緒しましょうね」
薫は首を傾げて皆に告げ、その場はお開きとなり、涼鱗とカジャルは連れ立って部屋に戻っていった。
侍女にお茶をお願いして、薫は我のそばにきて小さな頭を我の胸にコテンと預け甘えてきた。
我は思わずぎゅっと抱きしめ薫の花のような匂いを大きく吸い込む。
「会いたかったです蘭紗様……」
「薫」
「僕、今日はなんだかとても疲れました」
「ああ」
「違う男の人に抱きしめられて、すごく嫌でした」
「ああ」
我は更に強く抱きしめ、たまらなくなって口付けた。
薫はとろんとした目で我を見つめてきて、柔らかい唇で我の唇に自分から触れてくる。
「蘭紗様、今夜……あの……いいですか?」
頬を赤く染めて我を見上げてくる薫に胸が苦しくなる。
「ああ、もちろんだよ、だが体はどうなのだ?」
「もう大丈夫ですよ」
我は侍女がノックをするまでずっと抱き合って口付けをしていた。
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