狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
121 / 317

静かな夜2

しおりを挟む
 夜も更け、そろそろ自室に戻ろうと廊下に出たが、気になり翠の部屋をのぞくことにした。
護衛と共に翠の部屋に行きそろりと扉を開けると、そこには懐かしいベッドが置いてあった。

あれは、我が子供の頃に使用していたものだな……

フフと笑って護衛を廊下に待たせソロリと中に入る。
薄明かりがついているが天蓋から紗のカーテンが降りていて中が良く見えない。
我はそれを指でツイっと開ける……。

「薫?」

そこには翠を抱きしめて眠る薫がいた。
薫に抱きしめられている翠は穏やかな顔でスヤスヤだ。
そばには耳の長い白い人形が落ちている。

「薫」

我は思わず薫の背中をつついた。

「ん……」
「ここで寝るつもりなのか?」
「あ……僕ねちゃったんだ……あ、蘭紗様」

嬉しそうな笑顔で我を見つめる薫が愛おしい。

「よいしょ……」

薫が一生懸命翠を起こさないように起き上がろうとするので、翠を少し持ち上げてやった。
軽くそして痩せていて頼りない……しかしやわらかな暖かさがあって愛らしい、血の繋がりなど関係ない、この子は我の子となったのだ。

「良く寝ているな……」

薫は我に抱きついてきて「うん」と耳の側で返事をした。

「大丈夫そうなら我らの寝室へいくが……」
「隣に医師もおりますし、侍女も次の間におります。大丈夫とは思いますよ」
「そうか」

我は薫を抱いたまま翠の頬に口付けをして髪を撫でた。
そして部屋に戻ろうとして立ち上がった瞬間「ふぇ」と小さな声が聞こえて思わず固まる。
腕の中の薫が「あ」と言って我の腕の中からすり抜けて翠の方に戻った。

寝具の中で小さな体を震わせて目にいっぱいの涙を浮かべた翠が一生懸命手を伸ばして薫に抱きつく。

「ごめんね翠、寂しくなったの?」

薫は自分の方が泣きそうになりながら翠を優しく撫でている。

「……ふむ……翠が寂しがるならば仕方ない……3人で一緒に寝るのはどうだ?」
「え?いいんですか?」

思わず顔が緩んで笑顔になる。
二人共きょとんとしてこちらを見るものだから。

「もちろんだよ、ここでは……流石に狭いから、我のベッドに行こうか。翠おいで」
「おうさま」

翠は一瞬躊躇したが、微笑みかけると嬉しそうに我にしがみついてくる。
そのまま軽すぎる翠を腕に乗せて歩き出す。
もう片方の手は薫のやわらかな手を握って。

「わあ……高い」

翠はうれしそうに笑顔になった。
首に回った小さな手がこそばゆい。
そして地下室で見た時に体中に巻かれていた包帯が無くなっていることに気づく。

「翠……そなたケガが……だいぶ治ったようだが……」
「それが……」
「ん?」
「今日クーちゃんが……あの……奇跡を起こしまして」
「ん?」
「えっと……治っちゃったんです……」
「え……あ……そうか……まあ、鳳凰なのだから……そうだな……」

うまいことが言えずに口ごもる。
不思議なことだが、あれは動物ではなく薫の守護として神が遣わしたと紗国では新しい神話が出来つつある。

森の神殿から届いた姉からの書簡では、あの鳳凰はどうやら神聖な存在のようで、遠くにあっても姉からすれば神そのものに見えるということだ。
いやまだ、実際に会っていないはずなのだが……と思いつつも、書簡が来たということは本当にそう感じたのであろう。

つまりそのような奇跡を起こしたとしても、神ならばそれはもう不思議でもなんでもない。

「さあ翠……ここが我の部屋だ。今夜はこのベッドで3人で休むのだよ」

静かにベッドに下ろすと、薫がいつの間にか持っていた白い耳の長い人形を翠に渡す。
翠はそれを嬉しそうに受け取って大事に抱きしめた。

「蘭紗様お着替えを」

用意されていた寝間着を手に薫がにこやかに手伝ってくれようとする。

「そのようなことをそなたがせずとも」
「でも……もうこんな時間ですからわざわざ侍女たちを呼ぶのも。それに僕、一応妻なんです」

そう自分で言いながら頬を赤らめる薫にクラクラするが……今夜は我慢だ……

「そうだな……ではお願いしよう」

手慣れた様子で着替えを手伝ってくれて、簡単に片付けてくれた。
いつの間にか手には薬草入りの口を清める茶を持っている。

「これ、用意してもらってたんです。どうぞ」

我は遠慮なくそれをもらい、一日の疲れが取れる思いで飲み干した。

「さあ翠、またせたね、寝ようね」

自然に真ん中に翠を起き、両側からベッドに滑り込んで、親子3人で初めて同じ寝具に入った。

「こんなのも良いな……親と一緒に寝るなど我には経験がないが」
「え?……ああ、そうですよね王子さまだったんだもの」
「薫はあるのか?」
「はい、ありますよ、妹と一緒にお母さんと一緒に寝たことも、おばあさまやおじいさまと寝たことも」
「父とは無いのだな」
「……僕の父は忙しい人でしたからね」

どこか寂しそうな顔で静かにつぶやく薫の頭に手を伸ばして、美しい闇夜の髪を撫でる。

「僕ははじめて」

うれしそうに話しだした翠は、キラキラした瞳でじっと我を見つめる。

「ずっとひとりで寝ていたの」

薫の顔が少し歪んで一瞬泣きそうになる。
薫の心はさぞかし痛んでいるだろう……
翠の境遇はあまりにも悲惨だった。
しかしこれからは我らがいるのだ、もうそんな思いはさせない。

「だが、もうひとりにはならないぞ。だから安心して寝るのだ」
「うん」

3人でおやすみと言って微笑みあって、手をつないで。

優しい夜は静かだった。


しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...