狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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黒い鳥2

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 気がつくと、辺りが少し薄暗くなっていて、ぱっちりおめめの翠がじっと見つめていた。
黄緑の瞳が目の前にあった。

「ん?……」
「おうひさま」

ちいさな鈴の音のようなかわいらしい声が響く。
そういえば今日翠の話す声聞くのはじめてかも……すっかり無口になっていたから。

「起きたの?お腹すいたね」
「おうひさま……ごめんなさい」
「え?」
「ぼく泣いちゃってごめんなさい……おこってる?」
「怒ってないよ?」

僕は寝転んだまま翠をぎゅっと抱きしめた。

「いいんだよ、思うように僕を呼んでも、夜中でも朝でもお昼でも」
「うん」
「だから謝らなくていいんだからね」

僕は翠の額に自分の額をくっつけた。
嬉しそうな笑顔の翠を見ているだけで幸せかも。

「ごはん、たべたい」
「うん、そうだね」

僕はフフッと笑って起き上がって着物を確認した。
着替えずに寝入ってしまって、少しシワが気になるかな……ん……。

「仙……」

呼ぶと心配顔の仙が静かに現れた。
そして僕の表情を見てほっとしている。

「なんかしわになっちゃって、ごめんね」
「よろしいのです、そんなこと!軽くお着替えなさってお夕食になさいますか?」
「そうしようかな……翠もぐちゃぐちゃになっちゃったね」

翠の着ている着物は前がはだけて痩せたお腹まで見えているし、小さな袴もぐちゃぐちゃだ。
仙も笑いながら着替えの準備に入ってくれた。

僕は翠の着物を脱がせていく。
ちっちゃな着物は本当にかわいい、おもちゃみたいなんだものね。
一番下の白い着物はそのままでいいやと帯を結び直してキレイにして、上からきれいな黄色の一重の着物を着せた。
袴は薄いオレンジ色だ。

かわいい!きせかえ人形みたいです!

僕もささっと着替えて食堂に向かう。
翠はもう指をちゅくちゅくしていないし、ちゃんと歩いてくれた。
少しほっとする。
やっぱり目覚めた時に誰もいなかったのが良くなかったのか……な。

「翠紗様!本日は鶏雑炊でございます。翠紗様のお好みのお味付けでございますので、お気に召していただけるかと!それから本日からは他のメニューも徐々に増やすようにと指示がでておりますので、色々と小皿を並べております」

料理長はすっかり孫を見る祖父の顔だ。
翠のかわいさにやられた組としては同士ですねえ……

「食べやすいようにすりおろしたり細かくしたりしてくれているのですね」

僕は感心して小皿を見た。

「はい、僑先生からいろんな食べ物になれさせて、できたら王族の食事の作法が覚えられるようにとも配慮が指示されています」
「なるほど……」

そうだよね、もうすぐ王族が集まる食事会もあるんだから。
子供だからコース全部を食べなくてもいいけど、これはだめあれはだめでは……情けないもんなあ。

「では、もうお肉なんかも解禁なの?」
「はい、まずは油の少ない鶏から、蒸し魚の身をほぐしたものも、小皿にございます」
「なるほど、じゃあ食べてみようね」

僕はいつものように翠の横に座ってほかほか雑炊をお椀に取ってあげた。
それをふうふう冷まそうとすると、翠がそっと小さな手を僕の手に合わせた。

「おうひさま……僕自分でやるの」
「え?」

驚いて一瞬固まったけど、決心の硬そうな翠の瞳は揺るぎない。
うん……なるほど。

「じゃあ、やってみて。火傷しないようにね、ふうふうって冷まして!」

僕はハラハラしながら見守るが、翠はスプーンをうまく使って一匙取るとふうふうして上手に食べた。
感動である。

「上手だよ!」

しばらく見守っていたけど、たどたどしいながらもきちんと食べられていたので、安心して僕の分に手を付ける。
今日は僕の食事も鶏雑炊コースといったところ。
なかなか豪華なんだよ。

「これなに?」

翠の可愛い声に料理長が一生懸命答えている。
一口食べて「おいしい」とにっこり微笑んで周りの大人達を喜ばせている。

ああ、良かった。
甘えさせるだけ甘えさせて、もしかして納得してくれたのかな……
でも今夜から、しばらく一緒に寝ることにしようかな。
蘭紗様と相談しよう……

笑顔と笑い声の絶えない楽しげな食卓は、僕の胸に温かいものを運んでくれた。

そして昼過ぎから蘭紗様が視察に出かけたまま、港まで足を延ばして視察する予定となり、帰城しないことになった。
僕は翠の部屋で2人で寝ることにして、まずお風呂に入った。

今日は嵐の合間の少しの晴れ間……というか曇りだ。
雨は久しぶりに止んでいた。
よろしければ露天風呂をどうぞと侍女たちに進められる。
うれしくなって翠と一緒に久しぶりの露天風呂に向かう。

「お外?」
「そうだよ、お外のお風呂も大きくって気持ちいいんだよ、お空も見えるしね」
「ふうん」

わけがわからないのかピンとこない様子の翠の手を引き露天風呂に向かっていた。
見上げると、薄い水色の月がすごく大きく見える。
翠もじっとその月を見つめている。

露天風呂までの石畳みを歩いて、軽く体を洗ってからお湯に浸かると、翠が首を傾げて指を西の方に向けた。

「おうひさま、何か来るみたい」
「え?何かってなに?」
「んと……黒くて大きい鳥さん」

は?

僕は胸騒ぎがして翠を抱き上げると、急いで護衛がいる方に向かった。
「クーちゃん」とつぶやくとキラッと一瞬光って僕の肩に小鳥サイズのクーちゃんが現れる。

涼鱗さんの言う通りなら、この子は僕の守護のはず。
何か起こっても、この子がいたら大丈夫のはず。

その時目の前が急に真っ暗になってズーンと押しつぶされるような威圧を感じた。
跪いて頭を垂れたくなるような威圧だ。
僕は必死にあらがって上を見上げた。
さっきまでそこにあった月はもう見えない。
闇夜よりも更に黒いその物体は喋った。

「薫くん?」

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