狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
129 / 317

友好1

しおりを挟む
 黒い影の中でささやくような声がして、僕はその聞き覚えのある声に記憶を辿った。

「ア……アイデン王……?」
「うん、ごめんねなんか驚かせちゃって、ここは、このまま降りたら怒られるよねえ……どこが門なの?」

相変わらずささやき声だ。
上空にいるのに耳元で聞こえてくる。

「えと……」

僕は全裸のまま膝を付き上半身を起こして、アイデン王を見上げる。
いつまでも倒れ込むようにしてはいられない。
そして、腕の中の翠がなんだか熱い。
僕は精一杯息を吸ってそれから

「あちらです!」

と、ほぼ叫ぶように空の門の方を指差した。
バタバタと駆けつけてきた近衛らもハッと息を飲んで上空を見つめている。

「うん、わかった」

真っ黒で良く見えないが、アイデンは上空で体を翻したらしい。
爆風が体に叩きつけられ、飛ばされそうになるのを感じて目を瞑ったが、何も起こらず、ん?と思って目を開けると、クーちゃんが大きくなって繭のような光の円を作り出して僕と翠を包んでいた。

キョトっとした顔で首を傾げている。
何があったの?
と言わんばかりだ。

とにかく蘭紗様たちが出す防護壁みたいなのを、クーちゃんが作ってくれて僕と翠を守ってくれたようだった。

「ありがとうクーちゃん」

近衛と侍女が走り寄ってきて、さっと着物を着せられて部屋に連れて行かれる。
僕の足がグラグラして動けそうにないから近衛隊長に横抱きにされてしまった……
そして僕の胸には更に翠が抱っこされているというカオス……

「大丈夫でございますか?!」

真野と仙が血相を変えて心配するが、僕は驚いただけで特にケガしたわけでもないし。

「うん、大丈夫、それより早く準備しないとアイデン王がお越しに」
「先触れもなしになど!王ともあろう方が!」

仙の逆鱗に触れたようで、いつになく刺々しい声に驚くが、後ろに控えていた侍従長がため息交じりに仙に話しかけた。

「それがね……侍女長……先触れならあったのですよ。だが、それはつい一刻前に届いたばかりでしてね」
「はあ? 先触れがあったですって??」
「ええ、きちんと国璽の入った書簡でもって、アイデン王が翠紗様へのお祝いと、改めて蘭紗様へのお願いがあるので紗国へ渡るという内容でしてね……しかし、龍の移動速度を考えましたら、まあ、計算が合わないわけでもありません……というか、龍王が我が国に参られるのは建国以来初なのですから、よくわかりませんな」
「……」

仙は、呆けたような顔でしばし立ち尽くしていたが、やがて気を取り直したようで、コホンと咳払いをしてから近衛一人を残して部屋から皆を出し、僕と翠の支度に取り掛かってくれた。

「龍の国など……普通にお付き合いができるとは思えません。常識の通じぬ相手です、蘭紗様のいらっしゃらない間に、薫様にもしものことでもあれば……」
「仙……そんなに心配しないで。アイデン王は確かにちょっと変わった人ではあるけどね。悪い人じゃないんだよ。ちょっとなんていうか、子供っぽいんだ」
「それはそうでしょうね、あの方はまだ幼体ですから……ですが」

仙が何かまだ言おうとしている時に扉がノックされたので、僕は返事をした。
侍従が涼鱗さんの訪れを告げたので、部屋に通してもらうよう伝えた。

「薫……アイデンだったの?今の。すごかったね」
「まさか研究所まで?」
「ああ、すごい威圧を感じて……上を見上げたら黒い龍が見えたよ。あいつ体がまた成長したようだね。ますます力が強くなってるようで、恐ろしいよ」

そうこうするうちに僕と翠の着付けは仕上がり、涼鱗さんと共に客間に向かう。

「カジャルさんは……」
「ああ、今日は蘭紗からの要請で港の方の視察に同行しているんだ」
「そうだったんですか、では二人は一緒に今港なんですね……待つのは不安ですね」
「うむ……しかし今は天気も落ち着いているからねえ、まあ大丈夫だよ」

涼鱗さんはにこっと笑って僕に手を引かれて歩く翠にも笑いかけた。
翠も嬉しそうだ。

「この子は……なんだか気品を感じるね。この前まで孤児だったなんて誰が思うだろうか」
「……甘えん坊ですよ?」
「そうか……翠、母上にはたくさん甘えるんだよ?そりゃもうベタベタに甘やかしてもらってくっついて離れないでいたら良い、そしたら君の心は安定するよ」
「はい、りょうりんさま」
「……」

僕は涼鱗さんの言葉に何故か涙が出そうになってしまって困った。

「ああ、薫様」

客間の前には護衛と2人の侍女がいた。

「どうしたの?」
「普通にお茶をお出ししたのですが、龍族にはなにがおもてなしになるのか、わかりません。何がよろしかったんでしょう?」
「んと……お茶じゃだめなの?」

僕は面食らった。

「いやいや、人の形態を取ったら私らとなんら変わりないよ、普通に茶を飲むし食事もすればお酒も飲むんだから、それで良いんだよ?」

涼鱗さんの言葉に侍女たちはホッとし、顔を見合わせてから頭を下げて2、3歩下がった。
僕達は護衛が開けてくれたドアから客間に入り、ソファを見ると、アイデン王がお付きを2人従えてドデンと座っていた。

「やあ薫くん!さっきごめんねえ、まさかさ……お城の屋上にお風呂あるなんてね!すっごい良い考えだよね、僕もほしくなったよ、ねえ、じい作っておいて、ねえ?」

アイデン王は後ろを振り向き『じい』と呼ぶお付きにおねだりを始めた。
しかし『じい』は表情を変えず、そしてアイデン王にうなずきもせず、こちらを見て丁寧に礼をしてくれた。

「先程は不躾な事をいたしまして、うちの王が……」
「いえ、門がわからなかったのでしょうから仕方ありませんしね……あは」

僕はしどろもどろだ。
威厳のある龍族の長老じみた人に、どう話せばいいのかイマイチ掴めないんだもん……


しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...