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友好1

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 黒い影の中でささやくような声がして、僕はその聞き覚えのある声に記憶を辿った。

「ア……アイデン王……?」
「うん、ごめんねなんか驚かせちゃって、ここは、このまま降りたら怒られるよねえ……どこが門なの?」

相変わらずささやき声だ。
上空にいるのに耳元で聞こえてくる。

「えと……」

僕は全裸のまま膝を付き上半身を起こして、アイデン王を見上げる。
いつまでも倒れ込むようにしてはいられない。
そして、腕の中の翠がなんだか熱い。
僕は精一杯息を吸ってそれから

「あちらです!」

と、ほぼ叫ぶように空の門の方を指差した。
バタバタと駆けつけてきた近衛らもハッと息を飲んで上空を見つめている。

「うん、わかった」

真っ黒で良く見えないが、アイデンは上空で体を翻したらしい。
爆風が体に叩きつけられ、飛ばされそうになるのを感じて目を瞑ったが、何も起こらず、ん?と思って目を開けると、クーちゃんが大きくなって繭のような光の円を作り出して僕と翠を包んでいた。

キョトっとした顔で首を傾げている。
何があったの?
と言わんばかりだ。

とにかく蘭紗様たちが出す防護壁みたいなのを、クーちゃんが作ってくれて僕と翠を守ってくれたようだった。

「ありがとうクーちゃん」

近衛と侍女が走り寄ってきて、さっと着物を着せられて部屋に連れて行かれる。
僕の足がグラグラして動けそうにないから近衛隊長に横抱きにされてしまった……
そして僕の胸には更に翠が抱っこされているというカオス……

「大丈夫でございますか?!」

真野と仙が血相を変えて心配するが、僕は驚いただけで特にケガしたわけでもないし。

「うん、大丈夫、それより早く準備しないとアイデン王がお越しに」
「先触れもなしになど!王ともあろう方が!」

仙の逆鱗に触れたようで、いつになく刺々しい声に驚くが、後ろに控えていた侍従長がため息交じりに仙に話しかけた。

「それがね……侍女長……先触れならあったのですよ。だが、それはつい一刻前に届いたばかりでしてね」
「はあ? 先触れがあったですって??」
「ええ、きちんと国璽の入った書簡でもって、アイデン王が翠紗様へのお祝いと、改めて蘭紗様へのお願いがあるので紗国へ渡るという内容でしてね……しかし、龍の移動速度を考えましたら、まあ、計算が合わないわけでもありません……というか、龍王が我が国に参られるのは建国以来初なのですから、よくわかりませんな」
「……」

仙は、呆けたような顔でしばし立ち尽くしていたが、やがて気を取り直したようで、コホンと咳払いをしてから近衛一人を残して部屋から皆を出し、僕と翠の支度に取り掛かってくれた。

「龍の国など……普通にお付き合いができるとは思えません。常識の通じぬ相手です、蘭紗様のいらっしゃらない間に、薫様にもしものことでもあれば……」
「仙……そんなに心配しないで。アイデン王は確かにちょっと変わった人ではあるけどね。悪い人じゃないんだよ。ちょっとなんていうか、子供っぽいんだ」
「それはそうでしょうね、あの方はまだ幼体ですから……ですが」

仙が何かまだ言おうとしている時に扉がノックされたので、僕は返事をした。
侍従が涼鱗さんの訪れを告げたので、部屋に通してもらうよう伝えた。

「薫……アイデンだったの?今の。すごかったね」
「まさか研究所まで?」
「ああ、すごい威圧を感じて……上を見上げたら黒い龍が見えたよ。あいつ体がまた成長したようだね。ますます力が強くなってるようで、恐ろしいよ」

そうこうするうちに僕と翠の着付けは仕上がり、涼鱗さんと共に客間に向かう。

「カジャルさんは……」
「ああ、今日は蘭紗からの要請で港の方の視察に同行しているんだ」
「そうだったんですか、では二人は一緒に今港なんですね……待つのは不安ですね」
「うむ……しかし今は天気も落ち着いているからねえ、まあ大丈夫だよ」

涼鱗さんはにこっと笑って僕に手を引かれて歩く翠にも笑いかけた。
翠も嬉しそうだ。

「この子は……なんだか気品を感じるね。この前まで孤児だったなんて誰が思うだろうか」
「……甘えん坊ですよ?」
「そうか……翠、母上にはたくさん甘えるんだよ?そりゃもうベタベタに甘やかしてもらってくっついて離れないでいたら良い、そしたら君の心は安定するよ」
「はい、りょうりんさま」
「……」

僕は涼鱗さんの言葉に何故か涙が出そうになってしまって困った。

「ああ、薫様」

客間の前には護衛と2人の侍女がいた。

「どうしたの?」
「普通にお茶をお出ししたのですが、龍族にはなにがおもてなしになるのか、わかりません。何がよろしかったんでしょう?」
「んと……お茶じゃだめなの?」

僕は面食らった。

「いやいや、人の形態を取ったら私らとなんら変わりないよ、普通に茶を飲むし食事もすればお酒も飲むんだから、それで良いんだよ?」

涼鱗さんの言葉に侍女たちはホッとし、顔を見合わせてから頭を下げて2、3歩下がった。
僕達は護衛が開けてくれたドアから客間に入り、ソファを見ると、アイデン王がお付きを2人従えてドデンと座っていた。

「やあ薫くん!さっきごめんねえ、まさかさ……お城の屋上にお風呂あるなんてね!すっごい良い考えだよね、僕もほしくなったよ、ねえ、じい作っておいて、ねえ?」

アイデン王は後ろを振り向き『じい』と呼ぶお付きにおねだりを始めた。
しかし『じい』は表情を変えず、そしてアイデン王にうなずきもせず、こちらを見て丁寧に礼をしてくれた。

「先程は不躾な事をいたしまして、うちの王が……」
「いえ、門がわからなかったのでしょうから仕方ありませんしね……あは」

僕はしどろもどろだ。
威厳のある龍族の長老じみた人に、どう話せばいいのかイマイチ掴めないんだもん……


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