狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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透明な花2

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「はい、私はエルフの末裔でございます、混血ですが」
「不躾なことをいきなり聞いてすまなかったね……つい……驚いてしまって」

見ると耳が尖ってます。
もう一度言います、尖っていますよ!

「ラージ先生、お久しぶりです」
「カジャル様、お久しぶりでございます、この度はご結婚おめでとうございます」
「……ありがとうございます」

カジャルさんが照れています。

「なあに?カジャル、知ってたの?先生のこと」
「ああ、俺の子供の頃からいらっしゃるからな」
「ちょっと……エルフ族がいるなんて……私知らなかったんだけど……なんで教えてくれないの」
「いや……そういやエルフ?ぐらいの認識しかしてなかった……から」

カジャルさんはなんだか居心地悪そうだ。

「そんなにエルフが珍しいですか?」
「そりゃそうですよ! もう何百年も姿をみてないと各国では言われているんですからね!それなのになんで普通に暮らしているんです、紗国で」
「私は紗国生まれですからね……紗国から出たこともありませんし……自分では紗国人のつもりでございましたよ」

ラージ先生は穏やかに微笑んだ。

「ご両親は?」
「母がエルフでして800年前に亡くなってます、父は紗国の狐族でした」
「……え、800年前……あなたはいくつなんです?」
「私は850才です」

さすがなのである、ファンタジーの定番出ました。
エルフの長寿!

「な、なるほど……同年代にしか見えずに申し訳ない、なんだか態度を改めるべきだと感じました……ラージ殿」
「滅相もございません、王族の方にそんな……やめてください」

丁寧に頭を下げる涼鱗さんに、ラージ先生はおろおろとしている。
ふと気づくと手にふわっとしたものが触った。
下を向くと翠が遠慮がちな笑顔で僕の手を握っている。

「翠……学校どう?楽しい?」
「うん、みんな優しいよ、お勉強はみんなでするの」
「うんうん、僕も学校行ってたし、蘭紗様も学校行ってたんだよ、だから翠もお勉強頑張ってね」
「うん、頑張るね」

満面の笑みになった翠をつい抱き上げて頬をスリスリしていると、視線の痛さに気づいた。
皆がこっちをじっと見ている。
しまった……やりすぎた……。

「王妃様、翠紗様は大変優秀でいらっしゃいますよ、お母様がこのように手厚く心を癒やされたからでしょうか、大変素直で勉学に前向きでいらっしゃいます」
「そうですか……翠のことよろしくお願いしますね」

僕は翠を地に下ろすと頭を撫でて、他の子の方へ背中を押してやった。
留紗がニコッとして翠の手を握ってあげている、翠は嬉しそうに握られた手を見つめた。
留紗はいい子だな……

他の子に目をやると、僕のことをじっと見たり隙間から見たりコソコソ話している。
めずらしいよね……異世界人だもの……

「ああ、先生……授業の途中なのに気軽に手を振ったりして申し訳ありませんでした……お邪魔をしてしまいましたよね」
「いえ、そのようなことはございませんよ、この時期にしか見れないものを見に行く途中だったのです」
「この時期にしか?……それは何なのでしょうか?」
「スレイスルウという花です、秋に森の中でしか咲きませんが、その群生地がこの先にございまして、そのスレイスルウの花の観察と標本を取るのが本日の授業です」
「スレイスルウ……」

初耳だ……

「どんな花なのかわからないけど……あとで見せてね翠、待ってるからね」
「はい、おうひさま」

翠が嬉しそうに答えてくれた。

ラージ先生は「それでは」と言って、また皆を引率して森の方へ歩いていった。
翠は一度だけ振り向いて僕の顔を確認して安心したように笑顔になった。

「ねえ……カジャル……それじゃそのスレイスルウってさ……君も授業で見たことあるの?」

涼鱗さんの問いに、カジャルさんは頷いた。

「ああ、スレイスルウは秋の嵐時期のちょっとした晴れ間にしか花が開かないんだ。少しでも雨が降ると閉じてしまうんだよ、だからこういうちょっとした晴れ間に、他の授業していても皆で出発して取りに行ってたな……」
「で、その花の特徴言ってみてよ」
「んと……」

涼鱗さんがすごく真剣な顔でカジャルさんに詰め寄っていた。

「わざわざ授業に組み込まれるんだからねえ……何か理由があるんでしょ?」
「そうだよ、スレイスルウは水色の手のひらぐらいの割と大きな花だが、雨に濡れると半透明になって透けるんだ。その透けた状態で咲いているスレイスルウを摘んで、切り口から出る水を集めると、滋養強壮の薬にもなるんだが」
「ちょっと待って……水色の半透明の花だって?!」
「そうだ、とってもきれいだぞ、硝子みたいに透けるんだ」
「……その、切り口から出る液って」
「ああ、甘くてジュースみたいなんだが、ひとしずく飲めば一日歩けるほどの元気が出るんだ、あれを知ってるだけで万が一の時の役に立つってことで、わざわざ取り組まれている授業なんだ……」

カジャルさんは涼鱗さんに詰め寄られて必死に答えている。

「……ねえ……それって……」

涼鱗さんは赤い目をきらりと光らせた。

「森のしずくだね」
「え?」
「森のしずくって……じいが言ってた……?」
「そうだ……エルフにしか採取できないと言われている伝説の甘露であり、伝説の万能薬だ」
「「ええええ」」

カジャルさんと僕が大合唱した「ええええ」に侍女たちも少し驚いたようだが、何事もなかったような顔で、テーブルにつくよう促された。
そうだった、食事しに来たんだった……

僕たちはとりあえず平静を装い、テーブルについて、アイスティーをごくりと飲んだ。
なんだかとっても喉が乾いたのだ。

「で、森のしずくって今となっては幻なんだよ。でもその、紗国で咲いてる花から取れるとしたら、これ……すごいんじゃないの?」
「だけど普通に使われているぞ?僑先生なんかよく調合に使っていると思うが……だから、先生の調合するものは効くのだろうか……」
「いや、それは……そもそも僑先生自体が優秀すぎるんだ……あの人みたいな医師はなかなかいないと思うが」
「確かに……」

僕たちは頷きながら出された食事に手を付けた。
柔らかな白いパンに、きれいな焼き目の魚のグリルと温野菜のサラダと、透明なスープだ。
スープは優しい塩味で、全く雑味がなくて料理人の腕の良さがわかる。
少し涼しくなってきた気候に合わせて温かいメニューにしてくれているのがうれしい。

「僕にはよく理解できないのですが……そのスレイスルウの花から取れる液が、伝説の森のしずくだったとして、何か問題でもあります?」

涼鱗さんが美しい所作でグラスを置き、僕の方をじっと見た。

「そりゃね、欲しがるだろう。世界中がね」
「……なるほど」

これ、気づいちゃいけないことだったんじゃないの?
とかちょっと思っちゃう。

「では、じいに聞いてみましょうよ、あ、僕がじいとか言っちゃ失礼だった……えと、前王弟殿下ですね……殿下は子供の頃、エルフから買っていたと言ってたんですから、そのスレイスルウから取れる液をなめてもらったら、同じものかどうかわかるでしょう?」
「それもそうだな」
「では、仕事が終わったら、伺うことにしようか……」

涼鱗さんは侍女の一人に先触れを出すようお願いした。

なんだかよくわからないけど……エルフが作る万能薬っぽいもの……
それが紗国にほそぼそと残っていたかもとすると、ちょっとワクワクしてくるよね。

僕は何がなんだかわからないけど、良い予感がして嬉しくなっていた。

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