狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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朝日の中で2 波成視点

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 そのまざりの子は、初めほぼ瀕死のような状態だったにもかかわらず、薫様の元に現れた奇跡『鳳凰』によって体が真新しく入れ替わったようだと書いてある。

私は苦笑して薫様を思う。
美しく輝く蘭紗様の横でいつも静かに佇んでいらっしゃる方だなと、はじめは思った。
だが、よく観察して見ると、その目は好奇心旺盛でよく動き、何かを見つけるたびにキラキラと輝いて、そしてその喜びを蘭紗様と共有なさりたくてすぐにその事をお話しになる。
その仲睦まじい様子に皆が思わず微笑むのだ。

以前は、蘭紗様は厳しい方だと思っていた。
年齢に似合わず自分を律することのうまい方で、王者にふさわしい風格の持ち主なのだ。
我が王として崇め誰もが尊敬する王だった。

だけど、薫様が来てから蘭紗様はとても優しげにおなりになった。
あのように力を抜き笑顔になられることも多くなると、周りの者らから余計な緊張が抜けて、今城はとても良い雰囲気だ。

そして、お嫁様がいらしたことにより、蘭紗様の体は安定しただけでなく能力が格段に向上した。
そして余剰の魔力のために苦しまれる事もなくなったのだ。
薫様のお力で、蘭紗様は変わられ、そして……紗国も盤石になった。

お嫁様の力はすごい……
まあ、私は……私にしかできない形で波羽彦様を支えて、阿羅国という子を再生させねばと、そう余計に思う。

書簡に目を戻すと、その後には夜の生活のついての質問が列挙されている。

……これに答えろというのだろうか……

僑先生は兄なのだ、兄に自分の夜の生活を話したがる弟がどこにいるのだ。
というか、研究者の目でしか私をみていないのだろうか?
ちょっとさみしいぞ……兄よ……

その書簡をたたみ直し、丁寧に箱に戻してから蘭紗様からの正式な書類に目を通す。
それには、跳光家六男・波成が阿羅国に嫁ぐことのあれこれが記してある。

まあ、私という存在が阿羅国と紗国を親戚同士にしたわけだ。
少しは役に立っているのかもしれない。

そして蘭紗様の書簡には短い文が付けてあった。
別紙にて走り書きのような、蘭紗様にしては珍しく正式でない文で、はじめは我が目を疑った。

『波成の背にも羽毛があるそうだが、それを動かすことはできるだろうか?息子の翠紗の羽毛は動かせるようだ。そしてそこをとても痒がっていて、現在軟膏を塗っているが、そういうことが波成にもあっただろうか?子供時代のことゆえ覚えていないこともあるだろうが、何か覚えているのならば、教えてほしい』

それだけ書かれている。

私はいつから……大国の王から気軽に私信を受け取るような身分になったんだろう……

「……でも……背中の羽毛か……」

私の背のちょうど肩甲骨あたりには確かに羽毛がある。波羽彦さまはそれが可愛らしいとおっしゃって、よくさわさわと触っておられるけど……

特にそこが痒くなったり、また、自分で動かしたりなどもしたことはなかった。

「確かに……変だけど……それについて軟膏が出ているということは……僑先生に見せているんだろうし、私からは何も言うことはないかな……だけど、お返事をしなきゃ……」

私はそれ以上何も考えず、一番最後に養父からの書簡を手にとった。

開いたとたん、懐かしい父の書斎の匂いがした。
少しだけ胸がツンとする。
内容は私への心配ごとばかりだ。

小さく声を出して笑った……懐かしくて。
まだ、1ヶ月と少ししか経っていないのに……

私の体がこれ以上大きくなれないとわかった時、父は世界中の医師に打診して私を連れ回り、色々と試してくれた。

あふれるほどの魔力がありながら、鍛えることのできない体では跳光の家業は継げない……

それを自覚してからは、一家の異端児の僑先生に師事するようになり、アオアイ学園の医学部に入学させてもらった。

父は寂しそうではあったけど、誇らしげでもあった。
私がやりたいことを見つけたのが嬉しいと言ってもくれた。
本当にあんなに愛情深い人が他にいるだろうか?と思う。

はじめから、あの人のもとに生まれるという選択肢をなぜ神は与えてくれなかったのだろう……

だけど、結局そのことが今回の波羽彦様との出会いに繋がって、そして紗国と阿羅国の架け橋にもなれたわけだ。
人生どう転ぶかわからないものだ。

「波成?」

静かにドアが開いて、寝ていたはずの波羽彦様が寝間着姿のまま入室してきた。

「波羽彦様!すみません、起こしてしまったでしょうか?」
「いや、別に物音もしなかったし……というかあれだね、いい香りだ。紅茶だね」
「はい、お飲みになります?」
「そうしよう」

波羽彦様は優しげな笑顔で私をギュッと抱きしめてから優雅にテーブルに付いた。
実は、私は紅茶を淹れるのが得意なのだ。
いつも父に淹れてあげていたから。

実験室にするつもりだったからここには簡単なキッチンもある。
そこでさっと湯を沸かし、紗国から送られてきた中で一番高級な茶葉を使って波羽彦様に朝の一杯を差し上げた。

波羽彦様は「ありがとう」と言ってから静かにお飲みになる。

「おいしいね。波成はお茶もうまく淹れられるし、できないことなんてないんだね」
「そんな!できないことだらけですよ?」
「そんなわけない……医学まで修めているんだからね」
「まあ、そっち方面は得意でしたけど」
「フフ」

波羽彦様の笑顔はどこか淋しげに見える時があったけど、最近は本当に心から笑っているのがわかる。
もし、その理由が私なら、こんなに嬉しいことはない。

「波羽彦様って昔から早起きでした?」
「ああ、元から朝は水くみしていたから、早かったが……さすがに暗いうちからなんてのは無いよ」
「ではなぜ?」
「そなたが横にいないことに気づいて目が覚めるのだ。となりが冷えて寒くてな」

波羽彦様が薄く微笑んで私を見つめるから胸がキュンとなる。

蘭紗様や涼鱗様みたいな……あんなふうな華のある美貌の人ではなくて、普通の男の人という感じなのだけど。
王族独特の覚悟のある雰囲気が波羽彦様を凛と見せ、とても素敵に見える。
私にとって世界一美しい人なのだ。

この愛する人と、なるべく長く一緒にいられるよう……神様お願いします。
私にもう少しだけ、寿命をください。

朝日が薄く差し込む部屋の中で、私は波羽彦様に抱かれて口付けを受けた。


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