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霊獣1
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「やはり!」
僑先生の叫び声が響いた。
歓喜の声とでも言おうか……
「ああ!やはり……翠紗様は麒麟だったのですね」
「きりん?」
僕は思いがけない単語を聞いて振り向いた。
え?キリンって、首が長い動物の?
僑先生は興奮状態にあるようで、瞳孔が開いてとっても怖い……
「待て、翠が麒麟であるというのか?だが……麒麟は幻の霊獣では?」
蘭紗様も戸惑っているようだ。
翠にではなく、『麒麟』という言葉に。
ああ、漢字の麒麟の方か……あの霊獣の。
「その幻なんですよぅ!」
僑先生はタタっと小走りに翠に駆け寄り、「怖くありませんよ」と言いながらそっと足先を触る。
翠はじっとして僑先生の指先を見つめていた。
「これをご覧ください。足の付根には少し鱗が見えますね、そして角、それから羽……先程私が調べていたのは、まさにこれでした。時折現れるまざりの子が一体なぜ生まれるのか、長年に渡り研究していた紗国の民がいましてね。その文献がそれなのです」
指し示すものは、先程僑先生がすごい勢いでページを捲っていた分厚い文献だ。
「王が生まれた年、また王が即位した年、そして王がお嫁様を得た年に、瑞兆として現れる霊獣ではないか?との記述があるんですよ」
「……そのような話を聞いたことがないが……」
蘭紗様は難しい顔だ。
「そうでしょう……その者は森の民なのです。正式な研究者ではありませんでしたので、それが公にされることもなく、ここにひっそりと納められていたのですよ」
「森の民……」
森の神殿を長年に渡り守り続ける一族だ。
神殿に仕える神官なのだが、厳しい掟があり基本的に一族の者、そして王族の者としか話してはいけないのだという。
生涯を修行に捧げ、神殿長と共にこの紗国の信仰を守ってきた人たちだ。
その中にまざりのことに気づいた人がいて、研究していた人がいたなんて。
「なるほど森の民……ならば王族と密接な関係があるな……王の誕生や即位、お嫁様などに敏感に感じる者がいてもおかしくない。しかし、まざりがどこにどのような頻度で生まれるかはどのようにしてわかったというのだろう……それに、そもそも森の民がまざりを実際に見たことがあるのだろうか?森を出ることすらないというのに」
「蘭紗様の疑問はもっともでございます。実はこの文献は約5000年前の真湖紗王の時代のものです。真湖紗王は、阿羅彦が自分のお嫁様として異世界より渡ってきた瞬間を感じ取り、全力でお嫁様の捜索をしておりました。それは私などが言わなくても、蘭紗様やラージ先生、そして薫様も少しはご存知かと」
3人共顔を見合わせて頷いた。
真湖紗王は愚王として歴史に名を刻んだ悲しい人だ。
自分のお嫁様を捜索するために国を傾かせてしまったと伝えられている。
その行いは今でも、あの様にあってはならぬと反面教師の役割として存在している。
力を持つ者が何かを盲信してはいけないのだ。
だけど、真湖紗王のお嫁様は本当にいたのだ、間違ってはいなかった。
そのお嫁様は、新人くんだったのだから。
悲しいすれ違いがこんなにも尾を引いていることに胸が苦しくなる。
僕はそっと翠に近寄り、ベッドの縁に腰を掛け、安心させるように背中をさすった。
翠は顔をそっと寄せてきた。
若草の匂いがした。
「そしてちょうどその時、森の民の住まいの一角に、まざりの子が捨てられていたのです。その子は森の魔獣にかじられ、腕が片方しかない瀕死の状態でした。森の民らは必死に目の前の子を生かそうとしましたが、当時の城の医師らはまざりなど診る価値はないと、誰も治療をしてくれなかったそうです」
「ひどい……」
僕は唇を噛み締めて膝の上に子鹿を乗せて抱きしめた。
かわいい翠……
翠は大丈夫だよ、大丈夫だからね。
「しかし森の民の必死の看病でなんとか一命をとりとめたその子は、『栄』と名付けられ一家に大事にされたそうです。そしてその事でまざりのことに興味を持った森の民らは、当時の王である真湖紗王に直談判をして、まざりのことを研究させてほしいと願い出たそうで、そこから4代に渡ってまざりの研究がされていました、しかし今となっては森の民らにもそのような記憶は失われていますでしょうが……この文献が城にひっそりと置かれていたのは、真湖紗王が主体で進められた研究だったからです」
そして、僑先生は文献をよいしょと持ち上げ、皆に見えるように図を示した。
「これです。この図を御覧ください」
見ると……それは今、僕の膝の上に乗っている翠の姿に似ていた。
「これ……」
「これは、真湖紗王の元を訪問した片腕のまざり『栄』が真湖紗王と歓談中、いきなり獣化した時の図です。関連があるのです。この子は真湖紗王のお嫁様が渡ってこられた時の瑞兆としてこの世に出現したので、真湖紗王と接したことで獣化し霊獣の麒麟になったのです。……うちの弟である波成が、獣化の兆候を見せずに霊獣としての姿を見せなかったのは、波成は『先代王の瑞兆』としてこの世に生まれたからでは?と考えます」
皆がシーンとなり、自分が唾を飲み込む音がやけに大きく感じた。
「波成は……19才だったな……」
「はい、そうです、先代王の即位の年ですね、波成は生まれてすぐうちの子になりましたが……先代王の前に上がったことはありませんでした」
「……では……その文献や、そなたのカンがあたっていたとしたら、我の誕生の折に瑞兆としてもたらされたまざりの子もいたということか……」
「はい、そして翠紗様は、おそらく蘭紗様の即位に合わせての出現かと思われます」
「しかし……我はまだ王になって2年と半年だが……翠は推定では5才程度ではなかったのか?」
「いえ、翠紗様は霊獣ですから、人の姿で年はわかりません。ですから私も年齢の推定はできないと最初申し上げました」
蘭紗様は戸惑いながら視線を宙に舞わせた。
僑先生の叫び声が響いた。
歓喜の声とでも言おうか……
「ああ!やはり……翠紗様は麒麟だったのですね」
「きりん?」
僕は思いがけない単語を聞いて振り向いた。
え?キリンって、首が長い動物の?
僑先生は興奮状態にあるようで、瞳孔が開いてとっても怖い……
「待て、翠が麒麟であるというのか?だが……麒麟は幻の霊獣では?」
蘭紗様も戸惑っているようだ。
翠にではなく、『麒麟』という言葉に。
ああ、漢字の麒麟の方か……あの霊獣の。
「その幻なんですよぅ!」
僑先生はタタっと小走りに翠に駆け寄り、「怖くありませんよ」と言いながらそっと足先を触る。
翠はじっとして僑先生の指先を見つめていた。
「これをご覧ください。足の付根には少し鱗が見えますね、そして角、それから羽……先程私が調べていたのは、まさにこれでした。時折現れるまざりの子が一体なぜ生まれるのか、長年に渡り研究していた紗国の民がいましてね。その文献がそれなのです」
指し示すものは、先程僑先生がすごい勢いでページを捲っていた分厚い文献だ。
「王が生まれた年、また王が即位した年、そして王がお嫁様を得た年に、瑞兆として現れる霊獣ではないか?との記述があるんですよ」
「……そのような話を聞いたことがないが……」
蘭紗様は難しい顔だ。
「そうでしょう……その者は森の民なのです。正式な研究者ではありませんでしたので、それが公にされることもなく、ここにひっそりと納められていたのですよ」
「森の民……」
森の神殿を長年に渡り守り続ける一族だ。
神殿に仕える神官なのだが、厳しい掟があり基本的に一族の者、そして王族の者としか話してはいけないのだという。
生涯を修行に捧げ、神殿長と共にこの紗国の信仰を守ってきた人たちだ。
その中にまざりのことに気づいた人がいて、研究していた人がいたなんて。
「なるほど森の民……ならば王族と密接な関係があるな……王の誕生や即位、お嫁様などに敏感に感じる者がいてもおかしくない。しかし、まざりがどこにどのような頻度で生まれるかはどのようにしてわかったというのだろう……それに、そもそも森の民がまざりを実際に見たことがあるのだろうか?森を出ることすらないというのに」
「蘭紗様の疑問はもっともでございます。実はこの文献は約5000年前の真湖紗王の時代のものです。真湖紗王は、阿羅彦が自分のお嫁様として異世界より渡ってきた瞬間を感じ取り、全力でお嫁様の捜索をしておりました。それは私などが言わなくても、蘭紗様やラージ先生、そして薫様も少しはご存知かと」
3人共顔を見合わせて頷いた。
真湖紗王は愚王として歴史に名を刻んだ悲しい人だ。
自分のお嫁様を捜索するために国を傾かせてしまったと伝えられている。
その行いは今でも、あの様にあってはならぬと反面教師の役割として存在している。
力を持つ者が何かを盲信してはいけないのだ。
だけど、真湖紗王のお嫁様は本当にいたのだ、間違ってはいなかった。
そのお嫁様は、新人くんだったのだから。
悲しいすれ違いがこんなにも尾を引いていることに胸が苦しくなる。
僕はそっと翠に近寄り、ベッドの縁に腰を掛け、安心させるように背中をさすった。
翠は顔をそっと寄せてきた。
若草の匂いがした。
「そしてちょうどその時、森の民の住まいの一角に、まざりの子が捨てられていたのです。その子は森の魔獣にかじられ、腕が片方しかない瀕死の状態でした。森の民らは必死に目の前の子を生かそうとしましたが、当時の城の医師らはまざりなど診る価値はないと、誰も治療をしてくれなかったそうです」
「ひどい……」
僕は唇を噛み締めて膝の上に子鹿を乗せて抱きしめた。
かわいい翠……
翠は大丈夫だよ、大丈夫だからね。
「しかし森の民の必死の看病でなんとか一命をとりとめたその子は、『栄』と名付けられ一家に大事にされたそうです。そしてその事でまざりのことに興味を持った森の民らは、当時の王である真湖紗王に直談判をして、まざりのことを研究させてほしいと願い出たそうで、そこから4代に渡ってまざりの研究がされていました、しかし今となっては森の民らにもそのような記憶は失われていますでしょうが……この文献が城にひっそりと置かれていたのは、真湖紗王が主体で進められた研究だったからです」
そして、僑先生は文献をよいしょと持ち上げ、皆に見えるように図を示した。
「これです。この図を御覧ください」
見ると……それは今、僕の膝の上に乗っている翠の姿に似ていた。
「これ……」
「これは、真湖紗王の元を訪問した片腕のまざり『栄』が真湖紗王と歓談中、いきなり獣化した時の図です。関連があるのです。この子は真湖紗王のお嫁様が渡ってこられた時の瑞兆としてこの世に出現したので、真湖紗王と接したことで獣化し霊獣の麒麟になったのです。……うちの弟である波成が、獣化の兆候を見せずに霊獣としての姿を見せなかったのは、波成は『先代王の瑞兆』としてこの世に生まれたからでは?と考えます」
皆がシーンとなり、自分が唾を飲み込む音がやけに大きく感じた。
「波成は……19才だったな……」
「はい、そうです、先代王の即位の年ですね、波成は生まれてすぐうちの子になりましたが……先代王の前に上がったことはありませんでした」
「……では……その文献や、そなたのカンがあたっていたとしたら、我の誕生の折に瑞兆としてもたらされたまざりの子もいたということか……」
「はい、そして翠紗様は、おそらく蘭紗様の即位に合わせての出現かと思われます」
「しかし……我はまだ王になって2年と半年だが……翠は推定では5才程度ではなかったのか?」
「いえ、翠紗様は霊獣ですから、人の姿で年はわかりません。ですから私も年齢の推定はできないと最初申し上げました」
蘭紗様は戸惑いながら視線を宙に舞わせた。
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