狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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それぞれの思い 涼鱗視点

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 柔らかな日差しが舞い降りてきて、目が覚めた。
横に短い茶色の髪の愛しい人が静かな寝息を立てている。
短い耳も同じ色でとても可愛い。
可愛いというと怒るんだけどね。

私は静かに身を起こし、愛する妻の寝顔を見ながら今日の段取りを考える。

昨日は目まぐるしい日だった。

ヴァヴェルの先代王の王弟殿下から、阿羅彦とお嫁様についてのことが聞けた。
これは大きい。
今までどうして、彼らから話を聞いてみようと思ったことがなかったのか悔やまれるほどだ。
考えてみたらわかるのに。
彼らの寿命は長く果てしない。
先代王だって亡くなった理由は寿命ではないのだ。
……確か、龍族独特の病気だった気がする。
つまり彼らは歴史の生き証人なのだ。


だが、私は頭の中にその選択肢はなかった。
それはおそらく自分の苦手意識からだろうが……
というか私は龍族が苦手だ。
蛇族の私達と龍族はおそらく太古の昔は同じ種だったと思うのだが……どう考えてもあちらが上位種なのだ。
劣等感を感じるのにこれ以上のことはないだろう。

「ふう……」

私は小さく溜息をつく。

その話の後、アイデンがアオアイ王国にいる阿羅国の悪玉たちに事情を聞くために、背にカゴを乗せその中に跳光家の家長を入れて飛び立った。
あんな力技、目の前で見せられたら……降参だと手をあげるしかない。
これからは意地を張らず彼らに頼れるところは頼ることにしたいと、さすがに思った。

それに、私はアイデン以外の龍族と会ったことがなかったのだけど、王弟殿下の威厳の前では私などいかに小さい存在かと思い知るのにちょうどよかったと言える。

私もまだまだ若いのだ。
老齢の彼らに会えること自体が素晴らしい体験なのだと考えねば……

しかしその後、直前に元気な姿を見たのに翠紗が倒れたとの一報で肝が冷えた。
あの時の薫は物も言わずに走り庭に出るやいなや飛翔し、近衛を慌てさせていた。
防御壁も張らずに飛ばせたことを後からきっと叱責されるに違いない……気の毒だ。

それから翠紗が「蘭紗の即位に現れた瑞兆」であり、「霊獣の麒麟」であったとことが知らされた。
これには呆然とするしかない。

紗国という国はどこまで奥深いのか。
こういう伝説や神話の世界のことを、いともたやすく本当の事ですよと目の前に突き出してこようとは……
カジャルの近くにいて、この国のことを研究したい……そう思って国を出た私だが。
それはおそらく正解だった。
こんな面白い国、ほかのどこを探してもないだろう?

そしてなにより薫だ。
彼が来てからすべてが順調に回りだした。
そう思えてならない。
実際、そうなのだろう。
神が何を思って魂を半分にし違う世界で育つのを待って再会させるのか……その真意はわからないが……
薫がこの世界で育った人ではないからこその考え方が、今や世の中を動かしている。

カジャルも言っていたが……
孤児院に赴いたとしても、それは視察なのだからサラッと確認して院長と話して終わりであっただろうし、そこに問題点を感じることもなかったのではないか。
それは赴くのが王族や貴族なので、下々の暮らしを理解していないからだ。
何が普通なのかわからないと、おかしな事にも気づけないだろう。

だが、薫はそれをきちんと把握していたし、直感だったとはいえ、中の視察まで行いきちんと問題点をあぶり出した。
その上、葬り去られようとしていた「蘭紗の即位に現れた瑞兆」を助け出して連れ帰った。

これはきっと偶然ではないのだ。
彼ら3人に鳳凰を添えて、それが完璧な紗国の王のあり方としたら。
今までの、短命であったり魔力がうまく制御できずに霧散するしかなかった歴代の王を、悲しく思う。
彼らにも、瑞兆の霊獣が3度訪れていたはずだが、知らなかったゆえに気づけずそれに会うことは叶わず。
お嫁様は阿羅彦の国に攫われてしまって会えずじまい。

彼らの無念さを思うと、神は一体何を試しているのか?と、考えずにいられない。

しかし、今私らが目にしている蘭紗と薫と翠紗と鳳凰の姿こそが完全な紗国の王のあるべき姿だとすると。

今回はじめてこのように完成したのでは?とも思う。

同時に、真湖紗王のことも興味深いのだ。
彼はかなり昔の人物だが、愚王として世界中で有名だ。
戯曲家が題材にするほどに。

その真湖紗王は、実は愚王などでは無かったかもしれない。
そう思えてくるのだ。
実際、この地に降り立ったお嫁様の気配を察し、探していた。
そのお嫁様である阿羅彦は当時、(これはおそらくだが)淫魔に捕らわれている最中であった……それにあの森の中にいたとすれば、それはもう、探すのは不可能であっただろうと思う。

そして麒麟である「栄」にきちんと会えていたのが驚愕だ。
王がまざりの子を近くに寄せるなど、奇跡であっただろう。
たまたま森の民がその子を見つけ保護したからこその、出会いだ。
だが、麒麟であったとわかった後も、栄が自分の瑞兆としてこの地に降りたのだということまでは、わかっていなかったと思うが……

真湖紗王の視線はあくまで自分のお嫁様に向いており、その他のことを疎かにしすぎたのだろう。
だからこその「愚王」の悪名であったのだ。
国を傾かせたということは事実なのだから。

「ん……」

カジャルが寝返りをうって私の手を探している。

「……カジャル」

私はカジャルに口付けをしてやわらかい唇を吸い上げた。

「おはようカジャル、もう朝だよ」
「ん……もう?」

眠そうに半目で窓を見やる君はいつまでも少年みたいだね。
最近また鍛錬をはじめて少し精悍になった頬を撫でる。
なんのために鍛えているのか不思議だ。

扉がノックされ、侍女の声がした。

「涼鱗様、蘭紗様から本日の昼食をご一緒にとお誘いがございました。ヴァヴェルの前王弟殿下とご一緒だそうです」
「ああ、わかった行くと返事をしておいてくれ。それから朝食の用意を」
「かしこまりました」

カジャルがあくびをしながら起き上がり、私に腕を巻きつけて頭を胸にぎゅっと押し付けてきた。
朝はいつもこうだ……
獅子族の習性なのだろうか……

かわいいねぇ。

「そんなふうに甘えられると、君をベッドに縫い付けたくなるんだけどねえ」
「え……朝からなんだよ……」
「朝でも昼でもいいじゃないの」
「よくねえよ、起きるぞ」

言葉ばかり威勢が良くて、緩慢な動きで立ち上がったカジャルは寝間着をはらりと脱いで着替えようとする。
王族と暮らしていたにもかかわらず、彼はまるで侍女たちの助けを必要としない。
自分のことは自分でするのだ。

背中の筋肉が動くのが美しい。
細身なのにしっかりと鍛え上げられていて、本当にしなやかでキレイな獅子だね。

「そんなに見るなよ……もう飽きてるだろ、毎日見てるんだから」
「飽きるわけないじゃないの」
「そうか?」
「なら、カジャルはどうなの?私のこと飽きたの?」

カジャルは目を見開いて私を見つめた。

「そんなわけないだろ……お前みたいな綺麗な男はそういない……」
「ふふ……ありがとう」

私はおかしくなって笑いながらカジャルを後ろから抱きしめた。
張りのあるさらりとした肌触りで、心地いい。

「着替えろよ……お腹すかねえの?」
「起き抜けによくそんな食欲があるねえ」
「あるだろ普通……おまえジジイかよ」
「君と一つ違いのはずだけどねえ」

カジャルの憎まれ口がかわいくてついからかってしまう。

「これどうだ?」

カジャルが私の着替えを持ってきた。
一緒に住むようになってからは、私の身の回りのことをカジャルがあれこれするようになった。
元々従者の教育を受けていたカジャルにはお安いご用なのだろうが、私はそれが嬉しくてたまらない。

「うん、いいね。じゃあ着せて」
「はいはい旦那様」

嬉しそうに微笑んで着せてくれるカジャルを愛おしく見つめた。

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