狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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僕たちの気持ち1

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 あれから10日経った……紗国の秋はそろそろ終わりを迎えようとしている、そんな時期だ。

「先代のお嫁様はまだ、名前も教えてくれないの?」

僕の質問に仙は困ったように微笑んだ。
仙のお母さん達は呼び出しを受けた翌日、里を飛び出るようにして城に戻ってきてお嫁様のお世話しているという。

とっくに侍女を引退していて、里でゆっくりと暮らしていたというのに、人生設計が無茶苦茶になったよね。

彼女達は普通の侍女達にはない知識が詰め込まれているため、どんな世界から来ても、言葉や文化などある程度は対応できるというけど……

と、聞いてそういえばと思った。

僕は言葉に対して何の支障もなかったなあって……
これは特殊能力でこの様に普通に喋れているのか、それとも元々こちらの言語が日本語と同じだったのか……
考えても答えは出ないけど、漢字が使われていることからも日本語と同じか似ていると考えて良さそうだな……とは思う。
都合が良すぎる気はするけど、そこで躓くのはきついから本当に良かった……

「母たちはまだ、何かをお聞きするような段階ではないと思っているようです」
「そうなんだね……」

今日は研究所のお休みの日で、涼鱗さんとカジャルさんは夫婦でカジャルさんのご実家に行っている。
そして翠は学び舎なので……自動的に僕は暇なのだ。
なので、各地からの嘆願書などに目を通している。
王妃である僕の元には各地から様々なお願いが舞い込むのだ。

「侍女長、よろしいでしょうか? 先代のお嫁様付きの侍女方が、薫様にお会いしたいと」
「え……」

里亜の言葉に、仙の眉間に皺が寄った。

「うん、わかったよ」

僕は仙の変化に気づかないふりをして彼女たちを部屋に通した。
流れるように美しい動作で4人が入室してきて、丁寧な自己紹介と礼を受けた。

「わざわざ会いにきてくれてありがとう。そちらのお嫁様はどうかな?」
「はい……それが……さきほどこの世界の事や、成り行きなどの告知を受けられまして。ようやく異世界にいることを認識されました……」
「そうなの?」

仙の母親が娘とよく似た顔をあげて、困ったように笑顔になった。

「なんでも、薫様となら話してみたいと呟いておられたのです」
「え……ほんとう?」

僕は身を乗り出して仙の母親をじっと見た。

「はい。ですので、薫様さえよろしければ……ということになりますが。少しお時間をいただけたらと思いまして」
「うん、もちろんだよ。僕も話したいと思っていたんだ」
「ああ、よかった」

4人の侍女たちは顔を見合わせて喜んだ。

「今からでもいいのかな?」
「はい、今なら起きておいでです」
「じゃあ、いこうか」

僕は立ち上がって仙を見た。
仙はじっと自分の母を見ていたが、すっと動いて僕に羽織を持ってきた。
このところ随分と気温が下がってきて部屋から出るときには羽織が手放せないのだ。

「では、お供いたしますね」

仙が静かにささいた。

「うん、お願いするよ」

僕は仙だけを連れて明かりの灯された廊下を歩く、その後ろには4人の先代の侍女たちが静かに続いた。
雨の降る音が響き、昼間なのに日も差さず、ひんやりとして……心の重さを現しているかのような陰鬱さだ。

「薫様がいらっしゃいました」

次の間から寝室に向けて、仙の母はしずかに障子の向こうに声をかけた。

「うん、どうぞ」

はっきりとした男の人の声が聞こえて、僕だけが中に入るよう促された。

仙は自分もと入りかけたが、母に制され押し黙った。
僕は仙に「大丈夫だよ」と頷いてから、一人で入室していく。

「失礼します……お初にお目にかかります、紗国王妃の薫と申します」

部屋の中は薄暗くて明かりもベッドから遠くに一つ置いてあるだけだった。

「ああ……君」

ベッドには大きなクッションを背に座っている痩せた男の姿があった。
気だるげに背をもたれさせ、今起きたばかりのような表情でこちらを見ている。

「君も、そうなんだって?こっちに連れてこられたって聞いたけどさ」
「連れてこられたというか……運命ですね。誰かの仕業ではなくて、世界を渡ってきました」

痩せた男は、フッとさもおかしそうに笑って首を弱々しく振った。

「日本とか言うところから来たんだって?そんな名前聞いたこともないんだけど」
「では……あなたはどこから?」
「僕は、ウルってところに住んでいたよ」
「では、地球ではないところなんですね……」
「ちきゅう?」

不思議そうな顔をして聞き返された。


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