狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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僕たちの気持ち2

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「ええ……僕が住んでいた星の名前です」
「星?わけがわからない……」

吐き捨てるように言って、溜息をついた。

「で、君は連れてこられたここでおとなしく王妃やってるんだね。男なのに。王妃を」
「そ……うですね……そこの部分は僕でもひっかかってはいますが……この国の王は代々お嫁様を待っていますから、とても大事にしてくださって。僕は王の蘭紗様を愛しています」

目を見開いて僕を凝視してきた。
その目が血走っていて……正直怖かった。

「愛しているだって?バカバカしい……誘拐犯人を愛するなんて馬鹿な子」
「いえ……紗国は誘拐したわけではなく」
「何が違うっていうんだ?勝手に連れてこられたんだよ僕達は! こんな世界をまったく知らずに普通に暮らしていたのに、いきなり……何も断りもなしに! それが誘拐でなくてなんだっていうんだ……だけど、こっちの人は知っていて待ってるんだ。その待つ思いが僕たちをここに呼んでいるんじゃないのか?」

僕は何も言い返せずに言葉をつまらせた。

「……人々の待つ思いが……僕たちをここに呼んだかどうかは……わかりませんが……」
「しかも受け入れに失敗されて、もう一度誘拐されて、ずっと監禁とかさ……なんだよこれ。どう考えたらいいわけ?」
「……」
「しかも麻薬みたいなの使われてたっていうじゃないか……どうりで頭がぼやっとしてたわけだよね、思考を止めさせられていたんだよ」
「ですが……今しっかりと話されていて……」
「うん、だけどね、僕の体は長い時間薬漬けだったからさ、もうそれなしには生きられないって言われたよ?あの医者に……ヤク中だよ!最悪すぎる。許せないよ、この世界を」

僕は拳を握りしめて震える手を抑えた。
この人は今、告知を受けたばかりで受け入れられないんだ。
この先穏やかに受け入れられるかどうかは……この人次第なんだろうけど。
周りにいる僕たちができることは……

「わかりますよ。この世界を恨む気持ちも」
「そう?じゃあ君も恨んでいるの?」
「いえ、僕は恨んでいません。ですが……僕の親友も偶然ですが……約5000年前にこの世界に転移していたことが最近わかったんですよ」
「え?きみの友だち?」
「はい、元いた世界で僕は友達と小さい頃から同じ学園で過ごしていたんです。幼馴染みでした」

痩せた男はぎょろぎょろと目だけを動かして頭の整理をしているようだ。

「え?同じ時代にいたのに、こちらでは……時期がずれていたってこと?」
「そうなんです。5000年前にこちらに転移した友達は、紗国から遠く離れた森の中に到着したようなんです。……そこで……ここからは憶測ですが、淫魔に囚われて百年近くを過ごして、そこから抜け出て自分で国を1から造りました」
「は?」

理解できないという表情の男を見て、まあそうだよねとしか思わない。

「とにかく、僕の友達からしたらここは敵国でした。ですので、長年に渡り紗国を手こずらせてきたわけです。彼らにとってみればお嫁様を奪うというのは……あるいはお嫁様を救うという意味もあったのかもしれませんが」
「ちょっとまって……その、君の友達ってのが僕を誘拐した犯人ってこと?だって5000年?経ってるんじゃ?」
「理由は詳しくはわかりません、ですが……ほんの数ヶ月に僕は彼の最期に立ち会いました。元の世界にいた頃の姿かたちとは似ても似つかない姿に成り果てていましたが……彼は淫魔との出会いにより、果てしなく生きる術をもらったのでは?という憶測があるようです。これは龍族から聞いたことです」

痩せた男はポカンと口を開けて呆れたように首を振った。

「今度は龍族?……まあ、いいや。ここはもう徹底的にそういう世界なんだね?」
「はい、それには慣れるしかないです」

僕も苦笑した。
痩せた男もおかしそうに笑った。

「その……君の友達が作った国が僕を誘拐して、19年も監禁していた犯人なんだね」
「はい、そうです。阿羅国と言います」
「阿羅国……ああそうだった、聞いたよその名前」
「阿羅国はいま、僕の夫である蘭紗様が戦いに勝って、新しい王様が為政者となって生まれ変わっています。今の阿羅国はもう、悪い国ではありません」
「そう……まあ……19年も年月があれば、色々変わるよね、こちらの事情も」
「その時に阿羅国は徹底的に捜索されたのですが……まさか、紗国にあなたがいるなんて」
「うん、ここ紗国っていうんだったね」

溜息をついて、疲れたように目を閉じた。

「……あなたには愛している方が……元いた世界にいらしたとか」
「うん、僕は17才だった。元いた世界では16で成人なんだ。一緒に暮らし始めたところでね。彼は今どうしているかな……とっくに新しい相手見つけているよね……それにね、愛情は残ってるんだけどさ、もう顔がね思い出せないんだ、うまくは……」

弱々しい笑顔が、痛々しく思えた。
好きな人の顔がうまく思い出せないほどの年月、この方は囚われていたのだと思うと、何とも言えない感情に見舞われる。

「君は?あちらに残してきた心残りはないの?」
「あるとすれば……妹ですね」
「妹か……」
「体が弱くてまだ小さかったんです。かわいがっていましたから。手術がうまくいったのか?とか、今はどうしているかとか……時折考える時もありますが」

僕はカーテンの引かれた窓を見た。
カーテン越しにも強い雨を感じる。

「でも、父や母、それに他の知り合いたちには、なぜかそれほど未練がないのです。もう一度会いたいとかそういう思いも特になくて、ただ、今僕は幸せですって……それだけは知らせることができたらいいなと思ったりはします」
「知らせる……か」

僕たちはじっと見つめ合った。
先程のような強い怒りはすでに感じない。

「たしかにそうだ。19年の歳月を取り戻せるわけではないんだ。戻りたいというよりも、伝えたい。それはそうだね」
「でもまあ、方法はわからないので、叶いませんけどね」
「……僕の名前はハリルだよ……もう僕を待っていた王様は死んじゃったらしいし、僕の寿命もそれほど長くないらしいけど……まあ、よろしく」
「ハリル……さま」

思わず差し伸べた手を、ハリル様も握ってくれた。
お嫁様同士の固い握手で、ようやく少し明るい兆しを感じられた。

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