狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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秋の終わり

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 僕は暖かな日差しで温められて目が覚めた。
目を開けると窓から朝日が美しく入り込み、部屋を照らしている。
窓のすぐ脇の止まり木にはクーちゃんが小鳥の姿でじっとしていた、寝てるみたい。

僕はベッドを抜け出して窓に近寄って開けてみた。
冷えた気持ちの良い風が入り込んで一気に目覚める。

「あー気持ちいい!」

僕は声に出して喜んだ。
だって……これようやく秋の嵐の時期が終わったんじゃ?

「起きたのか?」

ベッドを振り向くと、蘭紗様が寝そべったままでこちらを見ている。
うっすらと浮かべた笑みが光に照らされて彫刻のようにキレイ……

「はい、こんなに朝から晴れてるなんて!なんだかうれしくって!」
「そうだな、秋も終わりだな……」
「珍しいですね、蘭紗さまの朝がゆっくりだなんて」
「そうではなくて、薫がいつもより早く目覚めたのだぞ?」

蘭紗様はククッと笑いながら起き出して僕の方へ歩いてきた。

「寒くなっていくから、体調の変化には気をつけてくれよ」
「はい、蘭紗様も」

背中から抱きしめられて2人で窓の外を見た。
森の向こうに広がる城下町は起き出して、ポツポツと荷馬車や人の歩く姿が見えている。

「翠紗が子になったことの祝が、次々と届いているのだが、そなたも見るか?」
「どなたからです?」
「国内からだけではなく、他国の王族からのもだ」
「えー……」

そうですよね、王に子ができたんだから。

「知らなかったです……」
「我が一応目を通せる分は通したが……まだまだあるのだ」
「そうなのですか?そんなことまでするから仕事が増えるんですよ……初めから僕に任せてくれても良いと思います」
「なるほど……そうかもな……まあ起きたのなら一緒に朝食をとろう」
「そうですね」

僕たちは一度ぎゅっと抱き合ってからチュッとキスをして侍女たちを呼んだ。
顔をきれいに洗って口もキレイにしてさっぱりしたら、侍女たちはそれぞれ僕たちに着物を着せてくれて、そして髪を整えてくれた。

クーちゃんは相変わらず寝ているようなので、そのままにして、食堂に向かった。

はじめ現れたアオアイでは、クーちゃんは僕と毎日一緒にいようとした。
でも、紗国に帰ってからはこんな風に部屋の隅の止まり木でじっとしていたり、姿を消していたりすることが多くなった。
たぶん、紗国では僕の安全が守られているから安心しているんだろうなって感じる。

僕たちは翠の部屋の前で止まって中の様子を覗こうとした、まだ朝早いから翠は寝ているだろうけど、寝顔を見たかったのだ。
そしてそっと障子を開けると……中からニコニコした小さな翠が出てきた。

「翠!起きてたの?」
「はい、さっきおうさまとおうひさまが起きたので、起きました」
「えぇ?……」

この子にはどういう風に僕たちが見えるんだろうか……

「着物がぐちゃぐちゃだね……」

僕は乱れた着姿に苦笑しながら直そうとしたら、慌てて後から侍女が2人駆け寄ってきた。

「薫様申し訳ございません。翠紗様が私達の気づかぬ間にご自分で起きてお着替えされたようで……」
「え、そうなの?」
「はい、着物の場所おぼえました」

翠は小さな手をきちんと揃えてピシっと背筋を伸ばしたので、かわいくておかしくてプッと吹き出してしまった。
蘭紗様も僕の横に座って翠の頭を撫でた、愛おしそうに。

「翠は今日も学び舎でしょう?」
「うん」

抱き上げて頬にキスをして一緒に食堂に歩き出すと、翠は蘭紗様をじっと見つめた。

「おうさま……僕、飛び方と戦い方をおしえてほしいです」
「え?」

僕は驚いて足を止めてしまった。

「僕はおうさまを守るためにお空から来たって教えてもらって、だから、つよくなりたい……」

考えもしなかった翠の言葉に僕は言葉が出ない。
蘭紗様は僕の腕から翠を抜き取ると、肩に乗せた。

「わあ、高い!」

喜んではしゃぐ翠に蘭紗様は優しく話しかけた。

「翠紗、そなたは我の大事な息子だ。瑞兆として現れた霊獣であるとか、そういうことは外向きの理由に過ぎない……と、この説明ではわからぬか……つまり、翠紗そなたが戦うようなことは起きない、このままゆるりと暮らしていくのだ。強くなる必要はないのだよ」
「でも……僕お空も飛びたいし強くなりたい……」
「誰かに何かを言われたのか?」

その言葉にハッとしたけど、翠は「んー」と言って考え込んだ。

「言われた?……じゃなくて僕、強くなりたいだけ」

それからじっと蘭紗様を見つめた。

「そうか……わかった。少し考えてみよう。だが、まだ十分に体も育っておらぬのだ。何をするのももう少し大きくなってからでないと駄目だぞ。たくさん食べるのだ。わかったな?」
「はい!」

蘭紗様は翠をそのまま肩に乗せて食堂まで行って、給仕たちを驚かせたけど、朝食はとても楽しく3人でとった。

その後、翠は学び舎にはまだ早い時間だったので、僕と一緒に執務室に繋がる奥の部屋に通された。
この部屋に来るのは初めてだった。
そしてそこに山と積まれている贈り物に驚いた、かなり広い部屋なのに窓も全て覆われるほどの量だ。

「え……まさかこれ全部?」
「そうだ」
「うそー」
「これ、なに?」

繋いだ手を引っ張られて下を見ると、不思議そうな顔をした翠が見上げている。

「えとね、これ、翠が僕と蘭紗様の子供になったお祝いなんだよ、誕生日のお祝いみたいな感じだね」
「たんじょうび?」

コテンと首を傾げた。
そうか……誕生日という言葉にピンとこないのか……

「翠が生まれたことをお祝いする日だよ。翠を見つけた日を翠の誕生日にしようね」
「え……僕が生まれた日?」
「そう、僕たちの子供として生まれた日ってこと、ね?」

蘭紗様も翠に微笑んで頷いた。

「そなたが我らの子になった日を祝って、このように贈り物が届いたのだ。これは皆、そなたのものだぞ」
「え?」
「この前は龍の鱗をいただいたでしょ?こういう贈り物がたくさん他にもあったってことだよ」
「すごい……ほんとうに?」

目をまんまるにして驚く翠にクスリと笑って「ほら」と促した。
翠はためらいがちに足元にあった平たい木箱を開けた。
中にあったのは赤い着物だった、美しい光沢のそれはひと目で高価な布で作られた事がわかる。

「わあ」
「きれいだね」

僕はそれを出して翠にあててみた。
くすんだ金髪と黄緑色の目に、赤い着物はよく映えた。
こちらの世界では赤はおめでたい色とされていて、お祝いにおくる定番だと聞いていた。

「サイズもぴったり!かわいい!」
「それは……瀬国からのようだな、それに合わせてくつや羽織、そして肩にかける金細工の飾りなども一式あったぞ」
「なるほどこれは……さすがに骨が折れますね、全部見るのは……」
「だいたい見たが……侍従に任せた部分もある。この着物などはさっそく使ってみるのも良いかもしれんな。来月の食事会などに良さそうだ」
「そうですね。他にも装飾品が多いのです?」
「そうだな、だいたい身につけるものだが……中には希少な蝶の綿で作った布団一式や、生地などもあった。あれは良いものだ、侍女に言いつけ出すとするか。これから寒くなっていくから蝶の綿は役立つだろう」
「僕も初めてだからこちらの冬がどれくらい寒いか見当つかないんですけどね」

贈り物を解く手を止めて振り向くと、蘭紗様は意外そうな顔をして見つめていた。

「そうだったな……何かもう……ずっと一緒にいるような気分になっていたが……そなたは春の終わりにこちらに来たばかりであったな……」
「はい」

2人で見つめ合ってクスリと笑った。
それを見て翠も嬉しそうに笑顔になっている。

笑うと顔が丸く感じられる、少しは幼児らしくお肉が付いてきてくれたのがうれしいな……

「では、翠、そろそろ学び舎に行く準備をせねばな」
「はい」

元気よく返事をした翠は侍女らの方に歩いていった、そして振り向いて、にっこり微笑んでから「行ってきます」といって部屋を出ていった。

「行ってきます……だって!かわいい……」
「そなたは……翠が何をしてもかわいいかわいいだな」
「あれ?蘭紗様は思わないんですか?」
「思うが……薫も同じだけかわいい」
「え」

僕はボッと頬が熱くなるのを感じた。
朝からそんな恥ずかしいこと……

「ふ……かわいいじゃないか、ほら頬が赤くなっているぞ」
「ちょっと蘭紗様……」
「熱い!熱いねえ!ここだけ夏なの?」

声の方を振り向くと涼鱗さんが立っていた、あきれた顔で。

「お前は人のことが言えるか?」

蘭紗様はしかめっ面をして言い返す。
こういう感じって幼馴染感があるよね……

「ああ、言えないよ?だからなんなんだ?」
「もういいよ……で、何かあったのか?」
「ああ、これだ。今朝早く書簡が届いたようだぞ」
「どこからだ」
「アオアイだ」
「ん……」

蘭紗様は一瞬言葉に詰まったようだが、溜息をついて立ち上がり、受け取り広げた。
しばらく無言で読んでいたが、くるりと振り返り、僕の頬にキスをした。

「執務室に戻るが……そなたどうする?」
「今日は研究所もありませんし、このまま侍女たちとこれを仕分けますよ」
「そうか、では任せよう、無理せぬようにな」
「はい、蘭紗様お仕事頑張ってくださいね」

フッと笑顔になった欄紗様は、涼鱗さんと一緒に執務室に繋がる扉をパタンと締めた。



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