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翠の舞
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夜中降り続いた雪は朝には止んで、景色を白銀に輝かせる朝日が美しい日になった。
華やかに飾られた祭壇は、そこだけが春のように暖かそうに見える。
今日は翠の発表会なのだ。
子どもたちが自分で飾り付けたというそれは、伝統的な紗国の飾りの作り方を学ぶための授業でもあるらしい。
僕はそれを見て、七夕まつりの飾り付けに似ていると思った。
卒業する上級生が主役なので、下級生である翠は今回踊りだけしか出番がないが。
展示物を見て回っていると、翠の書が豪華な掛け軸になって飾られていて思わず微笑んだ。
かわいらしい翠が一生懸命書いた、それは立派な作品だ……などと思うのは親だけかもしれないけど。
元気がよい字でとても好ましく感じるんだよね。
蘭紗様は最後まで僕と一緒に行こうとしていたけど、どうしても抜けれない用事ができてしまったようで、困り顔で「どうか翠の姿をスマホで動画を撮っておいてくれ」と言ってすごすごと執務室へと戻って行った……
ってそれ……まるで日本で暮らす家族みたいな会話だよね!
学び舎に通う生徒達は紗国の全国各地から集まっている。
普段は親と離れて寮に住む子もいるのだが、今日は皆家族が見に来ているようで、子どもたちは張り切っているようだ。
ふと見ると、お母さん方が10人ほど集まってこちらを見ている。
ああ、僕は男だけど母だから、ああいう輪に入った方が良いのかな……
女子の集団……ちょっと苦手だなと思いながら微笑んでみた。
その僕の笑顔に皆驚いた顔をしていたが、くじけずに近寄ると今度は礼をして跪いたので、僕は慌ててしまった。
「やめてください、同じ親ではありませんか。ここでは平等ですよ」
「王妃様……恐れ多いことです。私共は貴族ですらありませんので」
「顔をどうぞ、あげてください。同じ親同士、お話ができたらうれしいですよ」
おずおずと顔をあげた母親たちは、みな若く、目が輝いていた。
貴族でないのなら、それぞれが普段はなにかの労働をしているのであろうし、きびきびと行動している人たちなんだろなと想像できる。
「皆様、どちらからいらしたのですか?」
「私はこの城下町で暮らしております」
「私達3人は港の方なんですよ」
「私達は西の湖の方です」
口々に出身地を教えてくれて、僕は必死に頭の中で地図を組み立てた。
本当にバラバラなのだ。
「なるほど、遠くから今日のためにいらしたのですね」
「はい、子供の姿を見るためですし」
港町のお母さんたちは日に焼けていてとても健康そうだ。
体格もよく、力仕事もどんとこいなのかも、などと想像してしまう。
これは絶対に僕よりもたくましいよね……
「王妃様……このたびは、お子様おめでとうございます。大変優秀で美しいお子様で、私達も我が子が翠紗王子殿下の同窓となれたことを、とてもうれしく思います」
「ありがとう」
翠のことを美しいなんて!
本当にそうなんだけどね!
「皆さんのお子さんも、とても優秀なのでしょう。ラージ先生から伺いましたよ」
「まあ……」
若い母親達は恥ずかしそうにしながらも誇らしげだ。
「展示はご覧になりました?」
「はい、見ました。翠の書もあってとてもうれしく思いました」
「あら、絵の方はまだですか?」
「絵もあるのですか?」
「はい、その、祭壇の左横でございます。ご一緒いたしましょう」
皆でぞろぞろと移動して、教えてもらった場所に行くと、なるほど子どもたちの元気な絵が飾られている。
上級生の絵なんて、もうプロ並の子もいるじゃないの?すごい……
そして、下級生の方に目をやると。
……僕は一つの絵に視線が釘付けになって、一瞬時が止まったように感じた。
その絵の周りに、明るい色の花が咲き乱れているかのような、そんな印象を受けた。
それはとても可愛らしい絵だった。
小さな巻角のある金色の髪の小さな子を両方から抱きしめているのは、銀色のまっすぐな長い髪の銀色の瞳の美しい人、そしてもうひとりは、伸びた髪を一つに結んだ黒髪に黒い瞳の……
これは……僕たち家族だよね。
翠が描いてくれた絵だよね……
「王様と王妃様でございましょう、素晴らしい絵です」
「色も上手にお塗りになって」
「本当に」
「家族の絆が目に見えるようで、本当に素晴らしいです」
皆が口々に褒めてくれるけど、それどころじゃなかった。
これ、いつの間にこんな絵を……
そう言えば僕は翠がお絵かきをしているところを見たことが無かった。
でもきっと、絵が好きなんだろうなってわかる。
心から楽しんで描いているのがわかるのだ。
ああ、絵の才能があるのかもしれない。
そう感じて、そして絵の対象に家族を選んでくれたのが嬉しくて、涙が出そうになってしまった。
「……ほんとに、感動で涙が出そうです」
「王妃様……」
どのお母さんも皆にこにこして見守ってくれた。
「ああ、踊りが始まるようですよ」
祭壇の横に楽師が現れてスタンバイし始めた。
楽師は本物のプロだ。
こういうところが城の学び舎っぽいよね……
そして僕は皆に連れられて一番良い席に案内された。
おとなしくその真中の席に着席すると、周りに立っていた人もようやく座った。
なるほど僕が座らないと座れないのか……
その時、ざわざわっと入口の方でざわめきが起こった。
振り向くと「きゃー」という女の人の歓声と共に現れたのは、背後から日の光を背負ったようにして光り輝く蘭紗様だった。
「蘭紗様!」
僕は思わず席を立って手を振った。
蘭紗様も僕を見つけて嬉しそうに笑って手を振り返してくれた。
ちなみに蘭紗様が笑った瞬間に、目の前のお母さんが一瞬ふらついた。
わかるよ、かっこいいもんね!
ざざっと人がいなくなり、僕と蘭紗様の特別席のように周りが開いた。
一瞬申し訳ないなあと思ったけれど、僕ならいざしらず蘭紗様は王なのだ、仕方ないよね。
「蘭紗様、来れないって言ってたのに!」
「ああ、そうなのだが、一瞬だけ抜けさせてもらったのだ。翠が踊ったらすぐに戻るよ」
そう言って僕の額にキスをした。
またもや後から「きゃー」と歓声が聞こえる。
蘭紗様を見るのに慣れてないとそうなるよね、わかるよ。
蘭紗様が席に座ると楽師たちが一斉に奏で始めた。
その音楽はとても美しい旋律で、でもどこか楽しげで、未来ある子供たちが踊るのにぴったりな曲だった。
前奏が終わると、下級生のちいさな6人が列をなして出てきた。
皆お揃いの白い着物に白い袴、そして赤い羽織をはおり、紫の扇を持ち、太鼓を首から下げた子もいた。
翠と留紗だけが頭に小さな冠を付けている。
子どもたちはくるくると回り、輪を小さくしながら中央に集まったかと思うとまた大きくなってピョンと飛び上がってポーズを取った。
皆息がピッタリで、きちんと揃っている。
小さな子が皆で一生懸命踊る姿は感動的で、真剣な顔を見ると成長を感じることもできた。
何度か回ってパーッと広がって、そして曲の盛り上がる部分で、真ん中に出てきたのは翠と留紗だった。
翠と留紗は向き合ってぴょんとその場で飛んで、さらに片足でくるっと回って紫の扇をバッと開いた。
扇に隠れるように小さくなって、くるくると回ってそして真ん中でポーズを取ってにっこりした。
2人ともかわいい!
ねえ、かわいいんですけど!
僕は隣の蘭紗様の手をバンバン叩いた。
翠と留紗に皆が合流して、小さな龍の様に一列で扇をひらひらさせながら舞台を優雅に舞い、最後に皆で腕を上げて天を仰ぎ、御神体に捧げるお祈りをして胸の前で手を合わせた。
場内は皆の可愛らしさに拍手喝采だ。
そして中でも一番ちいさな翠はスッと前に出て、挨拶をした。
「おとうさま、おかあさま、本日は参観ありがとうございました」
かわいらしい大きな声ではっきりと……おとうさん、おかあさんって。
僕は蘭紗様の顔を思わず見つめた。
蘭紗様も僕の顔を見ている、そしてじっと見つめ合って微笑みあった。
「まあ、決まったセリフなのだが……うれしいものだな」
「はい……」
僕たちは小さな子どもたちが舞台袖にはけていくのを見守って、親となった喜びを噛み締めたのだ。
これからもっと寒くなると聞いている紗国の冬だけど、家族がいればきっと暖かく暮らせるね。
そう思えた一日だった。
●おまけ ✨他のお母さんたちのこそこそ話✨
「か、薫様と話してしまいました!」
「すごくかわいい!」
「そんなこと不敬になるのでは……!でも、おきれいでかわいかったですね!」
「それに……蘭紗様!く、く、口づけを……」
「ええ、ええ、見ましたとも」
「私足から力が抜けましたよ」
「本当に美しくて神々しいお姿でしたわね!」
「それに、翠紗様も」
「本当におかわいらしい!!!」
話は終わらずこの後も城下町のカフェでママ友達の話は続いたとかなんとか。
華やかに飾られた祭壇は、そこだけが春のように暖かそうに見える。
今日は翠の発表会なのだ。
子どもたちが自分で飾り付けたというそれは、伝統的な紗国の飾りの作り方を学ぶための授業でもあるらしい。
僕はそれを見て、七夕まつりの飾り付けに似ていると思った。
卒業する上級生が主役なので、下級生である翠は今回踊りだけしか出番がないが。
展示物を見て回っていると、翠の書が豪華な掛け軸になって飾られていて思わず微笑んだ。
かわいらしい翠が一生懸命書いた、それは立派な作品だ……などと思うのは親だけかもしれないけど。
元気がよい字でとても好ましく感じるんだよね。
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ってそれ……まるで日本で暮らす家族みたいな会話だよね!
学び舎に通う生徒達は紗国の全国各地から集まっている。
普段は親と離れて寮に住む子もいるのだが、今日は皆家族が見に来ているようで、子どもたちは張り切っているようだ。
ふと見ると、お母さん方が10人ほど集まってこちらを見ている。
ああ、僕は男だけど母だから、ああいう輪に入った方が良いのかな……
女子の集団……ちょっと苦手だなと思いながら微笑んでみた。
その僕の笑顔に皆驚いた顔をしていたが、くじけずに近寄ると今度は礼をして跪いたので、僕は慌ててしまった。
「やめてください、同じ親ではありませんか。ここでは平等ですよ」
「王妃様……恐れ多いことです。私共は貴族ですらありませんので」
「顔をどうぞ、あげてください。同じ親同士、お話ができたらうれしいですよ」
おずおずと顔をあげた母親たちは、みな若く、目が輝いていた。
貴族でないのなら、それぞれが普段はなにかの労働をしているのであろうし、きびきびと行動している人たちなんだろなと想像できる。
「皆様、どちらからいらしたのですか?」
「私はこの城下町で暮らしております」
「私達3人は港の方なんですよ」
「私達は西の湖の方です」
口々に出身地を教えてくれて、僕は必死に頭の中で地図を組み立てた。
本当にバラバラなのだ。
「なるほど、遠くから今日のためにいらしたのですね」
「はい、子供の姿を見るためですし」
港町のお母さんたちは日に焼けていてとても健康そうだ。
体格もよく、力仕事もどんとこいなのかも、などと想像してしまう。
これは絶対に僕よりもたくましいよね……
「王妃様……このたびは、お子様おめでとうございます。大変優秀で美しいお子様で、私達も我が子が翠紗王子殿下の同窓となれたことを、とてもうれしく思います」
「ありがとう」
翠のことを美しいなんて!
本当にそうなんだけどね!
「皆さんのお子さんも、とても優秀なのでしょう。ラージ先生から伺いましたよ」
「まあ……」
若い母親達は恥ずかしそうにしながらも誇らしげだ。
「展示はご覧になりました?」
「はい、見ました。翠の書もあってとてもうれしく思いました」
「あら、絵の方はまだですか?」
「絵もあるのですか?」
「はい、その、祭壇の左横でございます。ご一緒いたしましょう」
皆でぞろぞろと移動して、教えてもらった場所に行くと、なるほど子どもたちの元気な絵が飾られている。
上級生の絵なんて、もうプロ並の子もいるじゃないの?すごい……
そして、下級生の方に目をやると。
……僕は一つの絵に視線が釘付けになって、一瞬時が止まったように感じた。
その絵の周りに、明るい色の花が咲き乱れているかのような、そんな印象を受けた。
それはとても可愛らしい絵だった。
小さな巻角のある金色の髪の小さな子を両方から抱きしめているのは、銀色のまっすぐな長い髪の銀色の瞳の美しい人、そしてもうひとりは、伸びた髪を一つに結んだ黒髪に黒い瞳の……
これは……僕たち家族だよね。
翠が描いてくれた絵だよね……
「王様と王妃様でございましょう、素晴らしい絵です」
「色も上手にお塗りになって」
「本当に」
「家族の絆が目に見えるようで、本当に素晴らしいです」
皆が口々に褒めてくれるけど、それどころじゃなかった。
これ、いつの間にこんな絵を……
そう言えば僕は翠がお絵かきをしているところを見たことが無かった。
でもきっと、絵が好きなんだろうなってわかる。
心から楽しんで描いているのがわかるのだ。
ああ、絵の才能があるのかもしれない。
そう感じて、そして絵の対象に家族を選んでくれたのが嬉しくて、涙が出そうになってしまった。
「……ほんとに、感動で涙が出そうです」
「王妃様……」
どのお母さんも皆にこにこして見守ってくれた。
「ああ、踊りが始まるようですよ」
祭壇の横に楽師が現れてスタンバイし始めた。
楽師は本物のプロだ。
こういうところが城の学び舎っぽいよね……
そして僕は皆に連れられて一番良い席に案内された。
おとなしくその真中の席に着席すると、周りに立っていた人もようやく座った。
なるほど僕が座らないと座れないのか……
その時、ざわざわっと入口の方でざわめきが起こった。
振り向くと「きゃー」という女の人の歓声と共に現れたのは、背後から日の光を背負ったようにして光り輝く蘭紗様だった。
「蘭紗様!」
僕は思わず席を立って手を振った。
蘭紗様も僕を見つけて嬉しそうに笑って手を振り返してくれた。
ちなみに蘭紗様が笑った瞬間に、目の前のお母さんが一瞬ふらついた。
わかるよ、かっこいいもんね!
ざざっと人がいなくなり、僕と蘭紗様の特別席のように周りが開いた。
一瞬申し訳ないなあと思ったけれど、僕ならいざしらず蘭紗様は王なのだ、仕方ないよね。
「蘭紗様、来れないって言ってたのに!」
「ああ、そうなのだが、一瞬だけ抜けさせてもらったのだ。翠が踊ったらすぐに戻るよ」
そう言って僕の額にキスをした。
またもや後から「きゃー」と歓声が聞こえる。
蘭紗様を見るのに慣れてないとそうなるよね、わかるよ。
蘭紗様が席に座ると楽師たちが一斉に奏で始めた。
その音楽はとても美しい旋律で、でもどこか楽しげで、未来ある子供たちが踊るのにぴったりな曲だった。
前奏が終わると、下級生のちいさな6人が列をなして出てきた。
皆お揃いの白い着物に白い袴、そして赤い羽織をはおり、紫の扇を持ち、太鼓を首から下げた子もいた。
翠と留紗だけが頭に小さな冠を付けている。
子どもたちはくるくると回り、輪を小さくしながら中央に集まったかと思うとまた大きくなってピョンと飛び上がってポーズを取った。
皆息がピッタリで、きちんと揃っている。
小さな子が皆で一生懸命踊る姿は感動的で、真剣な顔を見ると成長を感じることもできた。
何度か回ってパーッと広がって、そして曲の盛り上がる部分で、真ん中に出てきたのは翠と留紗だった。
翠と留紗は向き合ってぴょんとその場で飛んで、さらに片足でくるっと回って紫の扇をバッと開いた。
扇に隠れるように小さくなって、くるくると回ってそして真ん中でポーズを取ってにっこりした。
2人ともかわいい!
ねえ、かわいいんですけど!
僕は隣の蘭紗様の手をバンバン叩いた。
翠と留紗に皆が合流して、小さな龍の様に一列で扇をひらひらさせながら舞台を優雅に舞い、最後に皆で腕を上げて天を仰ぎ、御神体に捧げるお祈りをして胸の前で手を合わせた。
場内は皆の可愛らしさに拍手喝采だ。
そして中でも一番ちいさな翠はスッと前に出て、挨拶をした。
「おとうさま、おかあさま、本日は参観ありがとうございました」
かわいらしい大きな声ではっきりと……おとうさん、おかあさんって。
僕は蘭紗様の顔を思わず見つめた。
蘭紗様も僕の顔を見ている、そしてじっと見つめ合って微笑みあった。
「まあ、決まったセリフなのだが……うれしいものだな」
「はい……」
僕たちは小さな子どもたちが舞台袖にはけていくのを見守って、親となった喜びを噛み締めたのだ。
これからもっと寒くなると聞いている紗国の冬だけど、家族がいればきっと暖かく暮らせるね。
そう思えた一日だった。
●おまけ ✨他のお母さんたちのこそこそ話✨
「か、薫様と話してしまいました!」
「すごくかわいい!」
「そんなこと不敬になるのでは……!でも、おきれいでかわいかったですね!」
「それに……蘭紗様!く、く、口づけを……」
「ええ、ええ、見ましたとも」
「私足から力が抜けましたよ」
「本当に美しくて神々しいお姿でしたわね!」
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「本当におかわいらしい!!!」
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