狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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白き手の神2

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……賑やかな声が聞こえてくる。
寝室にこのような声が突然響いてくるなどこれまでなかった。
どうしたのか?と目をあけ、またもや「ここはどこか?」と一瞬戸惑った。

「ああ、そうか雪山の……」
「蘭紗様!」

突然花の匂いがむせ返るほど我を包み込んだ。
愛おしい匂いだ。
そして抱きついてきた体をそっとさらに抱き寄せる。

「薫……なぜここにいる」
「だって!」
「だって……ではない。どうやってここまで来た……」
「えと、飛んで」
「なんだって……この吹雪の中をか?」
「うん、クーちゃんが一緒に飛んでくれたし、近衛もいるし、涼鱗さんとカジャルさんも」
「なに……?」
「あのさ、目に入らないわけ?私らもここにいるんだけど」

盛大に嫌そうな顔をした涼鱗と笑い出しそうなカジャルが2人並んで座っている。

「ああ……すまぬな……心配をかけたようだ……」
「すまぬな……じゃないよ……」

涼鱗は溜息をついて腕組をした。
そして胸の辺りでもぞもぞと動く何かがあって、ふと薫を抱く手を緩めると、ひょこっと翠紗が顔を出した。

「僕、つぶれちゃう」

部屋に居る者が皆が笑って更に賑やかになる。

「翠……もう!何も言わずにいなくなるんだから!」

薫は涙を流しながら我の腕の中で翠を抱きしめる。
さぞかし胸を痛めたであろう……

「はい……ごめんなさい」
「でも、蘭紗様を助けたんだよね?ありがとう翠」
「はい、おかあさま」
「……おかあさま?……うれしい」

翠ははにかんだ笑顔で薫を見上げた、薫は優しい眼差しで翠を見つめ、頬に口付けをした。
くすぐったそうに肩をすくめながら嬉しそうな翠は、薫の首に細い腕を回すと頬を擦り付けた。

「おとうさま、雪の下にいたんです、一生懸命ほりました。白い手の神様に捕まっていて、でも、お話したら、ここに送ってくれたんです」
「え……白い手?……かみさま?……」

あっけにとられてポカンとする薫に、事情を聞いてきたのだろう涼鱗とカジャルが苦笑している。

「まあ……話は聞いたが……山の神様だなんて……本当にいらしたとはなぁ」

カジャルはいつになく真剣な顔でつぶやく。

「だが……山の神は、このまま力を失うと山を守れなくなり、不可侵の森になって魔獣の住まう土地になると……仰せのようだな」
「なぜ人を寄せ付けぬ魔獣ばかりの土地があるのか昔から不思議だったが……これで謎がひとつ解けたではないか……こうやって人々の信仰を失って神格が無くなった神が消滅し、ああいう土地ができるということなのだろう」
「間に合うのかねえ?もう遅いかもとおっしゃったようだよ?」
「うむ……」
「今まで土地の神と人が話したことなんてなかったはずだ。神話の世界の伝承なんだから。翠紗様はすごいな……」

カジャルが真剣な顔付きでつぶやく。
我もその言葉には同感だ。
我には金属音のような高い美しい音として聞こえた。
あれが山の神の声だったのかもしれない。

薫の胸の中でふぁーっとあくびをしてまたうつらうつらしはじめた翠を抱き直して、薫が我を見上げた。

「もう一度お祀りして、山の神様をきちんとした形にして差し上げないと……ですよね?」
「そうだな、こういう時は姉と神殿の者を呼ぶといいのだが……時期が悪すぎるな」
「晴れた日ならば、来れなくはないでしょう?」
「うむ……しかし姉は……体があまり強くなくてな」
「蘭紗……心配はいらぬよ、我もさきほど到着したでな」

障子がするりと開き、少女のような姿で威厳のある声を響かせる森の神殿長の姉が現れた。
両横に森の民を連れていた。

「まさか!姉上!ここまでご出張なさるとは!どうやっていらしたのだ?」
「普通に飛翔じゃが?」
「……」
「そなた……姉は飛べないとでも思っておったか?」

不満気に口を尖らせた姉は森の民に勧められ座布団の上に鎮座した。
目が見えぬなど嘘の様な自然な動きだ。
このような初めての地ですら、姉は魔力でだいたいの事を感知できているのだろう。

「山の神が危ういと聞いてな。すぐに参った。なんの支度もしておらぬので、これからこの地で禊を行ないお社の清掃やお飾りなども準備してゆく。あぁ、もしや修繕が必要かもしれぬな……すまぬが近衛を借りるぞ。供物も冬でろくなものは無いかもしれぬがこの地には果物が豊富じゃ……なんとか出来よう……蘭紗は……まあ寝ておれ、準備が整うたら呼ぶ」
「しかし姉上、大丈夫なのですか?先程ご到着したと……お体は?」
「うむ、近年稀にみる瑞兆の連続でもって、我の体力も今は常に満ちておる。魔力もじゃが……ああ、そういえば龍族のじいが我にこれを持って行けと言付かったぞ」

森の民が差し出すのは塗りの盆の上に置かれた硝子の小瓶だった。

「これは……スレイスルウ……森のしずくでは」
「そなたほどの強い者ならこれを原液で飲めるであろうとのことじゃ。ひと瓶全部あおれ……との事じゃ。まあ正気とも思えん言葉じゃが……なにぶん龍の言うことじゃ普通の人には過ぎたことであろうが……なめるぐらいはしても良かろう」

姉は言いたい事だけ言って、禊のために部屋を出ていった。
行く前に、薫と翠紗を抱きしめ「弟を助けてくれてありがとう」と呟いた。
幸せそうな笑顔で。

森の神殿長である姉・佐良紗が来たならもう安心だ。
我がただ祈るよりも神に届く思いが格段に強くなるだろう。

我の足を掴んでいた白い手を思い出した。
必死な思いで山を守ってくださっていた神の手だったとは……
儀式が無事に済むことと、神の復活を心から願った。


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