狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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二十歳

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 朝から僕の周りにずっと侍女がひっついて離れない。
いや、なんていうか……
そこまで飾り立てますか?!
ってぐらいに僕は今飾られている。

クリスマスツリーになった気分ですよ!

結婚式の時以来かな……とは思うけど、あのときは自分で衣装を決めていったので、身につけるものを全て把握していたから、「え?まだ着るの?」とか、「え?まだつけるの?」などは無かった。
人任せにしてはいけない!……それを思い知らされる。

「ねえ、里亜……お願いだから化粧はやめて」
「いえ、紅だけはどうしても目元と唇に乗せねばなりませんよ」
「ん……決まりってなら仕方ないけどさ」

またもや祭りの稚児行列のような出で立ちになってしまった僕。
今回は冬なので着物も重い……それはもう、重い。
少しでも動いて体を慣らしていたから良かったものの……渡ってきてすぐだったら歩けなかったと思うの、ほんとに。

「ねえ、頭にそれも乗せるの?首、折れないかな?」
「薫様……子供でも大丈夫ですから、ね」
「はい」

もう何も言いません。

「わあ!おかあさま!きれいです!」

頭に冠を付けて赤い衣装を身に着けた翠がトテトテっと走り寄って来た。
翠付きの侍女があわてるが、僕は構わずそのまま膝に乗せて頬にキスをした。
ほわっと若草の匂いがする。
かわいい。

「翠だって本当にかわいいよ!その衣装、瀬国からのお祝いでいただいたものだね」
「はい、装飾品もすべてお揃いで送ってくださっていたので、そのまま使用しております」
「そうなんだ、似合ってるよ翠」
「はい!」

僕もほぼ同じ赤い衣装だ。
一番下の着物だけが白なんだけど、そこから怒涛の赤。
重ねた着物は、朱色から濃いめの赤にグラデーションになっていて、5枚重ねている。
そしてほぼ臙脂色の袴には赤い花模様の織柄があり、金糸も入っているためびっくりするぐらい派手だ。
そして一番上にはまたもや真っ赤な床からトレーンを引くほど長い羽織、頭には黄金に宝石が散りばめられた冠……。
うん、僕が女の子だったらそりゃさ、かわいかったんだろうけどね。

「薫様……本当にいつ見てもお美しい」
「はい、これほどの美しさをお持ちなのにご本人に自覚がないのが不思議でございます」
「いや……そうじゃなくてね、僕さ、男なの」

僕は反論しようとしたけど、その時ちょうど侍従長が僕を呼びに来たので、しかたなく立ち上がり、翠と手をつないで案内されるまま廊下に出た。
すると、そこに蘭紗様が待っていてくれた。

豪華で素敵な緑青ろくしょうの衣装で、僕達となんだか反対色だけどそれもまた家族っぽいね。
蘭紗様は「美しいね、似合うよ」と言ってキスしてくれて、翠を抱き上げ、僕の手を取って歩き出した。

こうやって王が自ら息子を抱いて歩くなんて、本当は前代未聞だったらしいんだけどね。
僕は知らずに自分がそうしてたから、蘭紗様もいつの間にかこれが当たり前になっちゃって、周りはもうザワザワしたりしない。

「国民に挨拶したら、森の神殿で祈りを捧げるんですよね?」
「そうだ、その後宴だが、その宴は朝方まで続くのだよ」
「僕と翠は途中で抜けても大丈夫なんですか?」
「もちろんだ。我がいるから、そなたは体に無理が来ぬよう翠と二人で抜けて構わないよ」

蘭紗様は暖かな眼差しで僕と翠を見てにっこり笑ってくれた。
んー……かっこいい……好き。

「ねえ、まさかまた、飛翔して町にいくとか無いですよね?」
「ああ、あれは祭りだったからだ、誕生日の際は御本尊の前で民に顔を見せるだけで構わないぞ」
「良かった!」

僕は一安心だ。

「しかし天馬に乗るのは楽しかったであろうが?」
「まあそうなんですけどね」

ふふふと笑い合って翠の頬をつついた。
翠も喜んでニコニコだ。

1階の御本尊のいらっしゃる本堂は開け放たれ、多くの人々が押し寄せていた。

みな静かに僕たち3人の歩く姿をじっとみていて、翠は一瞬緊張したようだけど、僕が笑いかけたらすっと体の力を抜いた。

「本日はお誕生日おめでとうございます」

そばに控えていた喜紗さんがよく通る声でそういうと、この本堂だけでなく森の奥まで続いているという民達も皆頭を下げて「おめでとうございます!」の大合唱をおこしてくれた。

「ありがとうございます、20才の誕生日を皆様に祝ってもらってうれしいです」

僕はそう言うと、微笑んで皆を見渡した。
それぞれがお祝いの気持ちを込めて晴れ着を着てくれているのがわかる。
色とりどりの衣装だが、中でも赤い色が多い、この国は赤がおめでたい色なのだ。

「薫様!」

そこかしこからふりふりと布を振る手や、声がけがされて、僕はそれが嬉しくていつまでも見つめた。
城の御本尊は明日の朝まで開いていて、その間国民は祈りを捧げに来るという。

そして、僕達は御本尊に捧げものをしてから、森の神殿に移動だ。
美しい雪に埋もれた神殿への道は、朝早くから森の民により掃き清められ、僕たちの歩く道にはほぼ雪がない。

ちらほらと小さな雪が舞い落ちるが、それは石畳に落ちては消えていくようだ。

「寒くない?」

僕は翠の手をさすって話しかけた。

「おとうさまがあったかいから大丈夫です」
「そう、良かった」

いつものように薄綿の入った羽織を着ていないので心配だったが、翠は案外平気そうだった。
そういう僕も特に寒さは感じない。

森の神殿が見えてきた。
何時見ても荘厳な美しさの漂う神殿だ。
雪の季節は、いつもよりさらに神秘的に見える。

森の民の案内により神殿に入ると、中には王族や要職の方々が座していて、口々に僕に「おめでとうございます」と言ってくれた。

扉をくぐり中に入ると、祭壇の前に立つ神殿長・佐良紗様がいつもと同じ真っ白な着物に赤い袴で待っていてくれた。
蘭紗様と翠はここまでで、僕だけが祭壇の前まで行き、そこで跪いた。
佐良紗様が僕の頭に手を置き、祈りを捧げ、そして巫女達の踊りがはじまった。
巫女の鳴らす三番叟さんばんそうの鈴の音が美しく清らかで居心地が良かった。

そして祈りが終わり、僕は目を開けて森の神殿の御本尊を見上げた。

「無事、誕生日を迎えられました。ありがとうございます」

そう言うと、チリンと鈴の音が聞こえ白い光が天井から降ってきた。
ああ、結婚式にも頂いたように、これは神からの祝福だなと感じた。
僕は胸が熱くなってもう一度お礼と祈りを捧げ、佐良紗様を見つめた。

「ほんとうに……お嫁様とはこのような奇跡を毎日のように起こすのじゃのう、本日も美しい始祖様のお言葉を頂いたようじゃ、20才、おめでとう薫」

佐良紗様の言葉が終わりの挨拶となり、皆が拍手で僕を祝ってくれた。

僕は御本尊を見上げ、不思議な思いで見つめた。
ここにある御本尊は、城の一階にある国民にも開かれるものとは違って、始祖様だと言われている。
あちらはひと目見て狐だが、こちらは人型を取った九尾の狐族の男性だ。
つまり初代王。
この方に関する記録は無く言い伝えのみ。
はじめてこの地に降りたお嫁様はどんな方だったのかも、わからないままだ。

僕はこの方から結婚式以来、二度目の祝福を直接いただいた。
光という形の祝福だ。

死後の世界があるかないかは、信じるか信じないかということだと、僕はずっと思って生きていた。
しかし、死してもなお王には王の努めがあり、国民を見つめていると今ようやくわかった気がする。

僕と蘭紗様の人生は長い。

『この美しい国を作ってきた歴代の王たちに恥ずかしくないよう、きちんと守ってまいります』

そう心に誓った。

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