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君の笑顔
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僕はカジャルさんと葛貫さんが退出して行った後、残りのお返事を書いて、そしてバイオリンを手にした。
毎朝、必ず音を出すのが日課なのだ。
今日は少し起きるのが遅くなってしまったけど、音を出すものだから他の人に迷惑がかかるような時間にはできないしね……というか、僕も空間魔法が操れたら防音できるのになと思ってしまう。
「薫様、そろそろお時間でございます、蘭紗様がお迎えにいらっしゃるそうです」
「え?ほんと?」
僕は嬉しくなってバイオリンを片付け仙に預ける、そして姿見を見た。
真野が静かに寄ってきて美しい刺繍の羽織を羽織らせてくれた。
朝のうちに髪の毛はまとめてもらってるけど、そこに簪も付けてもらう。
「薫、準備はいいのか?」
優しげな声が聞こえてきて振り向くと蘭紗様が微笑んでいた。
僕は頷いて蘭紗様に手を引かれ歩き出した。
「波成様、急ですね」
「いや、本来ならば滞在は2週間の予定だったからな……思わぬ長期の里帰りになってしまって波羽彦も寂しがっているそうだ」
「なるほど……それはそうでしょうね」
僕は波羽彦王の顔を思い浮かべて微笑ましく思った。
いつの間にか僕の肩には、小鳥姿のクーちゃんが現れて止まっていた。
少し驚くとともに、おいしいものが出そうな気配を感じたのかなとおかしくなる。
鳳凰がグルメって情報は知らなかったよね!
昼餐会が行われるのは、紗国の広間にしては中ぐらいの広さの会場だった。
美しい紗国の風景が描かれた屏風が飾られ、生花が生けられ、天井絵の植物絵とマッチしている。
会場にあふれている人の中には跳光家の人々が大勢いるようだ。
僕は全員の顔を知ってるわけではないのだけど、特徴的な黒い衣装に白い羽織でわかるのだ。
その中には僑先生もいるが、今日の僑先生は跳光家の紋を付けた黒い羽織に白い着物と紺の袴で御曹司風だ。
この人は普通にしていればモテそうなんだよね……
蘭紗様が挨拶をして、波成様も紗国の歓待への謝辞を述べられた。
そして始まった宴はカジュアルな立食で、皆和やかに雑談しながら食事を楽しんでいる。
僕の肩に乗っていたクーちゃんは、勝手知ったる庭のように会場を行き来し、クーちゃん専用の美しい絵皿に乗せてもらったケーキをつついている。
その様子を見て笑っている波成様を僕はじっと見つめた。
久しぶりに見た波成様は以前の儚げで子供のような波成様とは違って見えた。
まず、驚かされたのは瞳の色だ。
オレンジ色の中に灰色や、少し水色も混ざっていたのに、今はくっきりとオレンジ一色で、キラキラと煌く宝石のように見える。
「波成様……瞳の色が変わられたのですね」
「ええ、気づかれましたか」
波成様は恥ずかしそうに微笑んだ。
「寝て起きたりを繰り返す日々でしたけど、ある日急に、体が軽くなったんですよ。日参していた朝のお参りでの出来事なんですけどね」
「急にですか?」
「はい、白い光に包まれて体が少し浮いたような感じになって……そしてやはり半分だけ獣化しました。獣化はどうやらそれが限界なようですが、その時はじめて先代王の声が聞こえたのです。一言だけでしたが、『人の生を全うしてから我の元へ帰れ』と」
人の生を全うしてから……つまり、波羽彦さんとおなじぐらい生きられるということ?
「それは!」
「ふふ……これ、実は他の誰にも言ってないのです、どうぞご内密に……そしてその時から瞳の色もこれになりました」
「ええ?なぜお伝えにならないのです?跳光の人達は皆、波成様をすごく心配されてるのに」
「はい、ですが……これは天からのお言葉です、軽々しく言いふらすものでありませんし、また国を揺るがすような大事でもありません。私の胸の中にしまっておいてもなんら影響がないのです」
「……そうでしょうか……」
「はい、私はあのお言葉をいただいて感動のあまりしばらく動けませんでした。私は確かに先代王と繋がっているのです、それを感じました。不幸な行き違いで現世ではお仕えできませんでしたが、あちらで待っているとおっしゃってくださったんですから、これで死ぬのも怖くありませんよ」
波成様は光輝く美しい笑みをこぼされた。
「でも……それ、波羽彦王にもお伝えにならないのですか?」
「いえ、波羽彦様には話してもいいかもしれないなって」
「ええ、きっと喜ばれますよ。でも、ヤキモチ焼かれないかな」
「なんですって?」
「だって……天に召された後は一緒にいられないのか?って波羽彦さん落ち込みそう」
僕はケラケラ笑ってしまった。
それを見て波成様も同じ様に声を出してお笑いになった。
「そうか!そうですよね!」
「うんうん」
「おや、楽しそうではないか」
ヴァヴェル王国の前王弟殿下が近寄ってこられ挨拶を交わした。
「ええ、死した後のことを話していたのですよ」
「なんと、死した後のこと?」
ふぉっふぉっふぉと独特の笑いを響かせてから、少し真面目な様子でじっと波成様をご覧になって、前王弟殿下は口を開いた。
「まあ……先の話になりそうですな。そなたはこの世に使命を持って降りてこられたのじゃから」
「……使命?」
波成様はハッとしたように目を見開いた。
「私には、なさねばならないことがまだあるということでしょうか」
「そうじゃの……そなたの魂の形からしても……特別であることは確かじゃ。翠紗王子と同じようにそなたにも使命があるのだろう」
「そうでございますか……」
波成様は表情を引き締め感じ入ったように頷いた。
「ですが……自分は何のためにこの世に遣わされたのかと考えても、先代を守る霊獣だったとしか、今の所思いつかないのですが」
「それは一つのきっかけであろうな。だが、先代が崩御された後もまだこのように生きておられるのはなぜか?そして阿羅国に縁があったのはなぜか?と考えるのもまた、人生というものではなかろうか」
波成様は厳しい顔で、手に持つぶどう酒を眺めつつ一言呟いた。
「本当に……そうですね。私は今、人として生きているのです。何のためにあるのかは、何のために生まれてきたのか……とは違う問題なのでしょう。これからの人生を阿羅国の発展のために捧げることはもう心に決めているのです。波羽彦様と一緒に、あの国を盛り立てていきたい」
前王弟殿下はうんうんと嬉しそうに頷いて、そして給仕からぶどう酒を受け取り、僕たち3人は美しい絵付けのされたグラスで乾杯をしあった。
「これから何年生きるか……それの長さの違いはあれども、今現在一緒に生きているもの同士、助け合えれば良いな」
「はい、本当にそう思います」
「僕もそう思いますよ」
3人は微笑み合った。
「薫、そろそろお願いできるかな?って蘭紗が言ってたよ」
涼鱗さんがグラスを片手に耳打ちしてきた。
「ああ……そうか、バイオリンだった」
「おや、演奏されるのかの?」
前王弟殿下が目を輝かせた。
「ええ、僕の演奏は趣味程度ですので、国賓の方々の前でというのはお恥ずかしいんですけど……」
「何をいう……薫の演奏僕は大好きだよ?もちろん蘭紗も、それから翠も」
ラハーム風の衣装の涼鱗さんは笑顔で励ましてくれる。
この人は本当に優しくて僕は大好きだ。
「そうですよ、皆、薫様の演奏を楽しみにしてるんですよ。さあ」
波成様まで笑顔でそんなことを言うから恥ずかしくなる。
「では、そうしましょうか……」
僕は入り口近くで控えていた仙を呼んで、バイオリンを受け取った。
ざわついていた会場が静かになり、皆の視線を感じる。
僕は1段高くなっているステージにあがり、挨拶をした。
「本日は波成様のご出立に向けて、餞として、僕からバイオリンの演奏を送ります。阿羅国で作られるバイオリンは素晴らしい楽器です。これが世界に広まり、もっと演奏する人々が増えていってほしい、そのように思っております」
拍手がなる中、スタンバイする。
先程、部屋で音を出しておいて良かった。
息を吸って演奏を始めた。
波成様の今後の人生が穏やかで、そして幸せなものでありますように。
そんな気持ちを込めた一曲だ。
波羽彦王も波成様も、二人共が大変な時代に阿羅国を率いる立場になってしまって、本当に苦労の連続だろう。
だけど、新人君の作った国をどうか、良い国にしてほしい。
悪名を無くし、良いところを伸ばしてほしい。
きっと新人君も天から皆を見守っているよ。
僕の心の中には、少年時代の新人君の笑顔が思い出された。
一緒に過ごした幼年時代から青春時代。
……確かに君は友だった。
底抜けに明るい新人君の笑顔が溢れた瞬間、演奏が終わり、割れんばかりの拍手をもらった。
毎朝、必ず音を出すのが日課なのだ。
今日は少し起きるのが遅くなってしまったけど、音を出すものだから他の人に迷惑がかかるような時間にはできないしね……というか、僕も空間魔法が操れたら防音できるのになと思ってしまう。
「薫様、そろそろお時間でございます、蘭紗様がお迎えにいらっしゃるそうです」
「え?ほんと?」
僕は嬉しくなってバイオリンを片付け仙に預ける、そして姿見を見た。
真野が静かに寄ってきて美しい刺繍の羽織を羽織らせてくれた。
朝のうちに髪の毛はまとめてもらってるけど、そこに簪も付けてもらう。
「薫、準備はいいのか?」
優しげな声が聞こえてきて振り向くと蘭紗様が微笑んでいた。
僕は頷いて蘭紗様に手を引かれ歩き出した。
「波成様、急ですね」
「いや、本来ならば滞在は2週間の予定だったからな……思わぬ長期の里帰りになってしまって波羽彦も寂しがっているそうだ」
「なるほど……それはそうでしょうね」
僕は波羽彦王の顔を思い浮かべて微笑ましく思った。
いつの間にか僕の肩には、小鳥姿のクーちゃんが現れて止まっていた。
少し驚くとともに、おいしいものが出そうな気配を感じたのかなとおかしくなる。
鳳凰がグルメって情報は知らなかったよね!
昼餐会が行われるのは、紗国の広間にしては中ぐらいの広さの会場だった。
美しい紗国の風景が描かれた屏風が飾られ、生花が生けられ、天井絵の植物絵とマッチしている。
会場にあふれている人の中には跳光家の人々が大勢いるようだ。
僕は全員の顔を知ってるわけではないのだけど、特徴的な黒い衣装に白い羽織でわかるのだ。
その中には僑先生もいるが、今日の僑先生は跳光家の紋を付けた黒い羽織に白い着物と紺の袴で御曹司風だ。
この人は普通にしていればモテそうなんだよね……
蘭紗様が挨拶をして、波成様も紗国の歓待への謝辞を述べられた。
そして始まった宴はカジュアルな立食で、皆和やかに雑談しながら食事を楽しんでいる。
僕の肩に乗っていたクーちゃんは、勝手知ったる庭のように会場を行き来し、クーちゃん専用の美しい絵皿に乗せてもらったケーキをつついている。
その様子を見て笑っている波成様を僕はじっと見つめた。
久しぶりに見た波成様は以前の儚げで子供のような波成様とは違って見えた。
まず、驚かされたのは瞳の色だ。
オレンジ色の中に灰色や、少し水色も混ざっていたのに、今はくっきりとオレンジ一色で、キラキラと煌く宝石のように見える。
「波成様……瞳の色が変わられたのですね」
「ええ、気づかれましたか」
波成様は恥ずかしそうに微笑んだ。
「寝て起きたりを繰り返す日々でしたけど、ある日急に、体が軽くなったんですよ。日参していた朝のお参りでの出来事なんですけどね」
「急にですか?」
「はい、白い光に包まれて体が少し浮いたような感じになって……そしてやはり半分だけ獣化しました。獣化はどうやらそれが限界なようですが、その時はじめて先代王の声が聞こえたのです。一言だけでしたが、『人の生を全うしてから我の元へ帰れ』と」
人の生を全うしてから……つまり、波羽彦さんとおなじぐらい生きられるということ?
「それは!」
「ふふ……これ、実は他の誰にも言ってないのです、どうぞご内密に……そしてその時から瞳の色もこれになりました」
「ええ?なぜお伝えにならないのです?跳光の人達は皆、波成様をすごく心配されてるのに」
「はい、ですが……これは天からのお言葉です、軽々しく言いふらすものでありませんし、また国を揺るがすような大事でもありません。私の胸の中にしまっておいてもなんら影響がないのです」
「……そうでしょうか……」
「はい、私はあのお言葉をいただいて感動のあまりしばらく動けませんでした。私は確かに先代王と繋がっているのです、それを感じました。不幸な行き違いで現世ではお仕えできませんでしたが、あちらで待っているとおっしゃってくださったんですから、これで死ぬのも怖くありませんよ」
波成様は光輝く美しい笑みをこぼされた。
「でも……それ、波羽彦王にもお伝えにならないのですか?」
「いえ、波羽彦様には話してもいいかもしれないなって」
「ええ、きっと喜ばれますよ。でも、ヤキモチ焼かれないかな」
「なんですって?」
「だって……天に召された後は一緒にいられないのか?って波羽彦さん落ち込みそう」
僕はケラケラ笑ってしまった。
それを見て波成様も同じ様に声を出してお笑いになった。
「そうか!そうですよね!」
「うんうん」
「おや、楽しそうではないか」
ヴァヴェル王国の前王弟殿下が近寄ってこられ挨拶を交わした。
「ええ、死した後のことを話していたのですよ」
「なんと、死した後のこと?」
ふぉっふぉっふぉと独特の笑いを響かせてから、少し真面目な様子でじっと波成様をご覧になって、前王弟殿下は口を開いた。
「まあ……先の話になりそうですな。そなたはこの世に使命を持って降りてこられたのじゃから」
「……使命?」
波成様はハッとしたように目を見開いた。
「私には、なさねばならないことがまだあるということでしょうか」
「そうじゃの……そなたの魂の形からしても……特別であることは確かじゃ。翠紗王子と同じようにそなたにも使命があるのだろう」
「そうでございますか……」
波成様は表情を引き締め感じ入ったように頷いた。
「ですが……自分は何のためにこの世に遣わされたのかと考えても、先代を守る霊獣だったとしか、今の所思いつかないのですが」
「それは一つのきっかけであろうな。だが、先代が崩御された後もまだこのように生きておられるのはなぜか?そして阿羅国に縁があったのはなぜか?と考えるのもまた、人生というものではなかろうか」
波成様は厳しい顔で、手に持つぶどう酒を眺めつつ一言呟いた。
「本当に……そうですね。私は今、人として生きているのです。何のためにあるのかは、何のために生まれてきたのか……とは違う問題なのでしょう。これからの人生を阿羅国の発展のために捧げることはもう心に決めているのです。波羽彦様と一緒に、あの国を盛り立てていきたい」
前王弟殿下はうんうんと嬉しそうに頷いて、そして給仕からぶどう酒を受け取り、僕たち3人は美しい絵付けのされたグラスで乾杯をしあった。
「これから何年生きるか……それの長さの違いはあれども、今現在一緒に生きているもの同士、助け合えれば良いな」
「はい、本当にそう思います」
「僕もそう思いますよ」
3人は微笑み合った。
「薫、そろそろお願いできるかな?って蘭紗が言ってたよ」
涼鱗さんがグラスを片手に耳打ちしてきた。
「ああ……そうか、バイオリンだった」
「おや、演奏されるのかの?」
前王弟殿下が目を輝かせた。
「ええ、僕の演奏は趣味程度ですので、国賓の方々の前でというのはお恥ずかしいんですけど……」
「何をいう……薫の演奏僕は大好きだよ?もちろん蘭紗も、それから翠も」
ラハーム風の衣装の涼鱗さんは笑顔で励ましてくれる。
この人は本当に優しくて僕は大好きだ。
「そうですよ、皆、薫様の演奏を楽しみにしてるんですよ。さあ」
波成様まで笑顔でそんなことを言うから恥ずかしくなる。
「では、そうしましょうか……」
僕は入り口近くで控えていた仙を呼んで、バイオリンを受け取った。
ざわついていた会場が静かになり、皆の視線を感じる。
僕は1段高くなっているステージにあがり、挨拶をした。
「本日は波成様のご出立に向けて、餞として、僕からバイオリンの演奏を送ります。阿羅国で作られるバイオリンは素晴らしい楽器です。これが世界に広まり、もっと演奏する人々が増えていってほしい、そのように思っております」
拍手がなる中、スタンバイする。
先程、部屋で音を出しておいて良かった。
息を吸って演奏を始めた。
波成様の今後の人生が穏やかで、そして幸せなものでありますように。
そんな気持ちを込めた一曲だ。
波羽彦王も波成様も、二人共が大変な時代に阿羅国を率いる立場になってしまって、本当に苦労の連続だろう。
だけど、新人君の作った国をどうか、良い国にしてほしい。
悪名を無くし、良いところを伸ばしてほしい。
きっと新人君も天から皆を見守っているよ。
僕の心の中には、少年時代の新人君の笑顔が思い出された。
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