狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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冬の最北端へ1 カジャル視点

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 強風の中、手で目を覆いなんとか前を見る。
風に煽られた木々が動物のように蠢きギチギチと嫌な音を立てている。
その時、突風が吹いてきて身体が軽く横に飛ばされた。
なんとか体勢を整え両足で踏ん張る。

「ふぅ……」

さすがに骨が折れるな……

俺は山の気候を舐めていたらしい。
まあ……城での生活しか知らずに育ってきた男なんだから、仕方ないかもしれないが。

涼鱗は一緒に行くと言い張ったが、宰相の仕事がこれ以上の不在を許してくれず、城に残ることになった。
ラハーム王国への里帰りの直後だったからだ。

……うん、あいつが来なくて良かった。

「めんどくさいから獣化して先に進もうよ」とか言い出しかねない。
俺らは龍族と違って獣化すると服はぬげてしまうんだから、目的地に着いたら全裸なのだ、王族の彼にそんなことさせられない……

それに、こんな強風では飛翔もままならない。
しかしもうここまで来たら先に進んだほうが近いはずだ。

俺は人差し指と中指に魔力を込め、目を瞑る。
薄く出た魔力で行き先の方角を確かめた。

「まあ……方角は合ってると……」

雪解けでぬかるんだ土に足を取られないよう注意しながらまた歩き出した。

俺は今、山間部の更に北部、ほぼ不可侵の森と隣り合う地域に向かっている。
そこには紗国最北端の小さな町があるのだ。
主な産業は陶器作りだ。
世界でも有数の美しい食器として有名で、芸術品のような食器を生み出す工房が数多くある。
というか、その町のすべての人がそれに携わっているわけだ。

先だっての山神様の1件で、ここにも一度跳光家から視察が行ったらしいが、この地域では小さな祠に毎朝誰かが水を変え花を捧げ、そして皆が祈りを捧げていたらしい。
つまり、ここでああいったことは起きないだろうと判断された。

信心深いおとなしい人々……そういう印象を持ったと、報告書にあった。

そしてなぜそこに跳光の者が遣わされたかというと、この気候だ。
そこに行くには大きな山を越える必要があるのだが、冬には強風が吹き荒れるのでよほどの手練でないと飛翔はできない。
跳光のものならばそれが可能であったという、ただその一点だけだ。

「……そのときに孤児院も見てくれれば良かったのにな……」

思わずそう愚痴ってしまうぐらいには、俺は疲れているらしい。

この山道を徒歩で越えるのは、義兄上には申し訳ないが、あの人では絶対に無理だっただろう……
遠くて危険もあるので私が行くと義兄上は必死で俺に言っていたが、何を寝ぼけているんだとしか思えなかった。

だらしなく締まりのない身体は運動不足であることが明らかだし、更に頭しか使ったことがない人で武闘もさらさら駄目だ。
魔力は人並みにあるようだが……まあ、つまり……普通だ。

そんな人がこんな僻地に来れるわけがない。
俺は義兄上が傷つかないように、遠回しに俺が行くほうが早いからといい含め、それならば護衛をと衛兵に話を持っていこうとしたが、返って足手まといだと説明するのにもまた1日を要した。

あの人はとても良い人なのだが……疲れるんだよな……
父によく従い、姉を大切にしてくれて、そして頭脳明晰な優秀な男だ……言うことなしの根白川家の跡取りなんだがね。

少し薄暗くなってきた……目を凝らすと木々の合間から灯りが漏れてきた。

お……?

ようやく町が見えてきたか……とほっとした俺は、後ろを振り向き山を見上げた。
無心に歩いていたら、いつの間にか山を越えたらしい。
空を見上げて風の強さを確認した、飛翔するのに今ならば支障がなさそうだ。
俺は一気に飛び上がり、灯りの方角に向かう。

町に入る門はとても小さいが、風や雪に耐えられるよう石造りの頑強なものだった。

門兵は空から降り立った俺に目をやると、嫌そうな顔をして溜息をついた。

「このような時間になんだ……もう日が暮れるぞ、どこの者だ?」
「……」

あまりの態度に驚くが、名乗らないわけにもいかない。

「俺は白渚はくしょカジャルだ。宰相・白渚涼鱗の妻だが……この度、王妃薫様よりのご用命でこちらに参った。他に何か、聞きたいことがあるか?」

「ん……え……へ?」

門兵は驚きのあまり腰を抜かしそうになるが、なんとか保ち礼をして頭を下げた。

「申し訳ございません……先ほどの態度をお許しくださいませ」
「まあ……門兵なのだから……疑うのは仕事だろうしな……」
「はっ」
「もういいから、入れてくれないかな。それから、長のところまで案内してもらいたい」
「はっ!……で、お付きの方は?」
「このような時期に山越え出来るものは少ない。足手まといはいらぬだろう?」
「は……さようで……」

門兵はなにか言いたげにしたが、そのまま案内をしてくれた。
道すがら周りの商店や町並みを確認する。
何もかもが使い古された様相だが、よく見ると細かく手入れされ、大事にしているのがわかる。
品揃えは悪くないようだ、十分に潤っている。

しかし、活気あふれるとは言い難い大通りには、そこかしこに修繕の跡が見えて王都との違いを感じた。
紗国にこんな道があるのか?と驚くが、顔には出さずに黙って歩いた。
行き交う人々の顔は穏やかで明るく、見知らぬ俺に気軽に笑顔を向けてくる。

「ここでございます。この町の長はただいま長老が病に倒れておりますので、代わりにその娘婿が努めているのです」
「そうか、ご苦労だった」
「はっ」

門兵は頭を下げ数歩下がった。


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