狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
228 / 317

それぞれが抱えるもの2

しおりを挟む
 屋敷の裏には山があって、木々の香りが入り込んでくる。
僕は縁側を開け放ち、少し冷たい風がゆるやかに吹く中で深呼吸した。
お風呂で火照った身体に気持ちいい……

食事前に少しだけバイオリンを弾くことにして、仙に用意を頼んだ。
なにしろ、大仕事が待ってるからね!指を休めていられない。

今回は、阿羅国から来ているバイオリンの製作家も一人同行してもらっているので、なにもかも準備万端で手渡される。

アオアイでの演奏会は、僕にとって久しぶりの大舞台になる……というか、生まれてはじめての僕の名前で人を呼ぶ演奏会になったのかもね。
今まではコンクールや発表会程度だったから。
それでも国際的なコンクールに出たときなどは各界の大物が何人もいて、子供ながらに緊張したことを覚えている。

でも今回はその比ではない。
世界中の王族が集まって、僕の演奏を楽しみにしているんだ。
だけど……国際会議がメインイベントで、その後の後夜祭みたいなもの!と自分で納得させている。
そうでも思わないと、生きた心地がしない。

紗国ではあまり馴染みがないようだが、この世界にもピアノがある。
今回はその演奏者が僕の伴奏をしてくれるらしい。
僕は4ヶ月前に演奏者に楽譜を送っているが、その彼のプロフィールを見ると、なんとルカリスト王国の人だった。

ルカリスト王国と聞くと、どうしても思い出すのがサスラス王子だ。

アオアイの迎賓館でいきなり窓から入ってきたあの熊族の荒々しい人。
あの人が僕に与えたイメージがそのままルカリスト王国のイメージになってしまっている。
実際皆に聞いても、そのイメージは間違っていないようだ。
でも、あの時サスラス王子は言ったんだよね。

『今の音楽、素晴らしいねえ……誰が奏でていたの?』って。
最初は僕目的で侵入したのではなくて、本当に音楽に惹きつけられてたのかな……

なんとなくそう思った。

あの時は直前にあった毒事件もあって、必要以上に怖がりすぎてしまったかもしれない。
人の居住区に無断でベランダから侵入する王子も王子だけど……
それに、その後の態度も相当変人だったけどね!

「薫……練習すると聞いたんだけど、私らも聞いていいかな?」

涼鱗さんとカジャルさんが部屋にやってきて穏やかに微笑んだ。
その姿を見て翠が喜んでタタタっと駆け寄り、カジャルさんに抱き上げられている。

「もちろんですよ、防音必要でなければこのまま弾いてもいいでしょうか?周りにお屋敷はないみたいですし」
「ああ、このままで構わないよ、皆、音色を聞きたいだろう」

蘭紗様の言葉に皆も頷いてくれた。

「今度は伴奏がつくらしいね」
「この曲には独奏もあるんですけど、阿羅国にいたバイオリニストのお嫁様が伴奏付きの楽譜を残してくれていたんですよ、せっかくなのでそちらをと思って」
「なるほど、しかしピアノか……なんだか久しぶりだよねえ……学園のころ、よく弾いてたじゃないかアイツ」
「え?どなたがですか?」
「……んと、サスラス王子だよ」

カジャルさんが言いにくそうに呟いた。
翠に耳を引っ張られているが、されるがままにしている。

「え……サスラス王子はやっぱり……本当に音楽がお好きだったんですか?」
「ルカリスト王国ってのも不思議だよな、あれほど荒々しい気性の者が多いのに、音楽が盛んで多くの音楽家を出しているんだよ」
「ピアノもルカリストにしかないんですか?」
「いや、そんなことはないぞ、たまたま紗国では雅楽が盛んだから他の楽器が入る余地がなかっただけだ。これからはバイオリンに親しむ者も多くなるだろうし、ピアノだってそうだ」
「なんだか……意外……」
「うむ、それは皆思っているさ」

4人がケラケラ笑う中、翠だけはキョトンとしている。

「じゃあ弾くね」

僕は愛する蘭紗様を見つめながら音を奏でる。
愛する人にこの気持が届きますように、僕の心がいつもあなたのそばにいると、わかってもらえますように。

山が迫る美しい庭に静かに流れ出るバイオリンの音は、墨色に染められていく空に広がっていった。
遠くに見える小さな月が、美しく水色に輝き冷たい色の光を届けてくれる。
その光を浴びてキラッと翻り、クーちゃんが現れて僕は微笑んだ。

弾き終わって、すぐに楽譜を確認する、気になる所を羽ペンでチェックしてあるのだ。
そこは気をつけないといけない箇所。
最後のレッスンの時に、先生に言われたことを思い出す。

『薫君は心で弾くってことを理解できる人に、きっとなれます。』

先生の柔和な笑顔を思い出す。
お元気にしてらっしゃるだろうか……

「ああ、薫……本当に君の演奏は素晴らしいねぇ、私は君のバイオリンが本当に好きだよ」

涼鱗さんの声でハッとして顔をあげた。
興奮した様子の涼鱗さんとカジャルさん、そしてどこか誇らしげな侍女たちの中に、美しい蘭紗様が柔らかな笑顔を浮かべてじっと僕を見つめていた。
「クルゥ」譜面台に止まっていた小鳥姿のクーちゃんも鳴いている。

「あ、ごめんなさい、曲について考え込んでしまって」
「いいんだよ、僕らがお邪魔してる立場なんだからねえ……存分に練習してくれ。でも、蘭紗は本当に幸せだね。この曲はきっと、蘭紗への気持ちを歌い上げたものなんだろう?」
「え……と、そうです……」

僕は恥ずかしくて顔に熱が集まるのを感じた。


しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...