狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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それぞれが抱えるもの3

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「……薫がかわいいのも素晴らしいのも今に始まったことではないが……演奏が美しかったのも、この選曲がうれしいのも事実だな」

蘭紗様は片眉をあげて涼鱗さんに挑むように答える。
それを見てカジャルさんは苦笑していた。

こんな風に穏やかに皆が過ごせる時間は本当に……宝物だよね。

「今の……ああ、やっぱり!」

障子がバタっと開いて、アイデン王子が入室してきた。
ヴァヴェル王国の王として、国際会議に出席するのため、一緒に港に向かっている。
今回はゆっくりと船に乗船するらしい。

「なんだようー皆集まってー!仲間はずれにしないでほしいな!」
「別にそんなんじゃないさ」
「でも本当に、薫のバイオリンの音は素晴らしいね」
「はい……このバイオリンは国宝級ですから。こんな素晴らしい楽器を手にできるなんて身に余る光栄としか言いようがありませんよ」
「いやいや……違うよ薫……君の演奏が良いと言ってるんだけどな」

アイデン王子は困ったような顔で肩をすくめた。

「薫は謙虚だねえ……この屋敷の使用人も、涙を流していた者だっていたよ」
「へえ……使用人って、繭良の者たちかな?」

涼鱗さんがアイデン王に椅子を勧めながら話しかけた。

「うん、わかんないけど、俺と同じぐらいの身長のまだ子供のようだったが」
「ああ、当主だな」
「へえ、随分若い当主だな」
「まあ、色々あってな」
「ふーん」

アイデン王はわけがわからなかったようだが、それ以外の人は皆押し黙った。

その時、障子の向こうから食事を知らせる声がかかった。
アイデン王は買い上げた屋敷に一旦帰るかと思いきや、このまま一緒にというつもりだったようだ。

「こっちの屋敷に使用人はおいてるのだろう?知らせてきたのか?」
「いや、僕は一人で暮らしているよ?時々じいが遊びに来るけど」
「は?食事や掃除はどうしてるんだ?」
「ん?工場のものが適当にやってくれるよ!」

なるほど、同僚兼使用人なのか……

暗くなった廊下には、灯りがともされて、ゆらゆらと揺れるひかりで幻想的だった。
先頭を歩く小さな背中はきっと……繭良の当主だ。

「ここでご用意しております。アイデン王陛下のものも、もちろんございます」

年若い当主は丁寧な美しい所作で僕たちを席に案内してくれ、使用人に食前酒の用意をさせた。

僕は素晴らしいごちそうを目の前にして、ホウと溜息をもらしながら、隣に座った翠を見た。
翠は自分用に特別メニューでかわいらしく盛り付けられた料理を見て、喜んでいる。

「私は下がりますが、給仕たちになんなりとお申し付けくださいませ」

当主が頭を下げ、退室しようとしていた。

「翠に、ちゃんと子供用の献立を考えてくれてありがとうね」

僕の声に一瞬ビクッと身体を震わせたが、泣きそうな顔で僕を見つめてきた。
はじめて視線があう……きれいな瞳だと思った。
この人が当主となったのなら、繭良家はもう大丈夫じゃないかな?とそう感じさせてくれた。

「いえ……私は……その……献立を考えたのは料理人ですし」
「でも、あなたが一言、伝えてくれたのでしょう?」
「はい……それは」

小さな声でそう言ってから、彼は翠に目線を向け、じっと見つめた。
その姿は実際の年齢を感じさせた……まだ少年なのだと皆が実感した。

「私が長くこの場にいると、ご気分を損ねるかもしれませんし……下がらせていただきますね」
「それは……あなたの叔父のことを言ってるの?」
「……はい」
「あなたには何の罪も無いんですよ、だから、そんな顔をしないで」
「薫の言う通りだ」

蘭紗様も静かにそう伝えてくれた。

「はい……」
「もしも、そなたにも罪があったなら、一緒に罰せられているはずだ。しかし、まだ年若い、なにかの罪があったわけでもあるまい。それは皆がわかっている……それに、そなたを避けたいのなら、わざわざここを宿に選ばぬぞ?」
「っ……」
「今日は、居心地良く整えられたここで宿泊できることを、嬉しく思います。色々と心遣いをありがとうね」

僕は、目の前の紗国料理のごちそうをもう一度見た。

僕と蘭紗様の好きなものがたくさん置いてある。
これはきっと、念入りに調べて用意してくれたものだ。
翠の食事も含めて。

「はい……もったいないお言葉でございます」

年若い当主は真っ赤な顔で涙を堪えながら頭を下げた。

「杯をもう一つ用意しろ」

蘭紗様がそういうと、給仕がグラスを運んできた。

「当主に渡せ」
「……っ!」
「これは紗国酒だろう?ならばそなたも大丈夫だ。悪酔いはせぬ」
「……しかし、私は単なるこの屋敷の管理者であって……」
「細かいことは良い、妻がそなたの心遣いに感謝しているのだ、その気持を分かち合ってくれ」

蘭紗様は給仕に合図をして、皆のグラスに紗国酒が注がれた。
翠の前にある小さなグラスには桃のジュースが注がれたようだ。
小さな声で「わー」って喜んでいる……かわいい。

「では、紗国の未来が明るいものであるよう、祈ろう……もちろん、ヴァヴェル王国もだな……」
「ふふ!僕の国だって未来は明るいさ!」

アイデン王は陽気に歌い上げるように答えた。

「では……乾杯!」
「乾杯!!」

紗国酒の甘い味が舌を転がって、喉にすっと落ちていった。
花の香りがして幸せな気分にさせてくれる、そんな瞬間だった

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