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進むべき道
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一日目の夜は、大きなバンケットルームで乗船している皆が集まり、賑やかに過ごした。
留紗と翠は途中からウトウトして船を漕ぎ出したので、それぞれの侍女たちがそっと彼らを連れて退出して行った。
その前に翠が僕と蘭紗様に抱きついて「おやちみなたい」と回らない口で挨拶して頬にキスするのを、留紗はぼんやり見ていた。
「おやちみなたい……だって」
「ぷふっ」
僕とカジャルさんが大笑いするのを蘭紗様と涼鱗さんが嬉しそうに微笑んでみている。
「あれだけ騒げばそりゃ眠くもなるな」
「はい、なかなか賑やかでしたねえ」
「でもあれが、子供の本来の姿だからな」
「はい、僕もそう思いますよ」
カジャルさんもこの性格だ……さぞかし走り回ったんだろうなと予想する。
「しかし、留紗は幼年部からアオアイに行くことにしたとはな……」
涼鱗さんが呟く。
「俺も驚いたよ」
「皆様は?」
僕は3人が共に学んだアオアイに実は少し憧れがあった。
新人君と僕が一緒に学んだ学園は幼稚園から大学まであったけど、日本の学校のほとんどは寮制じゃないから、当たり前のように自宅から通っていた。
だから、子供時代に夜も友達と一緒にいられたなんて、うらやましいと思えるのだ。
「俺らは3人とも少年部からだよ、多少年齢は上下しても、だいたい10才から12歳までの間にそれに入るのが王族では普通だ」
「きちんと何才からと決まってないのですね」
「日本では決まっていたのか?」
「はい、それはもう明確に」
「ほう……それぞれ成長に違いもあり、更に事情もあるというのに型苦しいことだな」
そう言われてみればそうかもしれないと、その考え方に少し驚いた。
「留紗はどうして幼年部から行こうとしたのだろうか?」
「皆様、お楽しみですか?」
そこに留紗の父、喜紗がワイングラスを片手に歩いてきた。
「喜紗、今、留紗のことを話していたのだよ、アオアイに行く年齢が王族にしては早いなと」
「ああ、そうでございますよねえ……そう思われても仕方ないことです……実は、あの子は王になるものとして周りも育ててきたし、そして自分もそう思って過ごしてきたのですがね、その可能性はなくなりましたでしょ?そこで、色々と考えたようなのですよ……早く蘭紗様と薫様のお役に立てる立派な臣下になりたいと、そう相談されましてね、城にいて王族の礼儀を身につけるよりも、アオアイに一足はやく入学し、世界を見て、知り合いを増やしたいと、そう結論づけたのですよ」
「あらゆる方面に顔を売るというのだな」
「はい……あの子は私の次代に宰相になる立場でしょう。文字通り蘭紗様の一時代を支えるのです。ただ勉学ができるだけではだめなのだろうと、私なども思ってるところです」
「まだ幼いのに……本当に利口な子だねえ」
涼鱗さんが感心する、僕も同じ意見だ。
「でも、お寂しくはないですか?息子が旅立つことに対して」
僕は思わず聞いてしまった。
「そうですね……妻も一度は止めましたね、ですが息子の真剣な顔を見てハッとしたようで、それ以後はもう何も言わなくなりました。あの子の思うことをさせてあげたいと、そう思うのもまた親心でしょうしね」
「留紗の心を優先したのですね」
「はい」
僕は留紗によく似た面差しの、まだ若い母を思い浮かべた。
あまり留紗のそばにいないと聞くけれど、母の思いはやはり似たようなものだ。
「留紗の成長が、楽しみですね」
「本当に」
喜紗さんは屈託のない笑顔を浮かべた。
彼のこんな顔を見るのは初めてだった。
「それに休みになれば帰ってきますからね」
「その際に船はどうするのです?この船でお迎えに?」
「いや、アオアイからは長期休暇の際に学生を乗せる大型船が出るんだ。なかなか豪華だし速度も出るんだぞ、各国の港を周って送り届けてくれるってわけ」
「そうなんですね……素敵だな」
子供だけで船の旅行だなんて……まるで修学旅行だ。
「ではそろそろ僕は部屋に戻りますね、皆様どうぞ楽しんで」
「では我も一緒に行こう」
「え?蘭紗様はもう少し楽しまれては?」
「もう酒も飽きた……一緒に休もう」
「そう?」
「じゃあ……皆様、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
皆に別れを告げて賑やかなバンケットルームを出ると、控えていた侍従が僕たちの後ろに付いた。
「そなたももう休むが良い、我らは部屋に戻り自由に過ごすよ」
「ですが……」
「顔色が悪いぞ、そなた船が苦手なのでは?ゆるりと休め」
「は……ありがとうございます」
若い侍従はバツが悪そうに身を縮め礼をした。
「お大事にね」
僕の言葉にも青白い顔で笑顔で礼をして部屋に戻って行った。
「薫」
長く広い廊下を歩きながら蘭紗様が僕の手を優しく握ってくれた。
「翠紗を必ずアオアイに行かせなくてはならないということはないぞ、紗国でも十分な勉強ができるよう整えればいいだけだ」
「いえ……あの子にも、蘭紗様のような素敵な経験をさせてあげたいし、友達を増やしてほしいし、だから、幼年部は無理でも、少年部からでも入ってほしいなって」
「そうだな……翠紗は年齢がわからぬ上に、まだあんなに身体が小さいのだ、急ぐ必要はないな」
「はい、それに……一番大事なのは、本人の希望でしょうからね」
僕は翠の美しい絵のことを思う。
あの子は芸術関係に才能があるのでは?と思うのだ。
「あの子は絵が好きです、その方向にすすみたいという希望が出てくるかもしれません。王にならねばならないという縛りもないのですから、あの子がやりたいように選べるんですものね」
「確かに……そうだな」
部屋に着き、ドアを開けて部屋に入ると、まず大きな応接セットが見える。
その奥のドアの向こうは、夫婦の寝室だ。
「翠は、ちゃんと寝てるかな」
「ああ、昼間はあんなに動いたんだ、もうぐっすりに違いないな……さあ、薫」
僕は蘭紗様に横抱きにされて、ベッドルームに連れて行かれた。
留紗と翠は途中からウトウトして船を漕ぎ出したので、それぞれの侍女たちがそっと彼らを連れて退出して行った。
その前に翠が僕と蘭紗様に抱きついて「おやちみなたい」と回らない口で挨拶して頬にキスするのを、留紗はぼんやり見ていた。
「おやちみなたい……だって」
「ぷふっ」
僕とカジャルさんが大笑いするのを蘭紗様と涼鱗さんが嬉しそうに微笑んでみている。
「あれだけ騒げばそりゃ眠くもなるな」
「はい、なかなか賑やかでしたねえ」
「でもあれが、子供の本来の姿だからな」
「はい、僕もそう思いますよ」
カジャルさんもこの性格だ……さぞかし走り回ったんだろうなと予想する。
「しかし、留紗は幼年部からアオアイに行くことにしたとはな……」
涼鱗さんが呟く。
「俺も驚いたよ」
「皆様は?」
僕は3人が共に学んだアオアイに実は少し憧れがあった。
新人君と僕が一緒に学んだ学園は幼稚園から大学まであったけど、日本の学校のほとんどは寮制じゃないから、当たり前のように自宅から通っていた。
だから、子供時代に夜も友達と一緒にいられたなんて、うらやましいと思えるのだ。
「俺らは3人とも少年部からだよ、多少年齢は上下しても、だいたい10才から12歳までの間にそれに入るのが王族では普通だ」
「きちんと何才からと決まってないのですね」
「日本では決まっていたのか?」
「はい、それはもう明確に」
「ほう……それぞれ成長に違いもあり、更に事情もあるというのに型苦しいことだな」
そう言われてみればそうかもしれないと、その考え方に少し驚いた。
「留紗はどうして幼年部から行こうとしたのだろうか?」
「皆様、お楽しみですか?」
そこに留紗の父、喜紗がワイングラスを片手に歩いてきた。
「喜紗、今、留紗のことを話していたのだよ、アオアイに行く年齢が王族にしては早いなと」
「ああ、そうでございますよねえ……そう思われても仕方ないことです……実は、あの子は王になるものとして周りも育ててきたし、そして自分もそう思って過ごしてきたのですがね、その可能性はなくなりましたでしょ?そこで、色々と考えたようなのですよ……早く蘭紗様と薫様のお役に立てる立派な臣下になりたいと、そう相談されましてね、城にいて王族の礼儀を身につけるよりも、アオアイに一足はやく入学し、世界を見て、知り合いを増やしたいと、そう結論づけたのですよ」
「あらゆる方面に顔を売るというのだな」
「はい……あの子は私の次代に宰相になる立場でしょう。文字通り蘭紗様の一時代を支えるのです。ただ勉学ができるだけではだめなのだろうと、私なども思ってるところです」
「まだ幼いのに……本当に利口な子だねえ」
涼鱗さんが感心する、僕も同じ意見だ。
「でも、お寂しくはないですか?息子が旅立つことに対して」
僕は思わず聞いてしまった。
「そうですね……妻も一度は止めましたね、ですが息子の真剣な顔を見てハッとしたようで、それ以後はもう何も言わなくなりました。あの子の思うことをさせてあげたいと、そう思うのもまた親心でしょうしね」
「留紗の心を優先したのですね」
「はい」
僕は留紗によく似た面差しの、まだ若い母を思い浮かべた。
あまり留紗のそばにいないと聞くけれど、母の思いはやはり似たようなものだ。
「留紗の成長が、楽しみですね」
「本当に」
喜紗さんは屈託のない笑顔を浮かべた。
彼のこんな顔を見るのは初めてだった。
「それに休みになれば帰ってきますからね」
「その際に船はどうするのです?この船でお迎えに?」
「いや、アオアイからは長期休暇の際に学生を乗せる大型船が出るんだ。なかなか豪華だし速度も出るんだぞ、各国の港を周って送り届けてくれるってわけ」
「そうなんですね……素敵だな」
子供だけで船の旅行だなんて……まるで修学旅行だ。
「ではそろそろ僕は部屋に戻りますね、皆様どうぞ楽しんで」
「では我も一緒に行こう」
「え?蘭紗様はもう少し楽しまれては?」
「もう酒も飽きた……一緒に休もう」
「そう?」
「じゃあ……皆様、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
皆に別れを告げて賑やかなバンケットルームを出ると、控えていた侍従が僕たちの後ろに付いた。
「そなたももう休むが良い、我らは部屋に戻り自由に過ごすよ」
「ですが……」
「顔色が悪いぞ、そなた船が苦手なのでは?ゆるりと休め」
「は……ありがとうございます」
若い侍従はバツが悪そうに身を縮め礼をした。
「お大事にね」
僕の言葉にも青白い顔で笑顔で礼をして部屋に戻って行った。
「薫」
長く広い廊下を歩きながら蘭紗様が僕の手を優しく握ってくれた。
「翠紗を必ずアオアイに行かせなくてはならないということはないぞ、紗国でも十分な勉強ができるよう整えればいいだけだ」
「いえ……あの子にも、蘭紗様のような素敵な経験をさせてあげたいし、友達を増やしてほしいし、だから、幼年部は無理でも、少年部からでも入ってほしいなって」
「そうだな……翠紗は年齢がわからぬ上に、まだあんなに身体が小さいのだ、急ぐ必要はないな」
「はい、それに……一番大事なのは、本人の希望でしょうからね」
僕は翠の美しい絵のことを思う。
あの子は芸術関係に才能があるのでは?と思うのだ。
「あの子は絵が好きです、その方向にすすみたいという希望が出てくるかもしれません。王にならねばならないという縛りもないのですから、あの子がやりたいように選べるんですものね」
「確かに……そうだな」
部屋に着き、ドアを開けて部屋に入ると、まず大きな応接セットが見える。
その奥のドアの向こうは、夫婦の寝室だ。
「翠は、ちゃんと寝てるかな」
「ああ、昼間はあんなに動いたんだ、もうぐっすりに違いないな……さあ、薫」
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