狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
242 / 317

残された子1

しおりを挟む
 船が紗国に到着して、タラップを降りて周りを見渡した。
海鳥たちの鳴き声と共に民たちの出迎えでとても賑やかで、僕は少し感動した。
ただここにいるだけで、こんなにも喜んでくれるということが素直にうれしい。

「蘭紗様、薫様、おかえりなさいませ」

港町の長は若い。
はつらつとしていて艶の良い顔は満面の笑みだった。
元々ここら一帯の市場を取り仕切る家系だそうだ。

「それと……孤児院へ行きたいとのことですが……間違いないですか?」

若い長は不思議そうな顔を僕たちに向けた。

「ああ、そうだ。薫がどうしても気になることがあるようでな。案内してくれ」
「かしこまりました」

僕たちは王族の印のついた馬車に乗り、近衛が周りを固めた。

乗馬した町の長と役人が先導する。

「休みも取らず移動で大丈夫だったか?」
「僕は大丈夫ですよ、だって船でもゆっくりしてたんですから」

僕は蘭紗様に笑いかけると、隣に座っている蘭紗様は翠を抱く僕ごと抱きしめた。

「あの、蘭紗様こそ……本来これは蘭紗様のお仕事ではないのに、なんだか巻き込んじゃってすみません」
「何を言う……国にとって子こそ宝だ。視察して悪いことなどないぞ」
「そうですね」
「おかあさま……孤児院に行くんですか?」

翠は不安そうに僕を見上げた。
目が少し潤んでいるように見える。

「翠……前に翠がいたところとは違うんだよ。怖いことも嫌なこともないから安心して。お船でもお話したよね?孤児院がどうなっているか確認するのは僕のお役目なの」
「はい、おかあさまのおやくめ」

翠は噛みしめるように言って僕の胸にぽすっと頭を預けた。
僕は柔らかな髪をそっと撫で、ヘタっとなったちいさな耳を見て不安になった。

「やっぱり……そのまま寄るなんて僕のわがままでしたよね。任せればよかったのかも」
「気にせずともよい、そなたがそう思ったのならなにか意味があるのかもしれない。薫はとにかく考えすぎる。それが良いところでもあるが、気に病みすぎては良くない。もっと自分本位で良いのだよ」
「……はい」

馬車から見える景色は見慣れた感じの港町の風景から変わり、森の奥に入っていく。
目に入る木々はどれも背が高くとても太い。
ここで良い木が取れて家具作りなども盛んだというのがわかる。

「到着でございます」

近衛の声が聞こえ、僕は蘭紗様に手を引かれ降り立った。
そこにはこじんまりとしたレンガ造りの館があった。
壁には蔦が這い、周囲の森に溶け込み、ここが孤児院と知らなければ普通の家のように見える。

「さあ、こちらです」

長の案内通りに歩いて門をくぐり、正面玄関の前まで来ると、脇に野菜の植わった畑があるのが見えた。
そこで手入れをしているのは大人の使用人で安心する。

「まあ……本当にいらした……」

目を丸くしながら手を口にあて、驚いた様子の一人の女性がそこに立っていた。
ふくよかで優しそうな人だ。

「私はこの孤児院の院長をしております、本日はアオアイからお戻りになってそのままいらしたとか……」
「ああ、突然ですまぬな」

後ろからザクザクと砂利を踏む足音が聞こえて振り向くと、涼鱗さんとカジャルさんだった。

「まあ……本当に皆様がお揃いで……さあこちらでございます」

院長は慌てることなくゆっくりとした動きで僕たちを中に入れてくれた。
中に入るときれいに整えられた生活の様子が伺えた。
床も磨かれている。

壁はところどころ修繕されているが、かえってそれがきちんと管理しているのだなと思える。

「子どもたちは今、勉強の時間ですので学び舎に行ってる子もいます。まだ小さい子は学び舎を卒業した子と一緒に書き方や読み方の練習をしております」

そう言いながらメインフロアだと言う部屋のドアを開けてくれた。

広いフローリングの部屋にはあたたかそうな手作りのラグが広げられて、その上でゴロゴロして遊ぶ幼い子と絵本を読んであげている子、そしてなるほど……字を教わっている子もいた。

「おだやかに過ごしているのですね」

僕は思わず感心してその言葉をこぼすと、院長はフフっと笑った。


しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...