狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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ナナ2

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 やがて、近衛がその場に座ったかと思うと、そのまま何かを掴んで立ち上がり、ゆっくりと戻ってきた。
腕の中にはなにか毛むくじゃらのものが抱かれている。

「え?うさぎ?」
「いえ……これは……おそらく地下研究室の実験動物でしょう」
「え?実験?」

僕は近づいてきた近衛の腕に抱かれた動物をじっと見つめた。
つぶらな瞳がこちらを向いて、「きゅん」と鳴いた。
猫の成体ぐらいの大きさで、モルモットのような生き物だった。
だけど羊のようなふわふわな毛に覆われているから、本体はもうちょっと小さいのかも。

「抱っこしていいかな?」
「薫様、この動物は大変おとなしいですが、万が一お怪我でもされたら……」
「大丈夫だよ、ね、いいでしょ?」

僕が懇願すると、近衛はためらいながらその子を僕の腕に渡してくれた。

「かわいい……」

ふわふわなその子はよく見るともさもさの毛の中に小さな耳があって、それがくるくる動いていた。
周りを警戒しているのかも。

「大丈夫だよ、何もしないからね」
「きゅん」

どうしよう、これ、やばいやつ。

「薫様……」

近衛は困り果てたようにその場に佇み、僕も彼の顔をじっと見つめ返した。

「城に連れて帰っちゃ駄目なのかな?野生なのかな?」
「いえ……その種類に野生はおりません、おそらくなんらかの偶然で逃げ出した個体かと……地下研究室に聞けばわかりましょうが……」
「なら、僑先生に聞こうか……研究室に向かいましょ」

戸惑いつつも僕に何も言えずただ一緒に歩くしか無い近衛は可愛そうだけど……僕これ、だめだ、手放せないや。

やがて城の一階に着くと、門兵が目をむいて驚いた。
でもそれには構わずさっさと地下に向かって研究室に繋がる厚いドアを開けてもらった。

「僑先生、いらっしゃいます?」
「はい……はい?……えええ?どうしたんですか薫様!どうしてナナが!」
「この子、やっぱり僑先生の?」
「ええ、あれれ?」
「外にいたんですよ、森の中で見つけたんです」
「でも……外に出るなんて……あ!昨日着替えを取りに戻る時に出ちゃったのか!」

僑先生が声を張り上げるものだから、他の研究員や医師らもぞろぞろと集まりだした。

「ナナじゃないか……」

口々にこの子の名らしきものを呼ぶ。

「ナナなんて可愛らしい名前まで付けて可愛がってるわりに、いなくなったこと気づいてなかったんですか?」

僕はつい責めるような口ぶりになってしまう、仕方ないじゃない、やばいぐらいかわいいんだから。
嗅ぎなれた匂いに気がついたのか、ナナが腕の中から顔を上げてキョロキョロと見回した。

「というかですね……ナナって……あれですよ?番号ですよ?」
「は?」
「例の、阿羅国の実験に使った順番が7番目だったんで、7と呼んでるんです、まあ成功しちゃって7だけは寿命が100年以上になっちゃってますんでね、長い付き合いになりそうだから、特別に檻からだして自由に遊ばせてるんですが」
「数字の7……」

僕は呆然として腕の中のかわいいもふもふをじっと見つめた。
やばいかわいい。

「では……このナナを僕にもらえませんか?引き取らせてください。大事に育てます」
「え……か、薫様?」

ギャラリーの研究員達もどよめいた。

「なんかおかしなこと言いました?」
「おかしなこともなにも……動物を飼うって、薫様が実験なさるわけでもないのに、どうして?」
「ああ……そうでしたね、こちらの世界ではペットってないんでしたっけ……愛玩するための動物です。それが良いことばかりとは言えないけど、捨てられて可哀想な子もいたしな……」

僕は日本にいた頃に記事で読んだペット業界の闇を思い出した。

「だけど、家畜でもなく実験動物でもなく、可愛がるためだけに一緒に暮らす動物をそばに置いておくのは、子供の情操教育にもいいって言うし、というより、もう僕の心がこの子から離れないんです、この子がここで可愛がられているのなら違いますが、ほっとかれてるだけなら、もらいますから」

腕の中の子をぎゅっと抱きしめると、「きゅ」と短く鳴いた。

「えと……はぁ……ん……まあ……なんといいますか……」

僑先生はもじゃもじゃ頭をぽりぽりと掻いてフフッと笑った。

「わかりました、薫様がそうおっしゃるのなら……つまり動物をお部屋で飼うということをなさりたいんですよね?7がお気に召したのなら、良かったですよ、僕や他の研究員はそこまでその子に愛情があるわけではないですしね、ただ……時々数値を取りに伺いますよ、痛いことはしません、脈などを見るだけです」
「ええ、かまいませんよ、というか、健康管理にはやはり一役買ってもらわないと僕の方も安心できませんから、よろしくおねがいします」
「では……そうしましょうか……あ、檻は持っていかれます?」

指さされた方を見ると、動物病院にあるようないかにもな檻が置いてあった。

「いえ……それはいらないかな……あ、排泄なんかはどこで?」
「その種は決まった場所にするんです、自分の排泄物の匂いが付いている場所でするので、これをお持ちになって……と……薫様にこんなものを渡すわけには……」
「私が預かりましょう」

近衛の一人が陶器の大きめな皿を持ってくれた。

「食事はなにがいいんでしょう?」
「この子らは生の野菜をご用意いただければ……あと水浴びは大好きですから、させてあげるのもいいかもしれません」
「水浴び!わかりました!」

僕は研究員たちに見送られながらもふもふを抱いて60階に向かった。
翠はきっと喜ぶだろうな……ふふ。
蘭紗様はなんていうだろう!

僕は4番目の家族を連れてにこにこしながら廊下を歩いた。


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