狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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お兄ちゃん

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 そっとソファーに毛玉みたいなナナを置いてみた。
頼りない手足がぴょんと伸びて、ジタバタしてから「ふわ~」っとあくびをした。
僕はその時初めてナナの口を発見したんだ。
だってほんとにもふもふ過ぎて顔がよくわからないんだ。

警戒心が全く無いようで、僕に抱かれていても抵抗してなかったので、そっと手を出しておでこのあたりを撫でて、毛をかき分けてみた。
小さなお鼻らしきものを見つけた。

なんだか気持ちよさそうに喉を鳴らして「きゅ」と短く鳴いた。

ん……かわいすぎて……鼻血が出そうなんだけど。

「あの、薫様?」

振り向くと困り顔の侍女たちが並んでこちらを伺っている。

「ああ、ごめんね、事情を話さないとね、そこに座ってくれる?」
「はい」

普通は侍女を座らせたりしないって後から知ったんだけど、立たせたまま自分だけが座っているのって、なんだか落ち着かないんだよねって話してから、僕が促すと素直に座るようになってくれている。

「近衛から、これをお預かりしておりますが」

里亜が大切そうに持っていたのはナナのトイレだ。
僕は吹き出しそうになったけど、そのまま受け取って、部屋の隅に置いてみた。

そうするとそれをじっと見ていたナナが、タトトっと走っていって、その中にころころとしたものをプププと出した。

仙は、座っていた椅子からパッと立ち上がり両手を揉み上げながら叫んだ。

「このお部屋は大切な薫様のものでございますよ?!こんなものは早く野に放たねばなりません!」
「仙、落ち着いて」

僕はなんとなく予想がついていたので、慌てずに仙に近寄って手を握り、そしてもう一度椅子に座らせた。

「話を聞いてくれる?」

仙は真っ赤な顔で息を止め、フウと小さく深呼吸して頷いた。

その仙に安心して、僕も対面に周って座ると、状況がわかっていないサヨが僕にお茶を運んできてくれて、先輩侍女たちが蒼白な顔になっていることに驚いて固まってしまった。

「サヨありがとう、サヨも座ってくれる?」
「……はい」

サヨはおどおどしながら一番端にちょこんと座った。

「あのね、日本ではね、こうやってお部屋でペットといって、愛玩動物を飼うことが割と一般的だったんだ。この子はね、僑先生の実験で100年の寿命を授かった子なの。これから長い時間ずっとあの地下室でほっとかれるぐらいなら、僕が可愛がってあげたくて、それでね、引き取ってきたの」
「……」

仙は無言で難しい顔をして考え込んだ。

「……その……愛玩動物に関しては……確かに……覚えがございますが……」
「侍女長、何人かのお嫁様も実際に小鳥などをお部屋に置かれていたと、習いましたね」

お嫁様付きの侍女として教育されている彼女達は、普通は知りえない歴代のお嫁様の普段の生活を学んでいるのだ。
古くから伝わるその中に、ペットの記述もあったということなんだろう。

「しかし、このような毛並みのいかにも部屋が汚れそうな獣がいたというのは、なかったでしょう」
「……獣って……この子はね、おとなしいし、それから人懐っこいよ」

僕はソファーに戻ってペロペロとお腹を舐めて毛づくろいしているナナを抱き上げ、仙の近くに寄った。

仙は一瞬顔を強張らせたが、眉間にシワを寄せて興味深げにナナを覗き込む。

「ちょっと、触ってみて?ね、みんなも」

恐る恐る手を出す仙や真野と違って、里亜とサヨは嬉しそうに毛並みに沿ってゆっくりと撫でて、目を輝かせた。

「なんて柔らかな!ふわふわな触り心地でしょう!」
「かわいいですね!」

二人の反応に僕は嬉しくなって頷いていると、仙と真野もそっと触ってから二人で顔を見合わせフフっと笑いあった。

「どうかしたの?」
「いえ……里で摘んでいた綿花を思い出しまして」
「はい、侍女長、私もですよ、そっくりですね触り心地」
「本当に」

その時短い手足を大の字に開いてお腹を上に向けて、「ふわ~」っともう一度あくびをしたナナは、そのまま「くぅー」とかわいい寝息を立てて寝てしまった。
僕は寝てしまったナナを抱っこしたまま仙の膝の上に置いてみた。

「もし、動物がどうしても嫌いっていうのなら仕方ないけど、そうじゃなくてお部屋が汚れるからとか、世話が大変だからとか、そういう理由で反対しているのなら……それは僕が責任を持つから、許してくれない?」
「そ……そんな!」

仙は、膝に置かれたグーグー寝ている毛玉を落とさないようにそっと手で抱きながら、慌てて言った。

「嫌いだなんてそんなことはございませんよ!ですが……そうですね……汚れれば掃除すればいいだけですものね」
「うん、それに、この子はあのお皿しか汚さないと思うから、ね?それからね、できるだけ僕が自分でその始末もするからね……」
「いえ……薫様にそのようなことをさせるわけには……」
「これは僕のペットなんだよ、僕が世話しなきゃいけないの。わかってくれる?もちろん手が回らない時は頼むけど」
「……はい」
「それから、櫛をお願いしていいかな?モサモサすぎるから、梳いてあげたいの」
「わかりました!」

里亜とサヨはウキウキで立ち上がり、いそいそと櫛を取りに行った。

「薫様の世界では……どのような立場の方も、こういうお世話をなさるのですか?」
「ん……でも、飼うってそういうことじゃないの?」
「確かに……そうでございますね」
「それにね、世話するのが楽しみなの。だから、やらせて」

僕が念を押すと、仙と真野はフフっと笑って頷いた。

「薫様のなさることに大声をあげたりして、申し訳ありませんでした」
「仙、君がこの部屋をいつも居心地良く整えてくれていること、本当に感謝してるんだよ。だから、そんな風に言わないでね。それに、本当の家族みたいにちゃんと話せて嬉しかったよ」

僕は、『捨て猫を連れて帰ってお母さんに怒られる子供』の図を思い出して笑った。
よくあったよね、ドラマや漫画なんかで。
まさか自分がそれを体験できるなんてね。
仙と僕の年齢差は10才ぐらいだから、お母さんじゃなくてお姉さんかな?

ちょうどその時、里亜がカゴを持って現れて、それを床に置くと、そのカゴに柔らかな布をパサリと広げてナナの簡易ベッドを作ってくれた。
僕は嬉しくなってそこにナナを寝かせた。
専用ベッドで眠るナナはもう、単なる毛玉だ。

そして、ぴょんと飛び出た手足が可愛すぎて悶絶……

サヨが可愛らしい手頃な大きさの櫛をお盆に乗せて持ってきてくれたので、それを受け取り、そっと櫛を通すと、細くやわらかな毛が梳かれるたびにきれいに整っていく。
しばらく無心で櫛を通していると、後ろからかわいい声が聞こえてきた。

「おかあさま、ただいま帰りました」
「翠!おかえりなさい」
「おかあさま、それはなんですか?」

翠は不思議そうな顔で覗き込み、指でツンツンつついた。
すると、もぞもぞと動いたナナに翠はハッとして僕の背中に隠れた。

「翠、怖くないよ、ナナっていうの。かわいがってあげて」
「ナナ?」
「そう、僑先生から引き取ってきたの。僕たちの家族だよ」
「かぞく!」

翠は一瞬固まってから、ゆっくりと動いてナナを小さな手で撫で始めた。
その仕草が可愛くてたまらない。

「ふあふあ」
「そうでしょ?かわいいでしょ」
「お顔はどこ?」
「いま、寝てるみたい」
「かあいい……」

翠は「んー?」と言いながら色んな角度から寝入るナナを観察し続けた。
ぴょこんと飛び出た足を引っ張って嫌がられたりしながら。

僕は翠をソファーに座らせて、寝ているナナをちいさな膝の上に置いた。
翠は真っ赤な顔で息を止めてじっとしているので、おかしくなって笑ってしまった。

「アハ! 息止めないで、翠、死んじゃうから」
「でも!」
「大丈夫、逃げないよ。とってもね、おとなしくていい子なの」
「はい!」

翠の小さな膝の上で一度身体をブルブルと震わせてから伸びをしたナナは、不思議そうに翠を見上げて、「キュ」っと鳴いた。

「よろしくね、ナナ、ぼく翠紗です」
「ナナ、君のおにいちゃんだよ」
「え……ぼくお兄ちゃん?」
「うん」
「わあ……」


翠は瞳を輝かせてナナを抱き上げて頬ずりをした。





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