狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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前夜祭4

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次の日の朝、目が覚めると胸の中で丸くなって眠る翠がいて驚いた。

「翠?」
「んにゃ」

小さな体で伸びをしてふわーっとあくびをして、目をコシコシした。

「おかあさま……だいじょぶ?」

回らない口で眠そうに僕を心配する翠をぎゅっと抱きしめた。
大好きな若草の匂いがして、心が満たされる。

「起きたのか?」

振り向くと、背中側にいたのは蘭紗様だった。

「あれ?3人で寝たのですか?」
「そうだ、翠紗がどうしても一緒にいたいと言うし、我も同じ気持ちだったからな」
「エヘ……なんか嬉しい」

翠を抱きしめる僕は、後ろからさらに蘭紗様に抱きしめられ、あまりの心地よさに目を瞑った。

「もう少ししたら食事をとって、それから姉と波羽彦の見合いがあるのだが……どうする?」
「行きますよ、僕、今回のことは見守りたいのです。意見を言うつもりはありませんけど」
「うむ、わかった」
「ぼくも」

寝ぼけ眼であくびをしながらそう言う翠が可愛くておでこにキスをした。

「翠紗も一緒にと、波成からは言われている。薫さえ良ければ翠紗も同席させたい」
「そうですか……翠は王子ですからね、同席させましょう」
「わかった」

静かにそう頷いた蘭紗様は、するっと僕の後ろからベッドを抜け出して、侍女を呼んだ。

支度をするためにそれぞれの侍女が部屋に入ってきたので、僕は翠の着替えを頼み、自分の支度に集中した。

バルコニーのテーブルに並べられた朝食を家族3人で食べ、そして見合いの席へと向かう。

迎賓館の離れに案内され、本館と打って変わってどこからどこまでも和風であることに驚いた。
港町はどこも洋風が一般的で、あまり和風なものを見ないのだ。
どの世界でも海の玄関口は異国情緒あふれるものなんだろうね。

しかし別館の室内は畳が敷かれ、掛け軸もあって生け花もあった。
静かにそこに座する久利紗様は白い着物に梅紫の袴、そして桜の刺繍が美しい豪奢な薄桃色の羽織をお召しだった。

「久利紗様、きれい!」
「とってもきれい!」
「ありがとうございます、薫様」

僕と翠の言葉に恥ずかしそうに微笑む久利紗様は、25才とは思えぬ初々しさで頬を染め、これから結婚する相手を待っていた。
まるで10代の少女のようだ。

人と長らく接してこなかったこの人にとって、突然の嫁入りなど、ある意味では恐怖でもあるだろうに、強い人だなと心の中で思う。

「失礼いたします」

障子が開き、現れたのは、波羽彦王と波成様だ。
2人はゆっくりと室内に入ってきて、並んで座り、そして深くお辞儀をした。

「本日は……このように素晴らしいご縁を結んでいただき、心から御礼を申し上げる」
「こちらこそ、大変良い縁談で嬉しく思っておりまする」

落ち着いた声でお互いに挨拶をし終えると、久利紗様と波羽彦王は視線を合わせた。

付添の蘭紗様と僕と翠は、控えめにただ見守るだけとした。

「何から話していいのやらなあ……妾は、波羽彦さまと同い年と聞くが……妾は外の世界を知らぬゆえ、色々と難儀なこともあろうかと思う……このようなおなごが王妃となる……そちらは本当によろしいのか?」
「……何をおっしゃいますか。我ら阿羅国は、蘭紗や涼鱗の力添えでなんとか新生阿羅国として生まれ変われたばかりでございます。かつての阿羅国を覚えている人達にとって、我々の国は恐怖の対象であり……まだそれは全く払拭されておりません。……ですので、波成がわが嫁として嫁いでくれたことにとても喜んでいたのですが、更には姫までが私の元へ来てくださると言うのならば、これ以上の幸せはないと、そう思うのです」

久利紗様は少し視線を落としてじっとだまり、そして静かに話した。

「妾は、そなたらの邪魔になりはせぬかの?」

僕はハッとして久利紗様を見つめた。
視線は合うことは無かったけれど、長く密に生え揃ったまつげが細かに震え、細い眉が少し下がっている様を見て、久利紗様の苦しみが手にとるようにわかった。

「妾は……すでに愛し合っているそなたらの間に……邪魔者のようにはいってゆかねばならん……そして……波成様が、我が父の霊獣であったことも承知している。ということは……波成様は妾にとっても大事なお方となるのだ……この縁談が始祖様のお告げによって結ばれたことであることは承知してはいるが……もしも、波成様の気持ちに少しでもゆらぎがあるのならば、断ってくれて構わぬ」

波成様は柔らかい笑顔を浮かべ、そして久利紗様の手を取りじっと見つめた。

「私は……久利紗様のことを邪魔だなんて思っていません。この縁談は、必ず阿羅国にとって力となります。始祖様は、紗国のことだけでなく阿羅国のことまでも気にかけてくださっているのです」
「だが……」
「私は、久利紗様に来ていただきたい。あなたのような聡明な方が一緒にいてくださるのなら、きっと阿羅国は世界に誇る国になるはずです。どうか私に力を貸してもらえませんか?」
「波成様……」

久利紗様は波成様をじっと見つめてそして、微笑んだ。

「一つ聞くが……妾はそなたの妻になるのではないのだよな?」
「え?……私も一応男子ですが、あなたは波羽彦様の王妃になっていただくのですよ」
「だが……いまのはどこからどう見ても、そなたから妾への求婚じゃったが」

僕も蘭紗様も、そして波羽彦様も思わず笑ってしまい、「あ」と言って真っ赤になった波成様だけが焦っていた。

「し、失礼しました」
「いいのじゃ、謝る必要はない。では波羽彦王……波成様、よろしく頼む、今後、長きに渡ってな」

久利紗様と波羽彦様はお互い見つめ合ってそして頷きあった。



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