狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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紗国の花祭り1

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 港町で咲き乱れる赤やピンクの大きな花は、僕の手の平の大きさと同じくらいで、翠の頭より大きなものもある。

よく見ると八重咲きの華やかなものから、一重咲きの楚々としたもの、花びらがカールしてより華やかなものがあって、品種改良してるのかな?と思わせた。

花畑は港町からも見通せる小高い丘に広がっていて、見渡す限り花の絨毯が敷き詰められているようで、海の潮風に吹かれながら眺めるそれは格別だった。

「おかあさま!このお花の枚数は7枚ですよ!」

一重咲きの花に、そっと手を添えて慎重に数えていた翠は大発見のように大声で教えてくれて、周囲を笑顔にさせた。

「翠、これ見てごらん、こんなに花弁が重なってるのもあるよ」
「わぁ!」

僕が指差す八重咲きの花に驚きながら近寄り、くんくんと匂いを嗅いだりそっと触ってみたりして目を輝かせた。

「きれいです、おかあさまの着物のようですね!……あの……絵を描いていいですか?」
「フフ、そう言うと思ってね、準備してあるんだよ、でもここは通路だから少し移動しようね」

森の方へ寄って開けた場所に来ると、僕は侍女に持たせていた敷物を広げさせ、そこに翠を上がらせた。

スッと絵の道具を持って翠のそばに控えたのは、翠の絵の助手をしてくれる郁さんだ。
城の侍女たちと共に馬車移動で数々の絵の道具を運んできてくれたのだ。

僕たちは目で合図をしあって、後は静かに翠の集中を途切れさせないよう見守った。
こんな時は余計な挨拶や礼などは挟まないよう、僕は皆に伝えてあるのだ。

郁さんが敷物の上に板を置き、その上に和紙を置くと、翠はそばに置かれた墨でサッと花をデッサンしていく。
翠は小さな体をいっぱいに使って、自分の体の大きさほどもある和紙に詳細に花弁を描いたり、群生している様を俯瞰で描いたり、見てきたものを吐き出すようにしている。

そばに寄り添う郁さんはその様子をじっと見て、必要なものを継ぎ足したり手渡したり、紙を変えたりと、細かいところまで気を使って翠を支えてくれている。

子供だからと上から目線で指図するでもなく、王子だからと遠慮するだけでもなく、必要なことはアドバイスもし、そして影ながら手助けをする……
言葉で言うほど簡単なことではないだろうと、想像する。

本当にこの方がそばにいてくれてよかった。

その集中している様子を見ていると、いつのまにか後ろに蘭紗様と涼鱗さん、そしてカジャルさんがいた。

「すごいね……とても声なんてかけられないねぇ」
「絵に対しては集中力がすごいんですよね」
「だが、あの真剣な目は薫がバイオリンを弾いている時に似てると我は思うのだが」
「確かに似てる」
「え?ほんとに?」

カジャルさんは、香夜葉の手を握って笑った。
僕はなんとなく沈んだ感じに見える香夜葉が心配で、声をかけた。

「香夜葉は、港町で生まれ育ったんだから、この花を小さい頃から見てたでしょ?良い匂いがするしとてもキレイだね」
「はい、薫様」

香夜葉は僕の顔を見て笑顔で答えてくれた。
でもなんとなく浮かない感じだ。

「でも、僕が作っていたお花もとってもきれいなんです。あの花はこんな風にみんなに見てもらえないまま枯れてしまったんでしょうか」

僕は咄嗟に言葉が出なくて思わず涼鱗さんを見た。
涼鱗さんは座り込んで香夜葉と目線を合わせた。

「ごめんね香夜葉、あの花は前にも話したように、悪いクスリの元になってしまうものだったんだよね……香夜葉たちがせっかく一生懸命育ててくれたものだけど、あの後取り払ってしまったんだよ、もう二度とその薬ができないようにね」
「取り払った……もう無いってこと……」

香夜葉は唇をかみしめて下を向いた。
自分の労働が世の中のためになっていなかったことを知るというのは、悲しいことだね。
きっと香夜葉は自分の労働に誇りを持っていたんだね。

こんなに小さいのに、毎日休みなく一生懸命働いていたんだもの。

小銭のようなものしかもらえなかったのに、母に食事を買って帰宅する日々だったと聞いている。
香夜葉の母がベッドから起き上がれなくなったのはここ半年だそうだから……その間ずっとこの子だけの給金でなんとか2人食べてきたということだ。
どんな思いをしてきたのか……僕にはわかるわけないけど……でも、少しでも香夜葉の心を癒やしてあげたかった。

「もう咲かないの?」
「そうだね、紗国では栽培を禁止している花だからね」
「そうなんだね」

涼鱗さんの返事を聞いて、香夜葉は悲しげな顔で赤い花にそっと触れた。


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