狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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紗国の花祭り2

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「あのね香夜葉……スレイスルウっていう花があるの。それはね、とっても小さなお花なんだけどね、そこから病気を治すクスリを作るの。その花は秋の雨の中、ほんの少しの晴れ間にだけ咲く儚い花でね、水に濡れて透明なんだよ」
「透明……」
「そう、水色っぽい透明なの。そのお花の管理をしてみない?」
「え……僕が?」
「そうだよ、人の身体を悪くして命を奪うものではなくて、その逆……今度は人の命を助けるお花を、育ててみない?ちょうどね、香夜葉の住むおうちから近いんだよ」
「なるほど薫……それはいい案だね」
「だけど……僕……できるかな……」
「大丈夫、ひとりじゃないよ。エルフの先生もいるし、徐々に習えばいいからね」
「わぁ……はい!」

香夜葉は心からの笑顔になって嬉しそうに返事をしてくれた。
僕はホッとして皆を見る。
すると、皆も頷いてくれて賛同してくれた。

いずれ、誰しもが自分の特技を生かした仕事をしていかなければならない。
僕は、香夜葉は心から植物に向かい合える子だと思った、それはきっと素質だと感じた。
それに、香夜葉の心を癒やす為にも、自然と向き合うのはきっと有益だ。

「薫……ありがとう……私ではその案は思いつかなかったよ……さすがだね」
「うん、さすが薫様……」

涼鱗さんもカジャルさんも香夜葉の笑顔にホッとしているようだ。

ふと見ると、大きな美しい布地の傘を差した一団が近寄ってくるのが見えた。

「ここにいたのですね、涼鱗にカジャル。あら、蘭紗様も薫様もいらしたのですか……これは失礼いたしました」
「いえ、とんでもないです。お花畑を周っていらっしゃるのですか?」
「ええ、ほんとうに毎年楽しみにしているのよ。春がいつも待ち遠しいの。今年は北のほうにも足を伸ばしますのよ」

貴婦人のお手本のように、優雅な話し方で僕にもにっこりと笑ってくれたのは、涼鱗さんのお母様だ。
赤い大振りな花が咲き乱れる花畑がよく似合っている。

「香夜葉……さあ、香夜葉……私はあなたのおばあさまです、こちらにおいで」
「え……はい!」

手を差し伸べられて一瞬固まった香夜葉だが、ラハーム王妃の優しい笑顔に引き込まれるようにその手を取った。
そして、ふわっと抱きしめられて頬を紅潮させて、かわいらしい笑顔になった。

「ふふ……こんなにかわいらしい孫ができるなんてね……しかも狐族の」

ラハーム王妃は香夜葉のかわいい三角耳をツンと触って、微笑んだ。

「だから言ったでしょ?あなた方、そのうちきっと子を持つわって」
「……母上、あれは……まあ、なんていうか」

涼鱗さんは口ごもってカジャルを見て助けを求めた。
カジャルさんは笑いながらそんな涼鱗さんの背中を叩いた。

「ほんとに突然だったんですよ、港町に査察に行ってるはずの涼鱗が子供を抱えて帰ってきたのです。そしてあれよあれよという間に」
「ほほほ!せっかちで自分勝手なのは変わらないわね、カジャル、あなたも苦労するわね」
「いえ、苦労なんてしておりません。涼鱗はいつも優しいですから」
「ふふ……お熱いことね」

ラハーム王妃は扇で軽くカジャルの腕を叩いてからかった。
カジャルさんの顔が真っ赤になったのが面白くて僕たちは声を上げて笑ってしまった。

「だけど、きちんとなさいよ、白渚家はくしょけの子としてちゃんと迎え入れなさいね」

まだ正式に養子としていないことを指摘され、二人共深く頷いた。
今はまだ養育しているというだけの間柄ではあるのだ。

「香夜葉の心しだいで、私達はいつでもそうするつもりなあんですよ、母上。ですが香夜葉は赤子ではないからねぇ、自分の気持ちだってあるんだし……無理強いはしたくなくてねえ」
「親が求めてあげることが大事なんですよ、ねえ、香夜葉」
「……僕、ずっと2人の子供でいたい……って思ってます……」
「ほらごらんなさい」
「え……ほんとに?私達の子になってくれるの?」

香夜葉は恥ずかしそうに頷いて2人を見つめた。

「早く私の正式な孫にしてちょうだい」

ラハーム王妃は優雅に微笑んだ。

僕と蘭紗様は再び、こちらの喧騒などないかのように集中して描き続ける翠を見つめた。
可愛らしい小さな手から、魔法のように美しい絵が生まれる。
観察力が素晴らしいと、郁さんは褒めてくれているのだけど、本当にそうだと思った。

おそらく初めて見たはずのこの花々を正確に描写し、いろいろな角度からたくさん描いている。
素描であるはずが、もうすでにそれそのものが作品のような出来に見えてしまうのは、僕の贔屓なんだろうか……

「それにしても……翠紗様の才能は素晴らしいわね……」

ラハーム王妃も目を見張り、それを見つめた。

「はい、僕は……この美しい景色をこんな風に切り取って描ける翠が……誇らしいです」
「我もだよ」



春の花祭りは心が軽くなって、そしてしっとりと幸せを満たしてくれるような、そんなお祭りだった。



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