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お嫁様1
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紗国の夏が来た。
つまり……ここに来てもう一年になるということだ。
昨年は訪れたばかりのこちらの世界に慣れようとただただ必死だったような気がする。
それに……阿羅国に連れ去られてしまったのも夏だったな。
それから、翠に出会ったのも。
僕は横ですやすやと眠る翠の可愛い顔を見つめて微笑んだ。
こんなに穏やかに優しい気持ちにさせてくれる……我が子の寝顔は親にとっては宝だよね。
「薫様……」
控えめな声で呼ばれてベッドからソッと降り、部屋を出た。
応接セットのソファーに座っているのは佐良紗様と久利紗様の姉妹。
一応、森の神殿長の佐良紗様が長女だけど、年の差はほんの半年だ。
母親が違うためにこのような年の近い姉妹となっているらしい。
佐良紗様の母は蘭紗様の母と同じなので、久利紗様がおこした不幸な事故により亡くなっている。
そして、久利紗様のお母様もまた……その事故がきっかけとなりお亡くなりに。
つまり、二人共母を幼い頃に亡くしているのだ。
そして特殊な環境で育ったために、親の愛情というものをほぼ知らない。
僕が翠のお昼寝をさせるからと抱っこして寝かせているのを不思議そうな顔でじっと見つめていた。
その顔はねだっても手に入れられないものを、それでもやっぱりほしい……そう胸に秘めた幼女のようなおさない顔だった。
普段は威厳に溢れた義姉たちのそんな表情は、僕の胸に悲しく響いた。
「のう……薫、そなたは本当に……真の母のように翠紗を慈しむのじゃな……」
「誠にのう……」
佐良紗様は盲の靄がかかったような瞳をくるりと動かした。
見えないというけれど、魔力の形が見えるらしくほぼ人の形や物の形は識別できるらしい。
その姿は12才ぐらいの少女のまま成長が止まっている。
神殿に入ってから、少しも変わらない見かけなのだそうだ。
「物語の中にある母の姿そのものを、妾は見た……という気持ちじゃ」
「うむ」
妹の久利紗様は普通に成長され、美しく咲き誇るようなたおやかな大人の女性だ。
佐良紗様の成長が止まった姿と並ぶと、若い母と娘のように見えなくもない。
そして、顔立ちはそっくりだ。
「物語……ですか?」
僕は侍女を下がらせて自分で紅茶を入れながら、翠と一緒に焼いた焼き菓子を出した。
紅茶を蒸らす間、お気に入りのティーセットを出して並べていると、久利紗様がついに吹き出した。
「だから……そなたはなぜにそう……理想的な母の姿そのものなのじゃ?」
「え?」
「そんな風に手ずから茶を淹れるだけでなく、なんとこの菓子を自分で焼いたなどと……そなたでなければ、にわかには信じられぬぞ」
「ふふふふ」
二人共面白そうに破顔した。
ここまで笑う二人の姿を見るのは初めてで僕もつられて笑ってしまった。
「そんな……大げさですって!日本にいた頃に妹と何回か作ったこともあったんですよ、それから日本では学校で調理実習がありましてね、このケーキの配合はとても簡単なんです、材料がみな同じ分量なんですよ」
「そうか……日本では学び舎でそのような実践的なことを教えておるのじゃな……なかなかに興味深い」
「ええ、身の回りのことは自分でできる方が良いに決まってます。何があるかわからないんですから」
「うむ……たしかにそうじゃな」
「それに、お二人もお茶はご自分でお淹れになるじゃないですか」
「確かにのう……」
「妾らは王家以外の母を知らぬゆえ、子を寝かしつけたり、こうやって客をもてなす王妃というものを初めて目の当たりにしているのじゃ……そなたがすべてのお手本じゃな」
「大げさですから!」
その言葉に僕は慌てたが、ふと見るとちょうど砂時計が落ちたのでお茶をカップに入れていく。
二人の義姉は僕の手元をじっと見つめていた。
つまり……ここに来てもう一年になるということだ。
昨年は訪れたばかりのこちらの世界に慣れようとただただ必死だったような気がする。
それに……阿羅国に連れ去られてしまったのも夏だったな。
それから、翠に出会ったのも。
僕は横ですやすやと眠る翠の可愛い顔を見つめて微笑んだ。
こんなに穏やかに優しい気持ちにさせてくれる……我が子の寝顔は親にとっては宝だよね。
「薫様……」
控えめな声で呼ばれてベッドからソッと降り、部屋を出た。
応接セットのソファーに座っているのは佐良紗様と久利紗様の姉妹。
一応、森の神殿長の佐良紗様が長女だけど、年の差はほんの半年だ。
母親が違うためにこのような年の近い姉妹となっているらしい。
佐良紗様の母は蘭紗様の母と同じなので、久利紗様がおこした不幸な事故により亡くなっている。
そして、久利紗様のお母様もまた……その事故がきっかけとなりお亡くなりに。
つまり、二人共母を幼い頃に亡くしているのだ。
そして特殊な環境で育ったために、親の愛情というものをほぼ知らない。
僕が翠のお昼寝をさせるからと抱っこして寝かせているのを不思議そうな顔でじっと見つめていた。
その顔はねだっても手に入れられないものを、それでもやっぱりほしい……そう胸に秘めた幼女のようなおさない顔だった。
普段は威厳に溢れた義姉たちのそんな表情は、僕の胸に悲しく響いた。
「のう……薫、そなたは本当に……真の母のように翠紗を慈しむのじゃな……」
「誠にのう……」
佐良紗様は盲の靄がかかったような瞳をくるりと動かした。
見えないというけれど、魔力の形が見えるらしくほぼ人の形や物の形は識別できるらしい。
その姿は12才ぐらいの少女のまま成長が止まっている。
神殿に入ってから、少しも変わらない見かけなのだそうだ。
「物語の中にある母の姿そのものを、妾は見た……という気持ちじゃ」
「うむ」
妹の久利紗様は普通に成長され、美しく咲き誇るようなたおやかな大人の女性だ。
佐良紗様の成長が止まった姿と並ぶと、若い母と娘のように見えなくもない。
そして、顔立ちはそっくりだ。
「物語……ですか?」
僕は侍女を下がらせて自分で紅茶を入れながら、翠と一緒に焼いた焼き菓子を出した。
紅茶を蒸らす間、お気に入りのティーセットを出して並べていると、久利紗様がついに吹き出した。
「だから……そなたはなぜにそう……理想的な母の姿そのものなのじゃ?」
「え?」
「そんな風に手ずから茶を淹れるだけでなく、なんとこの菓子を自分で焼いたなどと……そなたでなければ、にわかには信じられぬぞ」
「ふふふふ」
二人共面白そうに破顔した。
ここまで笑う二人の姿を見るのは初めてで僕もつられて笑ってしまった。
「そんな……大げさですって!日本にいた頃に妹と何回か作ったこともあったんですよ、それから日本では学校で調理実習がありましてね、このケーキの配合はとても簡単なんです、材料がみな同じ分量なんですよ」
「そうか……日本では学び舎でそのような実践的なことを教えておるのじゃな……なかなかに興味深い」
「ええ、身の回りのことは自分でできる方が良いに決まってます。何があるかわからないんですから」
「うむ……たしかにそうじゃな」
「それに、お二人もお茶はご自分でお淹れになるじゃないですか」
「確かにのう……」
「妾らは王家以外の母を知らぬゆえ、子を寝かしつけたり、こうやって客をもてなす王妃というものを初めて目の当たりにしているのじゃ……そなたがすべてのお手本じゃな」
「大げさですから!」
その言葉に僕は慌てたが、ふと見るとちょうど砂時計が落ちたのでお茶をカップに入れていく。
二人の義姉は僕の手元をじっと見つめていた。
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