狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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空を駆ける花嫁1

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 美しく花咲き乱れる晩春、久利紗様のお輿入れとなった。
決まってからほぼ日を置かずに一月しか経ってない。
こんなに早く?と僕は驚いたけど、この世界の結婚は決まってしまえば後は早いうちに式を執り行うようだ。
なんともあっさりしている。

蘭紗様と僕と翠は3人とも王族の最も正式な正装で森の神殿に赴き、まずは久利紗様の始祖様へのご挨拶に立ち会った。

久利紗様は、とても美しかった。
真っ白な着物を重ねて、袴も同じ白だ。
花の織り模様が美しく立体的で、ふんわりとした生地だ。
そしてとても軽い。
最高級の蝶の絹で、紗国の名産なのだ。

そして、白地に赤く紗国の紋が染め抜かれた長い打ち掛けを羽織り、頭には大きな王女の黄金の冠を付けている。

紗国を発つ前、王族は勢ぞろいで森の神殿にご挨拶に向かった。
久利紗様は深く頭を垂れ、長い間始祖様にお祈りを捧げた。

僕の目にはなんとなく白い光に一瞬だけ久利紗様が覆われたように見えたのだけど……
気のせい?だったのか、誰も何も言わなかった。

その後、佐良紗様のお言葉をいただき、紗国での行事は済んだ。

久利紗様は阿羅国からの使者と共に飛び立たれるのだ。
と言っても、特別な訓練を受けたわけではない王女が、飛翔で移動は無理だ。
そこで、僕の天馬たちの出番!

3頭の天馬は白地に赤の縫い取りのある飾り帯でおしゃれして、更には黄金の紐をたてがみに編み込んでいている、芸術品のような佇まいだ。
僕は3頭の顔にそれぞれキスをして「よろしくね」と挨拶した。

それから翠と久利紗様と共に乗り込み、空に飛び立った。
天馬たちは御者がいなくても先導する近衛や、すぐ横を飛んでいる涼鱗さん、そしてカジャルさんたちと並んで僕たちを安全に運んでくれる。

馬車の中から僕たちはそのかわいい様子を笑顔で見つめた。

ふと見ると、一番後ろにヴァヴェル王国のアイデン王が人の形で飛翔している。
不可侵の森を長距離に渡って飛ぶので、万が一のときのために同行してくれるというのだ。
とっても優しい。

でもね、よく考えたら……他国の王を護衛にしてるってことだよね!
いいのかな?と思わなくもないけれど、アイデン王のことは皆が思考を放棄するので、もはやだれも何も言わない……

空高く飛んだところで一度城下町の上空をくるりと周ったのだが、下に小さく見える民らは手を振って、お輿入れする久利紗様を見送っている。
城下町の人々にとって天駆ける馬車はもう見慣れたものになりつつあって、乗っているのが僕たちだということも知っている。
皆事情を深くは知らなくても、閉じこもっておられた王女の門出を祝福しているようで、心がほんわりした。

「あのように……手を振って……」
「はい、久利紗様をお見送りなのですよ」
「……そうか……妾のことなど……もう皆忘れてしもうておると、そう思っておったが」
「そんなわけないですよ、自分の国の姫を忘れる民なんていません、皆、久利紗様のお幸せを願っているのです」
「そうか……」

窓の下に見える手を振る民をじっと見つめながら久利紗様は涙を一筋流した。
僕が慌ててハンカチを手渡すと、それを受け取りながら微笑んだ。

「すまぬな……なんとなく、なんとなくじゃ」
「そうですね」

心配した翠が久利紗様の手をきゅっと握るとその手をポンポンと叩いて、満面の笑みを返した。

「そなたのような元気でかわいらしく、そして才能のある子を、妾も産まねばな」
「きっと、可愛らしい子でしょうね、でもその場合、どうなるんでしょうか?狐族と人間の間の子ということになりますよね」
「それなのじゃが、これまでも各地より女が数多く誘拐されてのう……阿羅国で子を産んでいるようでな、8割方人間として生まれるようじゃ」
「……なるほど」

僕はその言葉に一瞬言葉が出なかった。
でも、どうしても……聞きたくなった。

「……久利紗様は、阿羅国の阿羅彦のことを、恐ろしいとお思いですか?」
「うむ、普通に考えれば恐ろしいな。あれほどの大悪人じゃ。しかも、子を産ませるということに執着していて、女性の身からするとなんともおぞましくもあるしな」
「そうですよね……」
「だがな……今は、なんとなくわかるのじゃ」
「今は?」

僕は久利紗様の顔をじっと見つめて表情を読み取ろうとした。
しかし、ほんのり色づいたピンク色の頬の、美しい花嫁衣装の久利紗様は、どこからどう見ても幸せそうな女性そのもので、憂いを感じることはできない。

「そうじゃな……新人……と言うのだったな?日本名では」
「はい、僕の……大切な幼馴染で、優しくて強くて……そして……大好きな友達です」

いつしか僕の目に涙が浮かんで久利紗様や翠がぼやけて見えた。


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