291 / 317
空を駆ける花嫁1
しおりを挟む
美しく花咲き乱れる晩春、久利紗様のお輿入れとなった。
決まってからほぼ日を置かずに一月しか経ってない。
こんなに早く?と僕は驚いたけど、この世界の結婚は決まってしまえば後は早いうちに式を執り行うようだ。
なんともあっさりしている。
蘭紗様と僕と翠は3人とも王族の最も正式な正装で森の神殿に赴き、まずは久利紗様の始祖様へのご挨拶に立ち会った。
久利紗様は、とても美しかった。
真っ白な着物を重ねて、袴も同じ白だ。
花の織り模様が美しく立体的で、ふんわりとした生地だ。
そしてとても軽い。
最高級の蝶の絹で、紗国の名産なのだ。
そして、白地に赤く紗国の紋が染め抜かれた長い打ち掛けを羽織り、頭には大きな王女の黄金の冠を付けている。
紗国を発つ前、王族は勢ぞろいで森の神殿にご挨拶に向かった。
久利紗様は深く頭を垂れ、長い間始祖様にお祈りを捧げた。
僕の目にはなんとなく白い光に一瞬だけ久利紗様が覆われたように見えたのだけど……
気のせい?だったのか、誰も何も言わなかった。
その後、佐良紗様のお言葉をいただき、紗国での行事は済んだ。
久利紗様は阿羅国からの使者と共に飛び立たれるのだ。
と言っても、特別な訓練を受けたわけではない王女が、飛翔で移動は無理だ。
そこで、僕の天馬たちの出番!
3頭の天馬は白地に赤の縫い取りのある飾り帯でおしゃれして、更には黄金の紐をたてがみに編み込んでいている、芸術品のような佇まいだ。
僕は3頭の顔にそれぞれキスをして「よろしくね」と挨拶した。
それから翠と久利紗様と共に乗り込み、空に飛び立った。
天馬たちは御者がいなくても先導する近衛や、すぐ横を飛んでいる涼鱗さん、そしてカジャルさんたちと並んで僕たちを安全に運んでくれる。
馬車の中から僕たちはそのかわいい様子を笑顔で見つめた。
ふと見ると、一番後ろにヴァヴェル王国のアイデン王が人の形で飛翔している。
不可侵の森を長距離に渡って飛ぶので、万が一のときのために同行してくれるというのだ。
とっても優しい。
でもね、よく考えたら……他国の王を護衛にしてるってことだよね!
いいのかな?と思わなくもないけれど、アイデン王のことは皆が思考を放棄するので、もはやだれも何も言わない……
空高く飛んだところで一度城下町の上空をくるりと周ったのだが、下に小さく見える民らは手を振って、お輿入れする久利紗様を見送っている。
城下町の人々にとって天駆ける馬車はもう見慣れたものになりつつあって、乗っているのが僕たちだということも知っている。
皆事情を深くは知らなくても、閉じこもっておられた王女の門出を祝福しているようで、心がほんわりした。
「あのように……手を振って……」
「はい、久利紗様をお見送りなのですよ」
「……そうか……妾のことなど……もう皆忘れてしもうておると、そう思っておったが」
「そんなわけないですよ、自分の国の姫を忘れる民なんていません、皆、久利紗様のお幸せを願っているのです」
「そうか……」
窓の下に見える手を振る民をじっと見つめながら久利紗様は涙を一筋流した。
僕が慌ててハンカチを手渡すと、それを受け取りながら微笑んだ。
「すまぬな……なんとなく、なんとなくじゃ」
「そうですね」
心配した翠が久利紗様の手をきゅっと握るとその手をポンポンと叩いて、満面の笑みを返した。
「そなたのような元気でかわいらしく、そして才能のある子を、妾も産まねばな」
「きっと、可愛らしい子でしょうね、でもその場合、どうなるんでしょうか?狐族と人間の間の子ということになりますよね」
「それなのじゃが、これまでも各地より女が数多く誘拐されてのう……阿羅国で子を産んでいるようでな、8割方人間として生まれるようじゃ」
「……なるほど」
僕はその言葉に一瞬言葉が出なかった。
でも、どうしても……聞きたくなった。
「……久利紗様は、阿羅国の阿羅彦のことを、恐ろしいとお思いですか?」
「うむ、普通に考えれば恐ろしいな。あれほどの大悪人じゃ。しかも、子を産ませるということに執着していて、女性の身からするとなんともおぞましくもあるしな」
「そうですよね……」
「だがな……今は、なんとなくわかるのじゃ」
「今は?」
僕は久利紗様の顔をじっと見つめて表情を読み取ろうとした。
しかし、ほんのり色づいたピンク色の頬の、美しい花嫁衣装の久利紗様は、どこからどう見ても幸せそうな女性そのもので、憂いを感じることはできない。
「そうじゃな……新人……と言うのだったな?日本名では」
「はい、僕の……大切な幼馴染で、優しくて強くて……そして……大好きな友達です」
いつしか僕の目に涙が浮かんで久利紗様や翠がぼやけて見えた。
決まってからほぼ日を置かずに一月しか経ってない。
こんなに早く?と僕は驚いたけど、この世界の結婚は決まってしまえば後は早いうちに式を執り行うようだ。
なんともあっさりしている。
蘭紗様と僕と翠は3人とも王族の最も正式な正装で森の神殿に赴き、まずは久利紗様の始祖様へのご挨拶に立ち会った。
久利紗様は、とても美しかった。
真っ白な着物を重ねて、袴も同じ白だ。
花の織り模様が美しく立体的で、ふんわりとした生地だ。
そしてとても軽い。
最高級の蝶の絹で、紗国の名産なのだ。
そして、白地に赤く紗国の紋が染め抜かれた長い打ち掛けを羽織り、頭には大きな王女の黄金の冠を付けている。
紗国を発つ前、王族は勢ぞろいで森の神殿にご挨拶に向かった。
久利紗様は深く頭を垂れ、長い間始祖様にお祈りを捧げた。
僕の目にはなんとなく白い光に一瞬だけ久利紗様が覆われたように見えたのだけど……
気のせい?だったのか、誰も何も言わなかった。
その後、佐良紗様のお言葉をいただき、紗国での行事は済んだ。
久利紗様は阿羅国からの使者と共に飛び立たれるのだ。
と言っても、特別な訓練を受けたわけではない王女が、飛翔で移動は無理だ。
そこで、僕の天馬たちの出番!
3頭の天馬は白地に赤の縫い取りのある飾り帯でおしゃれして、更には黄金の紐をたてがみに編み込んでいている、芸術品のような佇まいだ。
僕は3頭の顔にそれぞれキスをして「よろしくね」と挨拶した。
それから翠と久利紗様と共に乗り込み、空に飛び立った。
天馬たちは御者がいなくても先導する近衛や、すぐ横を飛んでいる涼鱗さん、そしてカジャルさんたちと並んで僕たちを安全に運んでくれる。
馬車の中から僕たちはそのかわいい様子を笑顔で見つめた。
ふと見ると、一番後ろにヴァヴェル王国のアイデン王が人の形で飛翔している。
不可侵の森を長距離に渡って飛ぶので、万が一のときのために同行してくれるというのだ。
とっても優しい。
でもね、よく考えたら……他国の王を護衛にしてるってことだよね!
いいのかな?と思わなくもないけれど、アイデン王のことは皆が思考を放棄するので、もはやだれも何も言わない……
空高く飛んだところで一度城下町の上空をくるりと周ったのだが、下に小さく見える民らは手を振って、お輿入れする久利紗様を見送っている。
城下町の人々にとって天駆ける馬車はもう見慣れたものになりつつあって、乗っているのが僕たちだということも知っている。
皆事情を深くは知らなくても、閉じこもっておられた王女の門出を祝福しているようで、心がほんわりした。
「あのように……手を振って……」
「はい、久利紗様をお見送りなのですよ」
「……そうか……妾のことなど……もう皆忘れてしもうておると、そう思っておったが」
「そんなわけないですよ、自分の国の姫を忘れる民なんていません、皆、久利紗様のお幸せを願っているのです」
「そうか……」
窓の下に見える手を振る民をじっと見つめながら久利紗様は涙を一筋流した。
僕が慌ててハンカチを手渡すと、それを受け取りながら微笑んだ。
「すまぬな……なんとなく、なんとなくじゃ」
「そうですね」
心配した翠が久利紗様の手をきゅっと握るとその手をポンポンと叩いて、満面の笑みを返した。
「そなたのような元気でかわいらしく、そして才能のある子を、妾も産まねばな」
「きっと、可愛らしい子でしょうね、でもその場合、どうなるんでしょうか?狐族と人間の間の子ということになりますよね」
「それなのじゃが、これまでも各地より女が数多く誘拐されてのう……阿羅国で子を産んでいるようでな、8割方人間として生まれるようじゃ」
「……なるほど」
僕はその言葉に一瞬言葉が出なかった。
でも、どうしても……聞きたくなった。
「……久利紗様は、阿羅国の阿羅彦のことを、恐ろしいとお思いですか?」
「うむ、普通に考えれば恐ろしいな。あれほどの大悪人じゃ。しかも、子を産ませるということに執着していて、女性の身からするとなんともおぞましくもあるしな」
「そうですよね……」
「だがな……今は、なんとなくわかるのじゃ」
「今は?」
僕は久利紗様の顔をじっと見つめて表情を読み取ろうとした。
しかし、ほんのり色づいたピンク色の頬の、美しい花嫁衣装の久利紗様は、どこからどう見ても幸せそうな女性そのもので、憂いを感じることはできない。
「そうじゃな……新人……と言うのだったな?日本名では」
「はい、僕の……大切な幼馴染で、優しくて強くて……そして……大好きな友達です」
いつしか僕の目に涙が浮かんで久利紗様や翠がぼやけて見えた。
16
あなたにおすすめの小説
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる