狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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番外編

まざりの子 5

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「あ……」

どうしよう……こんな美しい人に近寄ったら……僕こんなに臭くて汚いのに……

逃げたくて、少しずつ後ずさった。

でも、背をそっと押す手がある、近衛の人が押しているのだ。
前に出ろ……そういうことなんだろう。

「あなたの名前は?」

なんて優しい声だろう……
綺麗な輝く黒髪がさらりと揺れて、遠くにいてもいい匂いがしてくるようだった。
あの人がお嫁様……

「な……まえ?」

名前って……僕にはそんなもの、ないのに。

「名前なんてあるわけない、こいつはまざりだ」
「人じゃないんだ」

おにいさんたちが僕を指さして、いつものように僕を罵った。
下を向いて、靴も履いていない自分の足を見つめた。

それは土にまみれ、汚く、傷だらけだ。
体の中で唯一きれいなのは、荘園につくとまず石鹸で洗われる手だけだ。
商品に触れるから、手は綺麗にしなきゃならないって。

その手をぎゅっと握りしめて、唇をかみしめた。

僕は……汚くて、臭いんだ。

「今から、体をキレイにしようか、気持ち悪いだろう?」

美しい人は優しくそう聞いてくれた。

「おふろ……」

そうだ、お風呂という場所でみんなは体を洗うんだ。
前に、おにいさんとおねえさんに聞いたからそれは知っている。

「なんであらうの?」
「まざりはそのままでいいんだよ、また汚れるんだから」

みんなの声は聞こえてくるけど、そんなのどうでも良かった。
僕をお風呂に連れて行ってくれるなら、そんな嬉しいことはない。
お風呂で洗うってどんな気持ちだろうか……


「それは違うよ、あの子も子供だ、紗国の子供なんだよ、ちゃんと人なんだ」

その時聞こえてきたお嫁様の声、僕を人って……言ってくれたの?

「だからね、まずキレイにしてあげないとね、君たちの院長はちょっと……考え方がおかしかったみたいだね、ちゃんとあの子も自分たちの仲間だと思ってくれたらうれしいな」
「嫌だよ」
「ばかみたい、あの子が人なんて」

皆の声なんてもう、どうでも良かった。
僕を人と言ってくれる人、そして僕を嫌がらずに抱き上げてくれる人。
今日だけでこんなにも、幸運に恵まれた。
神様っているんだなって、そう思えたから。

「さあこっちへ」
「お風呂に行く前に少しここで予洗いをするぞ」

近衛の人の小さな声に従って、院の裏側近くの水場でゆっくりと水をかけて洗われた。

そしてボロボロになっていた僕の着物を脱がせてくれた。
優しい手つきで洗われて、なんだか気持よかった。
ウシやブタだって、毎朝僕とおじさんがブラシで撫でると喜ぶもんね。
こうやって手をかけてあげることが大事なんだって、おじさんだっていつも言ってた。

「さあ、風呂場へ向かうぞ」


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