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帰り道
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二人は並んで公園を後にした。
時刻は八時に近づき、話疲れた雨村は無言になっていた。詩音はここにきて、最初に自分が泣けないと言ってしまった事を後悔していた。雨村に余計な負担を負わせるだけになる。これまでのように自分の中だけで昇華すればよかったのだ。道を照らす街灯が、今日はなぜか頼りない。
「あ、私、ここ右に曲がるから」
詩音は分岐路に差し掛かってそう言った。気づけば家のすぐそばまで戻っていた。
その声に雨村は立ち止まった。
「愛咲って優しいよな」ぽつりと言う。
「そうかな? そんなことないよ」
「今日初めて話したのにこんなこと言うのも変だとは思うが、俺、
お前のことが……」
その時である。
背中に強い衝撃が走って詩音は地面に倒れこんだ。
「まだいたのかよ! このクソ女!」
「戸坂、お前!」
由手に辞書を持っていた由羅は、割って入ろうとした雨村の顔面をそれで殴りつけた。完全に興奮している。
「来んなよ聖!」
そしてまた詩音に向き直った。
辞書を両手で握り直している。由羅はそれを細い腕で天に掲げた。
ダメ、叩かれる。
詩音がそう覚悟したとき、灰色の影が由羅の前に飛び出した。
猫だ。
灰色の猫が現れて、爪で由羅の足を引っ掻いた。
「痛っ」由羅がその場でうずくまった。
そこを雨村が羽交い絞めにする。由羅は足を怪我していた。
「かなり血が出てる。愛咲、一応救急車を呼んでくれ」
「うん」
詩音は背中を抑えて立ち上がった。
「いいってば!」由羅は手を振りほどこうとする。
「黙れ。動物は危ないって言ってるだろ」
「前もあの猫に引っ掻かれそうになったし何なの!」
「あれはお前が蹴ったからだろっ」
「何であの子には構って由羅のことは無視するの!」
「落ち着け。戸坂が塾に行ってたからだろ」
由羅はしばらく暴れていたが、雨村と話すうちにやがて落ち着いて静かになった。
五分と経たずに救急車がやってきて由羅は病院へと運ばれる。
サイレンの音が聞こえなくなり全てが終わると、雨村は老人のようなため息をついた。そして次に発した一言に、詩音はまた頭をかき乱される。
「戸坂もな、本当は自殺したはずの人間なんだ」
今日は何も考えずにぐっすり眠りたい、詩音は心からそう思った。
時刻は八時に近づき、話疲れた雨村は無言になっていた。詩音はここにきて、最初に自分が泣けないと言ってしまった事を後悔していた。雨村に余計な負担を負わせるだけになる。これまでのように自分の中だけで昇華すればよかったのだ。道を照らす街灯が、今日はなぜか頼りない。
「あ、私、ここ右に曲がるから」
詩音は分岐路に差し掛かってそう言った。気づけば家のすぐそばまで戻っていた。
その声に雨村は立ち止まった。
「愛咲って優しいよな」ぽつりと言う。
「そうかな? そんなことないよ」
「今日初めて話したのにこんなこと言うのも変だとは思うが、俺、
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その時である。
背中に強い衝撃が走って詩音は地面に倒れこんだ。
「まだいたのかよ! このクソ女!」
「戸坂、お前!」
由手に辞書を持っていた由羅は、割って入ろうとした雨村の顔面をそれで殴りつけた。完全に興奮している。
「来んなよ聖!」
そしてまた詩音に向き直った。
辞書を両手で握り直している。由羅はそれを細い腕で天に掲げた。
ダメ、叩かれる。
詩音がそう覚悟したとき、灰色の影が由羅の前に飛び出した。
猫だ。
灰色の猫が現れて、爪で由羅の足を引っ掻いた。
「痛っ」由羅がその場でうずくまった。
そこを雨村が羽交い絞めにする。由羅は足を怪我していた。
「かなり血が出てる。愛咲、一応救急車を呼んでくれ」
「うん」
詩音は背中を抑えて立ち上がった。
「いいってば!」由羅は手を振りほどこうとする。
「黙れ。動物は危ないって言ってるだろ」
「前もあの猫に引っ掻かれそうになったし何なの!」
「あれはお前が蹴ったからだろっ」
「何であの子には構って由羅のことは無視するの!」
「落ち着け。戸坂が塾に行ってたからだろ」
由羅はしばらく暴れていたが、雨村と話すうちにやがて落ち着いて静かになった。
五分と経たずに救急車がやってきて由羅は病院へと運ばれる。
サイレンの音が聞こえなくなり全てが終わると、雨村は老人のようなため息をついた。そして次に発した一言に、詩音はまた頭をかき乱される。
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今日は何も考えずにぐっすり眠りたい、詩音は心からそう思った。
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