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由羅と詩音
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放課後、雨村から長い話を聞いた詩音は、電車に乗って由羅の入院する病院へと向かった。もう日は暮れたのに気温は高く、右往左往するうちに詩音は汗だくになっていた。もしかしたら由羅と一対一で話すことへの緊張も混ざっていたかもしれない。
戸坂は中学一年生で自殺した、と雨村は言った。雨村と学校が同じだった小学生の頃から協調性に欠けている節があって、中学でいじめに遭い、誰にも相談することなく死んでしまったらしい。母親は幼い時に家から出ていき、父子家庭の子供だった。
詩音は病院の前で深呼吸をする。
今日来ることは、事前に雨村が伝えてくれているはずだった。
「由羅ちゃんのお友達? そのパーマよく似合ってるわ」
「ありがとうございます」
気さくな看護師さんに連れられて、詩音は由羅の病室の前に立った。
恐る恐る、優しくノックする。
「戸坂さん。愛咲です」 「はい」
抑揚のない簡潔な返事。
入るね、と一声かけながら詩音は中に入った。
由羅は足にガーゼを巻いていたがそのほかは変わりなく、昨日と同じように肩まで見える服を着て、暇そうに枕もとで携帯ゲームをしていた。
「愛咲さん、思い出したよ。昔子役やってた人でしょ」
詩音が椅子に座ってすぐ開口一番、由羅は目を合わせずに言った。
「そうだけど」
その言葉に詩音は身を固くする。
「何で聖と一緒にいたの?」
「雨村君があのドラマのファンだっていうから」
詩音は事前に、自分が『縞馬の剣』の原案を作ったことを由羅には教えないでくれ、と雨村に言われていた。
「だから何なの。ファンとか知らないし。てかあんなことあったのに由羅のとこ来るとか気持ち悪いんだけど」
予想通り由羅の反応は硬い。でも詩音は決めていた。
「戸坂さん……由羅ちゃん。私、由羅ちゃんと仲良くなりたい」
由羅がゲームから手を離して詩音に顔を向ける。
「何で? 由羅はあんたを殴ったんだよ」
「それはもういいよ。私も悪かったから」
「聖もあんたが悪いって」
「そうだね。私が悪……」
「あんたはなんにも悪くないよ!」
由羅が急に大声を出した。詩音は言葉を止める。
「由羅が悪いに決まってんじゃん。何なの? 聖に言われて由羅に媚び売ってんの。テキトーなこと言うんだったら帰って!」
由羅はゲームを投げて布団に頭を埋めた。
「私は嘘つかないよ。本当にそう思ってるよ」
「でもいっつもウソ泣きしてたんでしょ」
冷たく言い放つ。由羅は調べていたようだ。やっぱり自分はそういうふうに見られてしまうんだと、詩音は再認した。
由羅も詩音の一番痛いところを突いた自覚はあった。布団の隙間から詩音の方をちらりと見て反応を窺う。
だが詩音は何も変わらなかった。何かから守るように感情を消した顔を、無機物のように皮膚の上に浮かべていた。
戸坂は中学一年生で自殺した、と雨村は言った。雨村と学校が同じだった小学生の頃から協調性に欠けている節があって、中学でいじめに遭い、誰にも相談することなく死んでしまったらしい。母親は幼い時に家から出ていき、父子家庭の子供だった。
詩音は病院の前で深呼吸をする。
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「由羅ちゃんのお友達? そのパーマよく似合ってるわ」
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恐る恐る、優しくノックする。
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抑揚のない簡潔な返事。
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「そうだけど」
その言葉に詩音は身を固くする。
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「だから何なの。ファンとか知らないし。てかあんなことあったのに由羅のとこ来るとか気持ち悪いんだけど」
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「何で? 由羅はあんたを殴ったんだよ」
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「聖もあんたが悪いって」
「そうだね。私が悪……」
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「由羅が悪いに決まってんじゃん。何なの? 聖に言われて由羅に媚び売ってんの。テキトーなこと言うんだったら帰って!」
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「でもいっつもウソ泣きしてたんでしょ」
冷たく言い放つ。由羅は調べていたようだ。やっぱり自分はそういうふうに見られてしまうんだと、詩音は再認した。
由羅も詩音の一番痛いところを突いた自覚はあった。布団の隙間から詩音の方をちらりと見て反応を窺う。
だが詩音は何も変わらなかった。何かから守るように感情を消した顔を、無機物のように皮膚の上に浮かべていた。
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