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ごめん
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「やっぱり私って人に媚びてんのかな」
しん、とした空気の中、詩音は重々しく言葉を紡いだ。
「どうしてそう思うの?」
由羅には詩音が何を考えているのか分からない。
彼女は無表情のまま語る。
「昔から私って一人では泣けなくてさ、誰かに泣いてよ、って期待された時だけ涙が出てきて、それを凄いね、って褒められるたびにホッとしていた自分がいる。だから今でも思うの。本当にお母さんが死んじゃった時に泣けなかった私は、一体何なのために生きていたんだろうって。誰からも好かれるように生きてきたつもりだったのに、私は誰の為にもなれなくて、そんな馬鹿でうすっぺらい私が嫌われないように怯えながら生きてきて」
「ふーん」
「つい一昨日さ、仲良くしてた友達に、詩音ってなんかちょっと距離あるよねって言われちゃって、すごく嫌だった。私ってどこかで自分が傷つけられないようにバリアを貼っているのかもしれない」
「でも仲良くしてるんでしょ?」
「うん。友達は少ないけど……」
「じゃあいいじゃん。ませ過ぎなんだよ、子役愛咲は」
由羅は皮肉を込めて言った。
「私はほかの人より未熟だよ」
「そうやって自分で言うのが腹立つ」
「自分でもそう思うよ。私は世間の人が言うように、嘘で固められた子供。だから由羅ちゃんの方がよっぽどかわいい」
「は? あんたその顔して皮肉か、喧嘩売ってんの?」
「本当だってば」詩音は由羅の細い腕を掴んだ。
その瞳は真っすぐに透き通っていて、怖い。
「やめろよ!」
振りほどこうと揺らした手が、詩音の顔に当たった。
「痛っ」眼を抑えている。
「あ、ごめん」思わず由羅は謝った。
「大丈夫だよ」詩音が顔を上げる。
その目は真っ赤に充血していたが、涙は流れていなかった。
「もう少し瞬きしたら?」
「いや、大丈夫」
詩音は首を振り、乾燥させるように目を見開いている。
その様子はとても辛そうだ。
「おかしいって。そんなの間違ってるって」
「分かってる」
「じゃあ」
「けど……」
「嘘なんかついてもいいんだよ!」
由羅は甲高い声を上げた。
「全部正直になんかなれるわけないじゃん。みんな背伸びしてびくびくしながら生きてんだよ。詩音は真面目過ぎるんだよ」
詩音は由羅の様子に驚いている。
「バカな友達の話を聞いて」詩音には喋らせない。
「小学校から仲がいい友達グループがあったんだ。前はずっと一緒に行動してた。でも由羅は空気が読めないクズだから、約束を破ったり、時間に遅れたりして、みんなから距離を置かれるようになった。それでその中の一人から、『由羅ちゃん、私はいいけど他のみんなが由羅ちゃんのこと、ちょっと勝手すぎるって怒ってたよ』って言われた。由羅はめっちゃ気にしたけど、ふーんって気にしてない感じで返事した。そしたら別の日、別の子からまた、『私はいいけど他の子たちが由羅ちゃんが空気読めないって悪口言ってたよ』って言われた。
びっくりしたよ。あり得ないと思うかもだけど、由羅そのグループ全員から『私はいいけどみんなお前の事ウザいと思ってる』って言われたの。だから由羅ムカついて、みんなで集まった時に、
『誰が由羅の事嫌いなの!』って問い詰めた。そしたら下向いて誰も目を合わせてくれなかった。
でもよく見たらひっそり互いに目配せしてて、由羅に見つかんないように唇の形で『やば』って言って笑ってたの。
そうだよ! みんな由羅のこと嫌いだったんだ。心配する振りして由羅を仲間外れにしたいだけの奴らだった。はは、由羅がバカだったよ。そんな奴らとも見抜けずに仲良くなっちゃって。由羅は人を見る目がないんだろうな。でも早いうちに縁を切れてまだよかったな」
そう言って由羅は力なく笑った。
「分かるよ。私も誰からも嫌われたくなかった」
詩音が赤い目のまま頷いた。
は? 嫌われたくないとかそんな話してないだろ。
そう言いかけた由羅の脳裏に、雨村のことが浮かんだ。
そうだ、それは確か、秋の夕暮れだった。
「だから由羅ね、そいつらとはもう話さないことにしたの」
由羅は一方的にグループから飛び出して、家の近くの空き地に雨村を呼び出していた。
話を聞いた雨村は、首を大きく縦に振った。
「それでいいと思うぞ。大体世の中には自分の意見や要望を何かに押し付けようとする輩が多すぎる。例えば動物園に行くか水族館に行くかという話になった際に、動物園に行きたい奴は『どっちでもいいけど』という言葉を頭に置いて、水族館は料金が高いとか、今日はたぶん混んでいるとか、少し遠いとか、行けない理由ばかりを探す。動物園に行きたいなら、動物園に行きたい理由とその魅力をはじめから伝えればいいのだ。そいつらは自分の意見を意見として述べる自信がない、或いは自分を綺麗に見せたい奴らだから戸坂は気にする必要はないぞ。きっぱり別れてしまえ」
雨村はいつものように自信満々に言った。
オレンジの地平線。それを聞いた自分が、一体どんな表情をしていたのか、由羅には分からない。
その由羅の表情を見た雨村は、間違えた、とでもいうような顔をして言うのだ。
「もしかしてお前、そいつらと仲良くしたいのか?」
ベッドから落ちたゲーム機をわけもなく見つめていた。
「由羅ちゃん?」詩音が心配したようにのぞき込んでいる。
外の暗さとは対照的に、部屋の光に照らされた詩音は明るく映る。
「由羅ってさ、誰からも嫌われたくなかったのかな」
誰からも嫌われてもいい。そう思っているつもりだった。
「きっとそうだよ。由羅ちゃんは優しいから」
優しい? どこが。
優しさならこうしてお見舞いに来てくれた詩音の方がよっぽど上だ。
「由羅ちゃんは、みんなのことを知りたい、分かりたいっていう気持ちが強すぎて、空回りしちゃっただけだよ。優しくない人は由羅ちゃんみたいに悩むこともしない」
「詩音の方が優しいよ」
そうだ、絶対に。
「私の優しさは自分を良く見せるための偽善なんだろうから」
詩音はそう言って、から笑いをした。
善と偽善の違いとは何だろうか、と由羅は考える。答えは簡単だった。
「違う。由羅は詩音が来てくれて嬉しい。だから詩音は偽善じゃない」
その言葉に、詩音は一瞬固まった。何か良くないことを言ったかと由羅が焦った途端、詩音は見たことがないほど可愛い笑顔に変わったのだ。
「由羅ちゃん! ありがとう」
手を握られる。
「うっ、どうも」
由羅は照れ臭くなって顔をそむけた。
聖。デレデレするあんたにムカついてたけど、由羅もおんなじことになったから、一回は特別に許してやる。
「てか詩音は自炊とかしてんの?」
由羅は目を合わせず、話を変えた。
「そうだよ。簡単なものしか作れないからレトルトに頼ってばっかだけど」
詩音は寂しそうに言う。
「由羅なんてなんも作れないから毎日レトルトだ」
母親は小さい時に喧嘩して家を出て行った。原因は由羅の空気の読めない問題行動に対する学校や友達の親の注意。それを日常的に浴びたストレスだった。その頃の父親はろくに子供の面倒も見ず、よく母に当たったりしていた。けれど母が家から出て行ってから強く反省したようで、由羅と真摯に向き合うようになっていた。今は由羅の方が時々感情に任せて心無い言葉を吐いたりして、そのことはいつも申し訳なく思っている。
「でも最近お父さんが料理の勉強しだした」
由羅が呟くと、詩音は羨ましそうな顔をした。
「いいなあ。私のお父さん仕事人間だから。全然そういうの構ってくれないよ」
それから詩音は遠慮したように付け加えた。
「お母さんとは会うことあるの?」
「ああ。二年前くらいに事故で死んだみたいだよ」
由羅はこともなく言った。実際小一で家を出た母の記憶は薄く、父親に告げられた時も深い悲しみは感じなかった。
「そうだったんだ。辛かったね」
詩音は言葉を詰まらせ、胸を押さえた。
由羅は、そうでもなかったよ、と言おうとして気づく。そうだ、この子はとても辛かったんだ。ずっと涙を流し続けて、枯れ果ててしまうくらい、お母さんが好きだったんだ。
『でもいっつもウソ泣きしてたんでしょ』自分の言葉が蘇る。
由羅はこの子に何を言っていたんだ。由羅はなんてひどい奴なんだ。
詩音はまだ、椅子に座ったまま苦しそうに俯いている。
「ごめんねええええええええ。詩音!!!!」
ベッドから飛び降りて体ごと詩音に抱きついた。
「ええ⁉ どうしたの由羅ちゃん」
詩音はとても驚いている。そりゃそうだ。また感情的になっているのはいくらバカな自分でも分かる。
「ごめんねえええええええ。辞書でぶん殴ってえええ。お前は語彙力がないから辞書を見ながら帰れって先生に言われてイライラしてたのおおおおお」
由羅は涙を流していた。詩音がハンカチを取り出して、大丈夫? と目元を拭ってくれる。
水分が瞳から拭き取られ、すっきりとする。
それで少し落ち着いた。由羅はいい匂いのする詩音の髪を触る。
「パーマ。かわいい」
「ずっと前からの行きつけなの」詩音が耳元でささやく。
「由羅ちゃんも、今度一緒に行こ?」
「うん」
詩音は由羅の腕を優しくほどいて立ち上がった。時計を見るといつの間にか八時近くになっている。
「もうすぐ病院閉まっちゃうね。行かなきゃ」
詩音の目は充血から元に戻っていた。
バイバイ、と手を振る詩音。
由羅も手を振り返し、扉が閉まってから最後に呟く。
「……由羅だけ泣いて、ごめん」
しん、とした空気の中、詩音は重々しく言葉を紡いだ。
「どうしてそう思うの?」
由羅には詩音が何を考えているのか分からない。
彼女は無表情のまま語る。
「昔から私って一人では泣けなくてさ、誰かに泣いてよ、って期待された時だけ涙が出てきて、それを凄いね、って褒められるたびにホッとしていた自分がいる。だから今でも思うの。本当にお母さんが死んじゃった時に泣けなかった私は、一体何なのために生きていたんだろうって。誰からも好かれるように生きてきたつもりだったのに、私は誰の為にもなれなくて、そんな馬鹿でうすっぺらい私が嫌われないように怯えながら生きてきて」
「ふーん」
「つい一昨日さ、仲良くしてた友達に、詩音ってなんかちょっと距離あるよねって言われちゃって、すごく嫌だった。私ってどこかで自分が傷つけられないようにバリアを貼っているのかもしれない」
「でも仲良くしてるんでしょ?」
「うん。友達は少ないけど……」
「じゃあいいじゃん。ませ過ぎなんだよ、子役愛咲は」
由羅は皮肉を込めて言った。
「私はほかの人より未熟だよ」
「そうやって自分で言うのが腹立つ」
「自分でもそう思うよ。私は世間の人が言うように、嘘で固められた子供。だから由羅ちゃんの方がよっぽどかわいい」
「は? あんたその顔して皮肉か、喧嘩売ってんの?」
「本当だってば」詩音は由羅の細い腕を掴んだ。
その瞳は真っすぐに透き通っていて、怖い。
「やめろよ!」
振りほどこうと揺らした手が、詩音の顔に当たった。
「痛っ」眼を抑えている。
「あ、ごめん」思わず由羅は謝った。
「大丈夫だよ」詩音が顔を上げる。
その目は真っ赤に充血していたが、涙は流れていなかった。
「もう少し瞬きしたら?」
「いや、大丈夫」
詩音は首を振り、乾燥させるように目を見開いている。
その様子はとても辛そうだ。
「おかしいって。そんなの間違ってるって」
「分かってる」
「じゃあ」
「けど……」
「嘘なんかついてもいいんだよ!」
由羅は甲高い声を上げた。
「全部正直になんかなれるわけないじゃん。みんな背伸びしてびくびくしながら生きてんだよ。詩音は真面目過ぎるんだよ」
詩音は由羅の様子に驚いている。
「バカな友達の話を聞いて」詩音には喋らせない。
「小学校から仲がいい友達グループがあったんだ。前はずっと一緒に行動してた。でも由羅は空気が読めないクズだから、約束を破ったり、時間に遅れたりして、みんなから距離を置かれるようになった。それでその中の一人から、『由羅ちゃん、私はいいけど他のみんなが由羅ちゃんのこと、ちょっと勝手すぎるって怒ってたよ』って言われた。由羅はめっちゃ気にしたけど、ふーんって気にしてない感じで返事した。そしたら別の日、別の子からまた、『私はいいけど他の子たちが由羅ちゃんが空気読めないって悪口言ってたよ』って言われた。
びっくりしたよ。あり得ないと思うかもだけど、由羅そのグループ全員から『私はいいけどみんなお前の事ウザいと思ってる』って言われたの。だから由羅ムカついて、みんなで集まった時に、
『誰が由羅の事嫌いなの!』って問い詰めた。そしたら下向いて誰も目を合わせてくれなかった。
でもよく見たらひっそり互いに目配せしてて、由羅に見つかんないように唇の形で『やば』って言って笑ってたの。
そうだよ! みんな由羅のこと嫌いだったんだ。心配する振りして由羅を仲間外れにしたいだけの奴らだった。はは、由羅がバカだったよ。そんな奴らとも見抜けずに仲良くなっちゃって。由羅は人を見る目がないんだろうな。でも早いうちに縁を切れてまだよかったな」
そう言って由羅は力なく笑った。
「分かるよ。私も誰からも嫌われたくなかった」
詩音が赤い目のまま頷いた。
は? 嫌われたくないとかそんな話してないだろ。
そう言いかけた由羅の脳裏に、雨村のことが浮かんだ。
そうだ、それは確か、秋の夕暮れだった。
「だから由羅ね、そいつらとはもう話さないことにしたの」
由羅は一方的にグループから飛び出して、家の近くの空き地に雨村を呼び出していた。
話を聞いた雨村は、首を大きく縦に振った。
「それでいいと思うぞ。大体世の中には自分の意見や要望を何かに押し付けようとする輩が多すぎる。例えば動物園に行くか水族館に行くかという話になった際に、動物園に行きたい奴は『どっちでもいいけど』という言葉を頭に置いて、水族館は料金が高いとか、今日はたぶん混んでいるとか、少し遠いとか、行けない理由ばかりを探す。動物園に行きたいなら、動物園に行きたい理由とその魅力をはじめから伝えればいいのだ。そいつらは自分の意見を意見として述べる自信がない、或いは自分を綺麗に見せたい奴らだから戸坂は気にする必要はないぞ。きっぱり別れてしまえ」
雨村はいつものように自信満々に言った。
オレンジの地平線。それを聞いた自分が、一体どんな表情をしていたのか、由羅には分からない。
その由羅の表情を見た雨村は、間違えた、とでもいうような顔をして言うのだ。
「もしかしてお前、そいつらと仲良くしたいのか?」
ベッドから落ちたゲーム機をわけもなく見つめていた。
「由羅ちゃん?」詩音が心配したようにのぞき込んでいる。
外の暗さとは対照的に、部屋の光に照らされた詩音は明るく映る。
「由羅ってさ、誰からも嫌われたくなかったのかな」
誰からも嫌われてもいい。そう思っているつもりだった。
「きっとそうだよ。由羅ちゃんは優しいから」
優しい? どこが。
優しさならこうしてお見舞いに来てくれた詩音の方がよっぽど上だ。
「由羅ちゃんは、みんなのことを知りたい、分かりたいっていう気持ちが強すぎて、空回りしちゃっただけだよ。優しくない人は由羅ちゃんみたいに悩むこともしない」
「詩音の方が優しいよ」
そうだ、絶対に。
「私の優しさは自分を良く見せるための偽善なんだろうから」
詩音はそう言って、から笑いをした。
善と偽善の違いとは何だろうか、と由羅は考える。答えは簡単だった。
「違う。由羅は詩音が来てくれて嬉しい。だから詩音は偽善じゃない」
その言葉に、詩音は一瞬固まった。何か良くないことを言ったかと由羅が焦った途端、詩音は見たことがないほど可愛い笑顔に変わったのだ。
「由羅ちゃん! ありがとう」
手を握られる。
「うっ、どうも」
由羅は照れ臭くなって顔をそむけた。
聖。デレデレするあんたにムカついてたけど、由羅もおんなじことになったから、一回は特別に許してやる。
「てか詩音は自炊とかしてんの?」
由羅は目を合わせず、話を変えた。
「そうだよ。簡単なものしか作れないからレトルトに頼ってばっかだけど」
詩音は寂しそうに言う。
「由羅なんてなんも作れないから毎日レトルトだ」
母親は小さい時に喧嘩して家を出て行った。原因は由羅の空気の読めない問題行動に対する学校や友達の親の注意。それを日常的に浴びたストレスだった。その頃の父親はろくに子供の面倒も見ず、よく母に当たったりしていた。けれど母が家から出て行ってから強く反省したようで、由羅と真摯に向き合うようになっていた。今は由羅の方が時々感情に任せて心無い言葉を吐いたりして、そのことはいつも申し訳なく思っている。
「でも最近お父さんが料理の勉強しだした」
由羅が呟くと、詩音は羨ましそうな顔をした。
「いいなあ。私のお父さん仕事人間だから。全然そういうの構ってくれないよ」
それから詩音は遠慮したように付け加えた。
「お母さんとは会うことあるの?」
「ああ。二年前くらいに事故で死んだみたいだよ」
由羅はこともなく言った。実際小一で家を出た母の記憶は薄く、父親に告げられた時も深い悲しみは感じなかった。
「そうだったんだ。辛かったね」
詩音は言葉を詰まらせ、胸を押さえた。
由羅は、そうでもなかったよ、と言おうとして気づく。そうだ、この子はとても辛かったんだ。ずっと涙を流し続けて、枯れ果ててしまうくらい、お母さんが好きだったんだ。
『でもいっつもウソ泣きしてたんでしょ』自分の言葉が蘇る。
由羅はこの子に何を言っていたんだ。由羅はなんてひどい奴なんだ。
詩音はまだ、椅子に座ったまま苦しそうに俯いている。
「ごめんねええええええええ。詩音!!!!」
ベッドから飛び降りて体ごと詩音に抱きついた。
「ええ⁉ どうしたの由羅ちゃん」
詩音はとても驚いている。そりゃそうだ。また感情的になっているのはいくらバカな自分でも分かる。
「ごめんねえええええええ。辞書でぶん殴ってえええ。お前は語彙力がないから辞書を見ながら帰れって先生に言われてイライラしてたのおおおおお」
由羅は涙を流していた。詩音がハンカチを取り出して、大丈夫? と目元を拭ってくれる。
水分が瞳から拭き取られ、すっきりとする。
それで少し落ち着いた。由羅はいい匂いのする詩音の髪を触る。
「パーマ。かわいい」
「ずっと前からの行きつけなの」詩音が耳元でささやく。
「由羅ちゃんも、今度一緒に行こ?」
「うん」
詩音は由羅の腕を優しくほどいて立ち上がった。時計を見るといつの間にか八時近くになっている。
「もうすぐ病院閉まっちゃうね。行かなきゃ」
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