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真矢の章
第十話
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日照りの強い帰り道、蒸し暑さを感じたアキナリはコンビニに立ち寄ってアイスクリームを買った。炎天下の中、冷たいバニラが舌の上で濃厚に溶けて、すこぶる美味である。
大きな歩道の熱くなった鉄の柵に腰掛けて、アキナリは頭を冷やす。ユキは今後どうなるのだろうか。なんだかんだ言っても、アキナリはユキのことが心配だ。推しというより親気分である。初めて会った時の彼女は、今では考えられないくらい不安定で、脆い子供だった。あの時ユキを保護してやる気持ちになったのは、彼女が可愛かったことだけが理由ではない、たぶん。誰かが彼女を救ってやる必要があったのだ。ユキは自分の確固たる意志を持ち合わせていた強い人間だった。しかし不幸というのは、そんな人間に限って降り注いでしまうものなのかもしれない。ユキは本当に大変な苦労をしていたのだろう。一緒に暮らし始めてからそれがよく分かった。
アキナリは自分が幼女しか愛せない人間でよかったと思っていた。もし自分が普通の人間であったならば、きっと彼女を手放したくないと思ってしまっていたに違いない。しかしながら、彼女が本当に求めているのは俺ではない。そんなことは、アキナリは一〇〇も承知していた。
ユキがなるべく俺に負担をかけないようにしようとしていることを感じると時々悲しくなることもあるが、きっとそれが彼女の生き方なのだ。俺がどうこうユキに指図することは間違っている。だからアキナリは真矢とかいう得体のしれない少年のことも、無条件で受け入れてやろうと思っていた。あとは俺にできることは、今後も犯罪に手を染めることはせずに、ユキに胸を張って恩人だと言われるような人間になることだけだろう。
溶けたクリームがコーンを伝い地面に滴り落ちる。慌てて残ったアイスを口に入れて、アキナリは柵から腰を上げた。
「ねえ鞄には何が入ってるの?」
ユキと共にアキナリの家にお邪魔した僕は、リビングの床にリュックを下ろしていた。クーラーのきいた室内が心地よい。女の子が一人住んでいる彼の家は、ユキが手入れしているためか男の家とは思えぬほど綺麗でかわいらしい作りだ。今さっき借りたトイレですら、花柄のトイレットペーパーに花柄の便座カバーという様である。
僕は座布団に腰を下ろして、リュックの中を開ける。
「ほとんどパソコンだけかな、今んとこ」
「へー、パソコン持ってるんだ。何用?」
「仕事用」
「恰好つけちゃって。仕事って何してんの?」
あまりあてにはしていないといった顔である。
「前はよく絵を描いて売ってたんだけど最近は描いてないなあ」
「そうなんだ、描いてよ」ユキは軽々しく言ってくる。
「やだ、面倒くさい」
「でも金を稼がないといけないでしょ?それにどんなの描いてるか見てみたい」
「うーん」そう言われると書かないわけにはいかない。
「じゃあ私この家を出るための準備しないといけないからしばらくそこで待って絵でも描いてて」
ユキはいそいそと部屋から出ていった。
なんだよ、もう働かせる気かよ、と不平を抱きながら僕はしぶしぶパソコンの電源を入れる。「Illustrator」のソフトを起動しようとして、ふとメールが届いていることに気づいた。依頼を断るようになってからほとんど僕のもとにメールは来ていない。稀にくるメールといえばエロサイトの架空請求くらいのものだ。どこの誰だよ、なんてぼやぼやとメールを開けた僕は声を失った。
メールの主は桜だった。
大きな歩道の熱くなった鉄の柵に腰掛けて、アキナリは頭を冷やす。ユキは今後どうなるのだろうか。なんだかんだ言っても、アキナリはユキのことが心配だ。推しというより親気分である。初めて会った時の彼女は、今では考えられないくらい不安定で、脆い子供だった。あの時ユキを保護してやる気持ちになったのは、彼女が可愛かったことだけが理由ではない、たぶん。誰かが彼女を救ってやる必要があったのだ。ユキは自分の確固たる意志を持ち合わせていた強い人間だった。しかし不幸というのは、そんな人間に限って降り注いでしまうものなのかもしれない。ユキは本当に大変な苦労をしていたのだろう。一緒に暮らし始めてからそれがよく分かった。
アキナリは自分が幼女しか愛せない人間でよかったと思っていた。もし自分が普通の人間であったならば、きっと彼女を手放したくないと思ってしまっていたに違いない。しかしながら、彼女が本当に求めているのは俺ではない。そんなことは、アキナリは一〇〇も承知していた。
ユキがなるべく俺に負担をかけないようにしようとしていることを感じると時々悲しくなることもあるが、きっとそれが彼女の生き方なのだ。俺がどうこうユキに指図することは間違っている。だからアキナリは真矢とかいう得体のしれない少年のことも、無条件で受け入れてやろうと思っていた。あとは俺にできることは、今後も犯罪に手を染めることはせずに、ユキに胸を張って恩人だと言われるような人間になることだけだろう。
溶けたクリームがコーンを伝い地面に滴り落ちる。慌てて残ったアイスを口に入れて、アキナリは柵から腰を上げた。
「ねえ鞄には何が入ってるの?」
ユキと共にアキナリの家にお邪魔した僕は、リビングの床にリュックを下ろしていた。クーラーのきいた室内が心地よい。女の子が一人住んでいる彼の家は、ユキが手入れしているためか男の家とは思えぬほど綺麗でかわいらしい作りだ。今さっき借りたトイレですら、花柄のトイレットペーパーに花柄の便座カバーという様である。
僕は座布団に腰を下ろして、リュックの中を開ける。
「ほとんどパソコンだけかな、今んとこ」
「へー、パソコン持ってるんだ。何用?」
「仕事用」
「恰好つけちゃって。仕事って何してんの?」
あまりあてにはしていないといった顔である。
「前はよく絵を描いて売ってたんだけど最近は描いてないなあ」
「そうなんだ、描いてよ」ユキは軽々しく言ってくる。
「やだ、面倒くさい」
「でも金を稼がないといけないでしょ?それにどんなの描いてるか見てみたい」
「うーん」そう言われると書かないわけにはいかない。
「じゃあ私この家を出るための準備しないといけないからしばらくそこで待って絵でも描いてて」
ユキはいそいそと部屋から出ていった。
なんだよ、もう働かせる気かよ、と不平を抱きながら僕はしぶしぶパソコンの電源を入れる。「Illustrator」のソフトを起動しようとして、ふとメールが届いていることに気づいた。依頼を断るようになってからほとんど僕のもとにメールは来ていない。稀にくるメールといえばエロサイトの架空請求くらいのものだ。どこの誰だよ、なんてぼやぼやとメールを開けた僕は声を失った。
メールの主は桜だった。
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