世界平和を君に乞う

ベロシティ

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世界平和の章

第十三話

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 「美樹ちゃん、次はどこ行きたい?」
二人きりの動物園デートを終えた僕は、さらなるデートプランを考えてウキウキ気分で美樹ちゃんに尋ねていた。
「うーん、どうしようかなあ」
薄桃色のカーディガンを羽織った美樹ちゃんは、小動物のように可愛らしく首を傾ける。
「ねえよかったら俺の家に来ない?」
オシャレな観葉植物の絵に囲まれた僕の部屋を見たら、きっと美樹ちゃんも喜んでくれるだろうという算段だ。
「それは出来ないの……」
僕の言葉に美樹ちゃんが暗い表情を浮かべる。
「どうしてなんだい?」
「出来ないの、怖いの」
「何が怖いの?もしかして俺の事?」
「違う、怖いの」
彼女の肌は蒼白になっていた。
何かに怯える美樹ちゃんの姿が、だんだん薄れて消えてゆく。
嫌だ、いかないで、どうして。
 そこで僕は目が覚めた。
体中に嫌な汗をかいている。またこの夢だ、一体どうして。
美里さんとメールのやり取りをしてから、僕は実際に美里さん姉妹と会うことができた。そこで僕が美里さんの妹である美樹ちゃんにプレゼントした絵は大いに喜ばれ、僕は美樹ちゃんと一気に仲良くなれたのだ。美樹ちゃんは僕の予想を超えてとても可愛らしく、話もよく合った。補足すると美樹ちゃんは美里さんに負けないくらいおっぱいが大きい。僕は美樹ちゃんと話していると興奮で自然と声が高くなってしまい、それをにやけ顔で美里さんに指摘される程だった。そんなことで少し気恥ずかしさはあるものの、美樹ちゃんと会う企画の後も美里さんとのメールはその後も続き、頻繁に三人で話すようになっていた。さらに僕は美里さんに内緒で美樹ちゃんの連絡先をゲットし、二人きりで遊びにも行ったりした。
最高に幸せなことである。
ところが近頃、二人からのメールが一切途切れたのだ。何を送っても返事が来ない。今や友人のほとんどいない僕にとって、2人はかけがえのない存在になっていたので、その訳は気がかりで仕方がなかった。その時期に呼応して心配のためか、僕は美樹ちゃんが出てくる変な夢を繰り返し見るようになってしまっている。今日で連絡が取れないまま半月が経過した。謎の夢も止まない。
そしてついに僕は我慢ができなくなった。僕はその日の晩に家を出て、近くの公衆電話に出向くことを決める。
以前に美里さんの電話番号は聞いていたので、とりあえず彼女に電話をかけてみることにしたのだ。
プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルル……
美里さんはなかなか電話に出てくれない。電話ボックスの中はすこぶる静かで、自分がいら立ちを感じていることが肌で分かった。
それでも僕は辛抱強く電話を待つ。
「はい……」ついに出たのは美里さんの声だ。僕はひと安心する。しかしその口調には少し元気がないような気がした。
「あ、美里さん、突然すみません、加藤真矢です。あの……」
「美樹が死んだ」
「え……」
「美樹は殺さたよ。糞みたいな男に連れ去られて、犯されて、殺されたんだ」
「……」
頭が真っ白になる。何も言葉が付いていかない。
「ごめん」
受話器の向こうで美里さんがすすり泣く音が聞こえた。
「真矢君は美樹と仲良くしてくれたんだよね。警察はただの家出だとか言って全然捜査してくれなかったんだよ。美樹は男に犯されて、必死に逃げようとして、逃げれなかったんだよ。私は美樹がかわいそうで仕方ないよ。死ねばいいんだよ。美樹を何とも思ってないようなクズは」
美里さんの言葉が直接、腹の底に落ちていくような感覚がある。
彼女の言葉は重く真実味があった。同時に僕の中に何も信じたくない心が働いて、まるで受話器を持つ手だけがどこか別の場所に行ってしまったようだった。
「……お悔み申し上げます」
どんな言葉を皮切りに電話を切ったかも覚えていない。

 辻秋成。男はそう名乗った。
彼は挨拶もそこそこに、いきなり上体を屈めて桜の顔を覗き込んできた。
桜はその行動に反射的に体をのけ反らせる。
するとアキナリは悲しそうな顔をした。
「かわいそうに。ワカバちゃんは大変な思いをしてきたんだろうね」
桜は防御姿勢を崩さない。
「何ですか?急にそんなことされたら誰でも逃げるのは当たり前だと思いますけど」変な同情をかけられたくなかった。
「違うよ、俺に怯えてるんだよ、ワカバちゃんは。自分のことを助けた男ですら君は信用できないんだよ」
「……」
桜は何も言い返すことが出来なかった。男の言うことは、桜がいつも隠しているはずの核心を突いていた。
「だ、だからそれが何なんですか、あなたは何がしたいんですか!どういう目的で私に構うんですか!」
早くどこかに行って欲しい。
「心配しなくていい、俺は君に何も望まない。目的か……強いて言えばそうだな、俺の望みは世界平和くらいだね」
何を言ってるんだこいつは? 桜がその真意を測りかねて難しい顔をしていると、アキナリは奇妙なタイミングで強烈に明るい笑い声をあげた。
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