【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

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11.人形に魅入られた男②(怖さレベル:★★☆)

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そんなある日のことです。

出張で東北方面へ
一週間ほど行くことになりました。

メンバーは自分とその年下の女の子、
それに同僚2名、そして苦手な女先輩が一名の計5名。

薄れかけているとはいえ、
恋心を抱いていた子と一緒の出張です。

ドキドキはしましたが、
あの自分を追いつめる女先輩もまさかの同行。

嬉しいやら憂鬱やらで、
どうにも気が重たくなります。

その上辛いのは、
愛しの人形のサンドラとその間は会えないということです。

心の癒しにほんの一週間とはいえ
会えないのは心苦しいですが、
悲しいかな、雇われサラリーマンは上の命令には逆らえません。

せめてもとガラスケースを丁寧に拭き上げてひと言、

「出張で一週間いなくなるんだ。留守をよろしく頼むよ」

と言い置いてうちを出たのです。



そして、
出張はまさに地獄のようなものでした。

同行した女先輩は、いったい何が気に入らないのか
しきりに私に絡んできて難癖をつけてくるのです。

同僚たちは許されたミスを、
私のものだけさもバカにしてきたり。

出張先の事業所のみんなの前で、
ワザと恥をかくように仕向けたりと、
初めの三日間の時点で心が折れかかっていました。

「おい、佐藤……大丈夫かよ」

同僚が、あまりの私の憔悴っぷりにビビりつつ
声をかけてくる始末です。

「だ、だいじょうぶ……大丈夫。ハハ……」

人形のおかげで保てていた心の安寧が、
支えをうしなっていっきに崩れようとしていました。

それでも崩壊すれすれの精神を保ちつつ、
出張四日目。

予約の都合で宿泊先が変更となり、
本日のホテルとして宛がわれた宿泊先へ訪れた途端、
私はブルリと寒気を覚えました。

「佐藤さん……もしかして、なにか感じました?」

震えたこちらに気づいたらしく、
あの年下の女の子が声をかけてきました。

「うん……ってことは、君も?」
「はい。なんか……イヤな感じがするんです、ここ」

そう言って両腕で自分の身体をギュッと抱きしめている彼女を、
同僚二人がフォローします。

「大丈夫? もしかして寒い?」
「先輩! いったん部屋行きましょう!」
「……仕方ないね」

女先輩は、その子がちやほやされているのが
あまり気にくわぬようでしたが、
ともかくいったん部屋へ荷物を置きに行くことにしました。

昼間でも妙に薄暗く感じる廊下を通って、
自分の泊まる部屋へ入ります。

オートロックの扉を閉じると、
やはりどこかモヤッとした空気を感じました。

幽霊は信じていないものの、
あの人形を手に入れてからというもの、

そういう人智のおよばぬ世界があることを
漠然と感じるようになっていた私は、
どこかイヤな予感をぬぐえずにいました。

その日の仕事は、あのスパルタな先輩ですら
どこか上の空で、気もそぞろといった有様でした。

ホテルに戻るのが、
皆気が進まなかったのでしょう。

あんな苦手な先輩でさえ、あのホテルの雰囲気と
比べればマシと思えるほどです。

チェーン店の居酒屋に入り、
それなりの時間まで飲み食いし、
気付いたら深夜零時を回っていました。

いくら泊まりたくないとはいえ、明日、
いえ今日もまた仕事です。

しぶしぶとホテルへ戻り、
それぞれ憂鬱な表情をしつつも、
皆自分の部屋に引っ込みました。

「さ……寝るか」

上着をハンガーにかけ、
酒とタバコの臭いを存分に浴びた身体を清めようと、
浴室に入った時です。

フッ。

「え……?」

一瞬。

ほんの一瞬、
鏡になにかがよぎりました。

「つ……疲れてるんだな、オレ」

心の支えと離れ離れになって早四日、
精神も肉体も疲労困憊で、
幻覚でも見たのだろうと気を取り直し、
シャワーを浴びることにしました。

バシャバシャと、独り暮らしのアパートでは
ガス代と水道代が気になって控えめに使っていた湯を、
思う存分浴びていると、どこかホッと心も落ち着いてきます。

出張も残すところあと一日。

そうすれば、
人形のサンドラの待つうちに帰れる。

そう、自分に言い聞かせるようにワシャワシャと
頭皮を洗っていると。

ヒタ。

腕になにかが触れました。

「……ん……?」

シャンプーボトルかなにかだろうと
目を閉じたまま再度腕を動かしていると、

ヒタ。

それは、スライドするよう首元に移動しました。

そう、首元に――。

「え?」

バシャバシャ、とあふれ出るお湯を浴びながら、
ザッと全身から血の気が引きました。

置かれたままであるはずの、
シャンプーボトルが動くはずがありません。

それどころか、浴室にあるもので、
勝手に動いてこちらに触れてくるものなど、
それこそある筈がないのです。

首に触れるなにかは、
まるでぬくもりを感じない、
イモ虫のようなぐにゃりとした質感。

これは、
いったいなんなんだ??

「ひ、っ……?!」

泡で目を開けられぬまま後ずされば、
足元にも妙な感触。

湿ったノリのようなその質感は、
まるで濡れた髪の毛の集合体のような――。

「う、っ!?」

耐え切れず目を開ければ、
首元に触れていたのは換気口の方から覗く長い腕、

そして足に触れていたのは、
同じくその換気口から伸びてきた真っ黒い人毛であったのです。

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