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46.校舎裏の壁のシミ・裏②(怖さレベル:★★☆)
しおりを挟む「……あー……た、たしかに」
タクミも同意し、キョロキョロとあたりを見回しています。
そんな二人にならい、ボクもジッと耳を凝らしました。
「……別に、聞こえないけど」
そうなのです。
彼ら二人の怯えた様子に反し、ボクの耳に入るのは夏の虫の声。
そして、小学校の裏手にある田んぼからのカエルの合唱くらいです。
「ああ? 耳、おかしいんじゃねぇの」
しかし二人は、平然としているこちらにイラついた様子で、
不満げに声をもらしました。
「そういうそっちこそ、空耳じゃないの」
「んな訳あるかよ! もう壁のシミだってすぐそこなんだぞ!」
異様な恐怖を見せる二人に、
ボクは胸のすく思いで、間近まで近づいた例の壁の方向を、
懐中電灯でバッと照らし出しました。
「う、わ……っ」
息をのみました。
予想していたよりも、だいぶ大きい。
灰色のくすんだ壁にしみ込んだような、黒い模様。
ぐずぐずに崩れたかのような眼球、
折れ曲がった鼻に、
悪意が込められたかのようにニヤついた口元。
一瞬懐中電灯を落としそうになるほど、
気色の悪い、不気味なそれ。
「……気持ち悪いな、これ」
一歩、シミに近づいてまじまじとその全容を見回します。
くっきりと壁に刻まれたその顔は、
絵画ではないのかと疑うほど、精巧でした。
「っていうか……なにも聞こえないけど」
ウワサ通りであれば、
ボソボソと囁く声、とやらが聞こえてくるはずです。
しかし、いくら耳をすませても、
なんら先ほどのと変わったことはありません。
遠くから聞こえる消防車のサイレン。
犬の遠吠え。
そして田んぼからのカエルと虫の声。
それらがさきほどと変わりなく、
夜の静寂を乱しているのみです。
「ショウタ、タクミ。別になにも……」
と、めっきり口数の減った二人を振り返った時。
「イヤだ、イヤだイヤだ……っ」
「う……うぅっ」
その二人の異様さに気づいたのは。
「お、オイ。どうしたんだよ」
二人は揃って両耳を覆い、しゃがみこんで震えているのです。
ボクは一瞬ひるんだものの、ハッと気づきました。
この二人のことです。
怯えた演技をして、ボクのことをビビらせようという魂胆ではないか、と。
「ちょっと、ボクのコト、ビビらせようったってダメだよ。
そんなあからさまな演技したって、無駄だって」
と、ボクは再び、壁のシミに向かって懐中電灯をパッと照らしました。
「止めろっ!!」
しかし尋常ではない勢いで、タクミが腕を掴んできます。
「な、なに……そこまでしなくたって」
いくら芝居にしてもそこまで、と思う程の様子に、
ボクは驚きで懐中電灯を地面に落としてしまいました。
「聞こえる……聞こえるんだよ、声が、っ……」
全身をガクガクと震わせながら呻くその姿に、
ボクはようやく、彼らのそれが演技などではないのだと気づきました。
「え……ま、マジなのか? ボク、なんも聞こえないけど……」
「こんなにハッキリ聞こえてんじゃねぇか! ふざけんなよ、室井!!」
ショウタが、平然とするこちらに激高して掴みかかってきます。
「くそっ、テメェにこれを聞かせてやるつもりだったってのに……!!」
「……なっ」
聞き捨てならない台詞に、つかまれた襟首から強引に彼を引き離し、
じりじりと後ずさりました。
「聞かせてやる……って、どういうコトだよ。……呪われろ、ってのか?」
「だからっ! てめぇは前から気にくわなかった、って言ってんだよ!」
ギリギリと歯を食いしばりながら、
ショウタはダン、と地面に足を叩きつけました。
「てめぇが呪われるなり、狂うなりすれば良かったんだ!
5年ん時のヨシロウみてぇに!!」
なじられるような言葉をぶつけられながら、
ボクはポカンと大口を開けていました。
彼は今、なんと言った?
呪われるか、狂うか。
5年の時の、ヨシロウみたいに?
その名前で思い出されるのは、
5年の時の夏休み――二学期が初まって
すぐに転校してしまった、クラスメイトです。
ちょっとバカだったけれど、クラスの中心的な人物で、
別れの挨拶すらいなくなってしまったのを、皆、寂しがっていました。
「……オイ、まさか……ヨシロウにも同じコトやったのか」
呆然と、うずくまる二人に問いかけました。
一瞬の恐怖すら忘れ、フツフツと湧いてきたのは、
耐えようもない怒りです。
「それで……ボクを、ボクも同じように、廃人にしようと?」
二人はその問いには答えず、
ブルブルと両耳を強く塞いで、今にも逃げ出そうとズリズリと後ずさっています。
ボクは思わずカッとなって、
ショウタの胸倉をむんずと掴み上げました。
「オイ、聞いてるのか!? ヨシロウをだまして、
で、あいつを狂人にしたっていうのか!?」
「う……うるせぇ! き、聞こえる……聞こえる……!!」
しかし、ショウタはもはや半狂乱でガリガリと自らの頭を
掻きむしり、まるで話になりません。
「……ふざけんなっ!!」
ボクはその時、どうにもならぬほどの怒りに――
ショウタの胸倉を引っ掴んだまま、例の壁の方へと放り投げたのです。
ドサッ
小学生の腕力では、地面の上に転がすのが精いっぱい。
壁の少し手前の草むらに転がったショウタは、
キッと鋭いまなざしをこちらに向け、
今にも掴みかかってきそうな表情を浮かべましたが、
「……あ……?」
ボソ、とひとつ呟いて、顔をすぐ真横のあの壁へ向けました。
「オイ、なにそっち見てんだ! こっち見ろよ!」
怒りに支配されたボクは、そんなショウタの不可解な動作に苛立ちながら、
もう一人、震えてうずくまっているタクミにもどなりつけようと足を踏み出した時。
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