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87.森の中のくねくねもどき①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
『30代男性 森崎様(仮名)』
みなさん、くねくね、って聞いたことがありますか?
まぁ、こういった怖い話を見に来てくださっている方なら、
一度……いえ、もう耳にタコができるほど聞き知っているかもしれませんね。
田舎……とくに田んぼを出現の中心地として、
名の通り、クネクネと奇怪な動きをしてみせる化け物……いえ、妖怪。
その姿をハッキリと認知してしまうと、気が狂ってしまったり、
自分自身もそのクネクネと成り代わってしまう。
どこまでが本当の話なのかはわかりませんが、名称や出現場所に
バリエーションを加えた類似の話が、全国各地に存在しているようです。
……さて。
僕がこの話を引き合いに出したのはもちろん。
これから、このくねくねによく似た化け物と遭遇した話をさせて頂くからなんです。
そう……あれは今から数か月前。
僕が旧知の友人と、地元の山間部へと釣りに出かけた時のことでした。
その、当日。
梅雨が明けたばかりの空は、日の出前であるにも関わらず、
上機嫌にさんさんんと色濃く空を染め上げています。
紫の雲がたなびく早朝に車を走らせる僕も、ウィンドウを全開にして
吹き込む爽やかな風を満喫していました。
「いやー、こりゃあいい天気だ! 暑くなりそうだなぁ」
助手席にて、鼻歌混じりに両手を叩いているのが、
長年の仕事仲間兼、釣りの師匠である勝浦です。
彼は幼い頃からその趣味にのめり込んでいる、
いわゆる釣りキチとか釣りバカとか呼ばれるような男で、
今回の場所もこの勝浦が事前にリサーチを
済ませた『とっておきの穴場』だというのです。
「この間、だいぶ雨が降ったよな。そこは影響ないのか?」
つい一週間ほど前、低気圧の停滞で、川の増水が激しいと取り沙汰されていました。
当然、天候や水量というのも、釣りには大きく関わってきます。
「ま、そういうのを加味しての今回の場所だよ。
ホント、良いところだからさ。……まっ、熊には要注意、だけどな」
「お……おいおい、冗談だろ?」
「いや、今回んところはマジで出るかもしれねぇぞ。
一応、バッグに爆竹は潜めてあるけどな」
まだ経験の浅い僕は、さすがにそういった野生動物の姿を見たことはないのですが、
釣り歴の長い勝浦は、遠目でそれらしき影を何度も見た、と言うのです。
「まぁ……熊もモチロン怖ぇけど。本当にヤバいのはもっと……」
「本当にヤバい、もの?」
むき出しの二の腕をさすりながらの台詞に、思わず僕が問い返すも、
勝浦はしまった、と言わんばかりにあからさまに声色を明るくして、
「ま、まぁ。山にはいろんなモンがいるってことだよ。
ほ、ほら。蛇とか、蜂なんかもいるし、な?」
「そ……そう、なんだ」
明らかになにかを隠している口調の彼に疑問が浮かんだものの、
せっかく休みを合わせて来た、楽しい釣りの時間。
ささいな諍いで壊すのは本意ではありません。
僕はモヤッとした疑惑を心のうちにしまい込み、曖昧に頷いて流しました。
「おっ……ほら、そろそろだぞ」
舗装のない荒れた道をガタガタと通り越し、
やがて見えてきた道路の端にある古びた看板を見て、友人が声を上げました。
「よしよし、これが目印だったんだ。空いてるスペースにでも停めてくれ」
「ん、分かった」
ペンキが剥がれ落ち、裏地の木板が露出したみすぼらしい看板の脇に、
確かに人が通れるほどの細い通路が見えます。
僕は道路の脇にある広い草原に車を移し、
邪魔にならなそうな大木の下へと滑り込ませました。
(それにしても……こんなところに看板か。……クマ注意、とかかな?)
後部座席から釣り具一式を下ろしている勝浦をしり目に、
僕はその古びた看板をしっかり確認しようと、表側に回り込みました。
「……うわっ」
と、その表面が視界に入り、小さく声が漏れました。
ボロボロになった木製の部分に、眼球を模したと思われるマークが、
赤黒いスプレーで三つ、雑に描かれていたのです。
「おーい、森崎! こっち手伝ってくれよ」
「あ、あぁ」
僕は薄気味の悪いそれからそそくさと離れ、
荷下ろしに四苦八苦している勝浦の補助へと向かいました。
日差しがエメラルドグリーンとなって降りそそぐ岩場に、
透きとおった清水が勢いよく流れ込んできます。
しっとりと湿った土の上は、あの夏場特有のジメジメ感はなく、
避暑地さながらのほどよい気温を保っていました。
「いやー、よく釣れるなぁ!」
生き生きとクーラーボックスに魚を放り込みながら、
勝浦が小声で楽しそうに笑いました。
「お前、やっぱスゴいな。よくこんな場所見つけるよ」
初心者丸出しの動きで釣り具を操る僕でも、次々と餌にかかってきます。
すでになかなかの数で満たされたクーラーボックスを覗き込みながら、
僕は隣で釣り糸を垂らす勝浦の背を叩きました。
「仲間うちでいろいろ情報収集したり、あとはなんとなく勘でわかったりもするさ」
「へぇ……ここはどうやって見つけたんだ?」
「ここは釣り歴四十年、っつー大ベテランに教えてもらったんだ。
なんでも、午前中は面白いように釣れる、っつってな」
「なんで午前中だけ、なんだろ。陽ざしとか気候とかの影響なのかなぁ」
と、僕が間の抜けた返答を返すと、
なぜか彼はいつもの軽口をピタッと止めて、
「……ま、ここは午後、出やすいらしいんだ」
と、急になりを潜めて呟くのです。
「え、出るって……例の、クマ?」
「……ま、イロイロだよ、色々」
勝浦は、自分で言い出した割に、意味ありげな言い方でごまかした後、
「さっ、ちゃっちゃと釣って、飯にしよーぜ!
やっぱ、釣れたて新鮮なうちは美味いからさ!」
と、打って変わって白い歯を見せて笑いました。
>>
『30代男性 森崎様(仮名)』
みなさん、くねくね、って聞いたことがありますか?
まぁ、こういった怖い話を見に来てくださっている方なら、
一度……いえ、もう耳にタコができるほど聞き知っているかもしれませんね。
田舎……とくに田んぼを出現の中心地として、
名の通り、クネクネと奇怪な動きをしてみせる化け物……いえ、妖怪。
その姿をハッキリと認知してしまうと、気が狂ってしまったり、
自分自身もそのクネクネと成り代わってしまう。
どこまでが本当の話なのかはわかりませんが、名称や出現場所に
バリエーションを加えた類似の話が、全国各地に存在しているようです。
……さて。
僕がこの話を引き合いに出したのはもちろん。
これから、このくねくねによく似た化け物と遭遇した話をさせて頂くからなんです。
そう……あれは今から数か月前。
僕が旧知の友人と、地元の山間部へと釣りに出かけた時のことでした。
その、当日。
梅雨が明けたばかりの空は、日の出前であるにも関わらず、
上機嫌にさんさんんと色濃く空を染め上げています。
紫の雲がたなびく早朝に車を走らせる僕も、ウィンドウを全開にして
吹き込む爽やかな風を満喫していました。
「いやー、こりゃあいい天気だ! 暑くなりそうだなぁ」
助手席にて、鼻歌混じりに両手を叩いているのが、
長年の仕事仲間兼、釣りの師匠である勝浦です。
彼は幼い頃からその趣味にのめり込んでいる、
いわゆる釣りキチとか釣りバカとか呼ばれるような男で、
今回の場所もこの勝浦が事前にリサーチを
済ませた『とっておきの穴場』だというのです。
「この間、だいぶ雨が降ったよな。そこは影響ないのか?」
つい一週間ほど前、低気圧の停滞で、川の増水が激しいと取り沙汰されていました。
当然、天候や水量というのも、釣りには大きく関わってきます。
「ま、そういうのを加味しての今回の場所だよ。
ホント、良いところだからさ。……まっ、熊には要注意、だけどな」
「お……おいおい、冗談だろ?」
「いや、今回んところはマジで出るかもしれねぇぞ。
一応、バッグに爆竹は潜めてあるけどな」
まだ経験の浅い僕は、さすがにそういった野生動物の姿を見たことはないのですが、
釣り歴の長い勝浦は、遠目でそれらしき影を何度も見た、と言うのです。
「まぁ……熊もモチロン怖ぇけど。本当にヤバいのはもっと……」
「本当にヤバい、もの?」
むき出しの二の腕をさすりながらの台詞に、思わず僕が問い返すも、
勝浦はしまった、と言わんばかりにあからさまに声色を明るくして、
「ま、まぁ。山にはいろんなモンがいるってことだよ。
ほ、ほら。蛇とか、蜂なんかもいるし、な?」
「そ……そう、なんだ」
明らかになにかを隠している口調の彼に疑問が浮かんだものの、
せっかく休みを合わせて来た、楽しい釣りの時間。
ささいな諍いで壊すのは本意ではありません。
僕はモヤッとした疑惑を心のうちにしまい込み、曖昧に頷いて流しました。
「おっ……ほら、そろそろだぞ」
舗装のない荒れた道をガタガタと通り越し、
やがて見えてきた道路の端にある古びた看板を見て、友人が声を上げました。
「よしよし、これが目印だったんだ。空いてるスペースにでも停めてくれ」
「ん、分かった」
ペンキが剥がれ落ち、裏地の木板が露出したみすぼらしい看板の脇に、
確かに人が通れるほどの細い通路が見えます。
僕は道路の脇にある広い草原に車を移し、
邪魔にならなそうな大木の下へと滑り込ませました。
(それにしても……こんなところに看板か。……クマ注意、とかかな?)
後部座席から釣り具一式を下ろしている勝浦をしり目に、
僕はその古びた看板をしっかり確認しようと、表側に回り込みました。
「……うわっ」
と、その表面が視界に入り、小さく声が漏れました。
ボロボロになった木製の部分に、眼球を模したと思われるマークが、
赤黒いスプレーで三つ、雑に描かれていたのです。
「おーい、森崎! こっち手伝ってくれよ」
「あ、あぁ」
僕は薄気味の悪いそれからそそくさと離れ、
荷下ろしに四苦八苦している勝浦の補助へと向かいました。
日差しがエメラルドグリーンとなって降りそそぐ岩場に、
透きとおった清水が勢いよく流れ込んできます。
しっとりと湿った土の上は、あの夏場特有のジメジメ感はなく、
避暑地さながらのほどよい気温を保っていました。
「いやー、よく釣れるなぁ!」
生き生きとクーラーボックスに魚を放り込みながら、
勝浦が小声で楽しそうに笑いました。
「お前、やっぱスゴいな。よくこんな場所見つけるよ」
初心者丸出しの動きで釣り具を操る僕でも、次々と餌にかかってきます。
すでになかなかの数で満たされたクーラーボックスを覗き込みながら、
僕は隣で釣り糸を垂らす勝浦の背を叩きました。
「仲間うちでいろいろ情報収集したり、あとはなんとなく勘でわかったりもするさ」
「へぇ……ここはどうやって見つけたんだ?」
「ここは釣り歴四十年、っつー大ベテランに教えてもらったんだ。
なんでも、午前中は面白いように釣れる、っつってな」
「なんで午前中だけ、なんだろ。陽ざしとか気候とかの影響なのかなぁ」
と、僕が間の抜けた返答を返すと、
なぜか彼はいつもの軽口をピタッと止めて、
「……ま、ここは午後、出やすいらしいんだ」
と、急になりを潜めて呟くのです。
「え、出るって……例の、クマ?」
「……ま、イロイロだよ、色々」
勝浦は、自分で言い出した割に、意味ありげな言い方でごまかした後、
「さっ、ちゃっちゃと釣って、飯にしよーぜ!
やっぱ、釣れたて新鮮なうちは美味いからさ!」
と、打って変わって白い歯を見せて笑いました。
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