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100.学校の四階女子トイレ④(怖さレベル:★★☆)
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「園部さん! よかった、心配してたのよ!!」
現れたのは、クラス担任の教師です。
まぬけ顔をさらす私をギュッと腕のなかに閉じこめて、
感極まったように叫びました。
いつのまにか、背後の気配は静まり返り、
状況が理解できずに困惑している私の横に、
「よかったー。園部さん、急にどっか行っちゃうんだもん」
「うちに帰ったのかと思ったら、帰ってないっていうし~」
と、そら恐ろしい台詞をはく四人が歩きよってきました。
「え……は……?」
なにもわからない私の目の前で、
彼女たちはワイワイと話を進めていきます。
「まさか、ここに閉じこもってたなんて思わなくってぇ」
「ねーっ、校舎の中を探し回ったのにねー」
「ランドセルが扉をふさいでるなんて思わなかったしー」
さも示し合わせていたかのように、
ケラケラと笑い合う四名。
「四人が教えてくれたのよ。よかったわねぇ。
入口にランドセルがひっかかって、ちょうど開かなくなっちゃってたんだって」
先生は、呆然自失状態の私を励ますように、
背中をやさしくなでてきました。
(こっ……こいつら……!!)
計画的犯行。
私は、それを悟りました。
閉じこめたまま放って置いたら、私が両親や教師に
みつかったとき、彼女たちにやられたのだと暴露してしまう。
だから、さんざん恐怖と孤独感をあたえた後、
いいタイミングで、先生に助けださせる。
そして、自分たちは閉じこめられた憐れなクラスメイトを助けた子どもとして、
なんのお咎めもなく、むしろ、教師に好感を与えられる、と――。
(ゆるせない)
閉じこめられ、ナゾの存在に命をおびやかされた時以上の、
腹の底からこみ上げる、爆発的なまでの怒り。
ギリギリと噛みしめた奥歯はきしみ、
血の気のひいていた全身に、殺意といえるほどの
熱が燃え盛りました。
(……殺してやりたい!!)
芯から吹きあがる憎しみまじりの殺意に、
私の脳内がまっ赤に染まった瞬間。
――グッ
肩にのしかかっていた重いものが、ふっと浮き上がりました。
(……え?)
そうだ。まだ背中には、あのおぞましいなにかがいて。
扉が開いても、物音はしなかったものの、気配は残っていて。
グッ……ドンッ
「わっ」
つき飛ばされるように体をおしのけられ、
私は先生の腕に抱きしめられたまま、グラリと足をよろめかせました。
「園部さん、大丈夫!?」
「あ、え、えっと……」
体が、とたんに軽くなりました。
わけがわからず、なにかが飛んでいったと思われる方向を見ると、
「……う、っ」
息をのみました。
あの四人の女子メンバー。
その中心に立つ矢間田さんの横に、もうひとつ黒い人影がたたずんでいます。
ヒョロリと長い、女の子。
その頭は、天井につかんばかり。
しかし、異様に長いのは背丈ではなく、
小枝のごとく細いその首です。
まるでろくろ首を彷彿とさせる、
それだけで一メートルもあろうかという頸部を傾けて、
四人の女子の顔を、一つ一つ、覗き込んでいました。
顔色は白を通りこしてうっすらと緑がかり、
目の玉は白くにごり、黒い髪はじっとりと湿っています。
それだけ異常な存在が真横にいるというのに、
彼女たち四人はたのしそうに会話を続け、いっこうに目を向けようとしません。
あれほど湧き上がっていた殺意はすっかり消えうせ、
私は呆然とその様子をながめていました。
すると。
キュッ……
それがふと、首をブルリとゆすって、
こちらを――私を、見ました。
「ひっ……」
のどの奥で悲鳴を噛みころす私に、
それはにごった白い目玉を三日月型に細め、
ニヤッと唇の端をもち上げました。
(……え?)
そして。
まるで幻覚のように一瞬にして、姿を消したのです。
「あ……?」
(……今、のは)
目前で起きた、わけがわからない現状と、
風邪気味のうえ、長時間寒いトイレに閉じこめられた不調で、
私はそれから三日間、家で寝込むハメになったのでした。
そして、三日後。
あの時の記憶をモヤモヤと脳内でくりかえしながら、
ゆううつな気分で私は学校へ向かいました。
イヤイヤながらクラスへ入ると――そこでは、
いろいろなことが変わっていたんです。
トイレに閉じこめられたことを笑われるだろう、と思いきや、
クラス内ではあの四人――矢間田さんたち女子が揃って休んでいる、という話題でもちきりでした。
私は、バチが当たったのかなぁ、なんて、
あの時の首の長い女の子を想起していると、
ぼーっとしている私に、クラスメイトたちがおずおずと謝ってきたのです。
どういうことか、と思えば、
なんでも彼女たち四人――というより主犯格の矢間田さんが、
クラスのみんなにキツく声をかけて、私と仲良くしないようにさせていた、というのです。
別に私は彼女をイジメたりもしていなければ、
なにか迷惑をかけた覚えもありません。
困惑する私に、クラスの子が教えてくれたのは、
夏休みの絵画コンクールで、私の絵がクラス代表に選ばれたのが、
どうも気に入らなかったらしい、と。
彼女はいろいろ習い事をやっていたのですが、
そのなかでも絵画教室に熱を入れていて、
夏休みのポスターは、渾身の作品であったのだとか。
とんだ逆恨みですよね。
それで、四人がどうして休んでいるのか、というと、
首に妙な湿疹ができ、それがぐずぐずとどうしようもなく膿んで、
かゆみが止まらないのだとか。
首に、湿疹。
私は再び、あの七不思議を思い出しました。
『学校の女子トイレ。首吊り自殺した女子生徒が棲みついていて、
夕方の六時以降にトイレに入ると、なにかが起きる』
首吊り自殺。死の世界。
六時以降にトイレにいた私は、風邪こそ悪化したものの、
いまはピンピンしています。
それに、彼女たち四名は、あの時、
トイレのなかにまでは入っていません。
でも、おそらくあの首が伸びた女子生徒――
彼女は、ウワサされていた幽霊だったのでしょうか。
七不思議なんて、どこまで本当かもわからないし、
きっと、誇張されていることも多くあるのでしょう。
彼女たちの病気も、あれとはまったく関係のない、
新種のウイルスかなにかだったのかもしれません。
結局、彼女たちはそのまましばらく入院し、
中学が再開されても、出てくることはありませんでした。
こうして大人になった今思うのは、首つり自殺をした女の子――
イジメを苦にして自殺した、というその女子生徒が、
私の殺意に反応して、彼女たちを呪ってくれたのだ、と思っています。
現れたのは、クラス担任の教師です。
まぬけ顔をさらす私をギュッと腕のなかに閉じこめて、
感極まったように叫びました。
いつのまにか、背後の気配は静まり返り、
状況が理解できずに困惑している私の横に、
「よかったー。園部さん、急にどっか行っちゃうんだもん」
「うちに帰ったのかと思ったら、帰ってないっていうし~」
と、そら恐ろしい台詞をはく四人が歩きよってきました。
「え……は……?」
なにもわからない私の目の前で、
彼女たちはワイワイと話を進めていきます。
「まさか、ここに閉じこもってたなんて思わなくってぇ」
「ねーっ、校舎の中を探し回ったのにねー」
「ランドセルが扉をふさいでるなんて思わなかったしー」
さも示し合わせていたかのように、
ケラケラと笑い合う四名。
「四人が教えてくれたのよ。よかったわねぇ。
入口にランドセルがひっかかって、ちょうど開かなくなっちゃってたんだって」
先生は、呆然自失状態の私を励ますように、
背中をやさしくなでてきました。
(こっ……こいつら……!!)
計画的犯行。
私は、それを悟りました。
閉じこめたまま放って置いたら、私が両親や教師に
みつかったとき、彼女たちにやられたのだと暴露してしまう。
だから、さんざん恐怖と孤独感をあたえた後、
いいタイミングで、先生に助けださせる。
そして、自分たちは閉じこめられた憐れなクラスメイトを助けた子どもとして、
なんのお咎めもなく、むしろ、教師に好感を与えられる、と――。
(ゆるせない)
閉じこめられ、ナゾの存在に命をおびやかされた時以上の、
腹の底からこみ上げる、爆発的なまでの怒り。
ギリギリと噛みしめた奥歯はきしみ、
血の気のひいていた全身に、殺意といえるほどの
熱が燃え盛りました。
(……殺してやりたい!!)
芯から吹きあがる憎しみまじりの殺意に、
私の脳内がまっ赤に染まった瞬間。
――グッ
肩にのしかかっていた重いものが、ふっと浮き上がりました。
(……え?)
そうだ。まだ背中には、あのおぞましいなにかがいて。
扉が開いても、物音はしなかったものの、気配は残っていて。
グッ……ドンッ
「わっ」
つき飛ばされるように体をおしのけられ、
私は先生の腕に抱きしめられたまま、グラリと足をよろめかせました。
「園部さん、大丈夫!?」
「あ、え、えっと……」
体が、とたんに軽くなりました。
わけがわからず、なにかが飛んでいったと思われる方向を見ると、
「……う、っ」
息をのみました。
あの四人の女子メンバー。
その中心に立つ矢間田さんの横に、もうひとつ黒い人影がたたずんでいます。
ヒョロリと長い、女の子。
その頭は、天井につかんばかり。
しかし、異様に長いのは背丈ではなく、
小枝のごとく細いその首です。
まるでろくろ首を彷彿とさせる、
それだけで一メートルもあろうかという頸部を傾けて、
四人の女子の顔を、一つ一つ、覗き込んでいました。
顔色は白を通りこしてうっすらと緑がかり、
目の玉は白くにごり、黒い髪はじっとりと湿っています。
それだけ異常な存在が真横にいるというのに、
彼女たち四人はたのしそうに会話を続け、いっこうに目を向けようとしません。
あれほど湧き上がっていた殺意はすっかり消えうせ、
私は呆然とその様子をながめていました。
すると。
キュッ……
それがふと、首をブルリとゆすって、
こちらを――私を、見ました。
「ひっ……」
のどの奥で悲鳴を噛みころす私に、
それはにごった白い目玉を三日月型に細め、
ニヤッと唇の端をもち上げました。
(……え?)
そして。
まるで幻覚のように一瞬にして、姿を消したのです。
「あ……?」
(……今、のは)
目前で起きた、わけがわからない現状と、
風邪気味のうえ、長時間寒いトイレに閉じこめられた不調で、
私はそれから三日間、家で寝込むハメになったのでした。
そして、三日後。
あの時の記憶をモヤモヤと脳内でくりかえしながら、
ゆううつな気分で私は学校へ向かいました。
イヤイヤながらクラスへ入ると――そこでは、
いろいろなことが変わっていたんです。
トイレに閉じこめられたことを笑われるだろう、と思いきや、
クラス内ではあの四人――矢間田さんたち女子が揃って休んでいる、という話題でもちきりでした。
私は、バチが当たったのかなぁ、なんて、
あの時の首の長い女の子を想起していると、
ぼーっとしている私に、クラスメイトたちがおずおずと謝ってきたのです。
どういうことか、と思えば、
なんでも彼女たち四人――というより主犯格の矢間田さんが、
クラスのみんなにキツく声をかけて、私と仲良くしないようにさせていた、というのです。
別に私は彼女をイジメたりもしていなければ、
なにか迷惑をかけた覚えもありません。
困惑する私に、クラスの子が教えてくれたのは、
夏休みの絵画コンクールで、私の絵がクラス代表に選ばれたのが、
どうも気に入らなかったらしい、と。
彼女はいろいろ習い事をやっていたのですが、
そのなかでも絵画教室に熱を入れていて、
夏休みのポスターは、渾身の作品であったのだとか。
とんだ逆恨みですよね。
それで、四人がどうして休んでいるのか、というと、
首に妙な湿疹ができ、それがぐずぐずとどうしようもなく膿んで、
かゆみが止まらないのだとか。
首に、湿疹。
私は再び、あの七不思議を思い出しました。
『学校の女子トイレ。首吊り自殺した女子生徒が棲みついていて、
夕方の六時以降にトイレに入ると、なにかが起きる』
首吊り自殺。死の世界。
六時以降にトイレにいた私は、風邪こそ悪化したものの、
いまはピンピンしています。
それに、彼女たち四名は、あの時、
トイレのなかにまでは入っていません。
でも、おそらくあの首が伸びた女子生徒――
彼女は、ウワサされていた幽霊だったのでしょうか。
七不思議なんて、どこまで本当かもわからないし、
きっと、誇張されていることも多くあるのでしょう。
彼女たちの病気も、あれとはまったく関係のない、
新種のウイルスかなにかだったのかもしれません。
結局、彼女たちはそのまましばらく入院し、
中学が再開されても、出てくることはありませんでした。
こうして大人になった今思うのは、首つり自殺をした女の子――
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