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152.弟はそこにいた(怖さレベル:★☆☆)
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(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
うちの会社、飲食店なんですけどね。
そのバイトで、いっつも眠そうにしている子がいたんです。
名前は……そうですね、仮に佐々木くん、としましょうか。
彼は、ホール係をメインにやってくれていたんですが、
まだ高校生だというのに、かなり仕事ができる子でした。
テキパキ動くし、いつもにこやかなのでお客さん受けもいいし、
うちで働く他の従業員たちからも、かなり可愛がられていたんですよ。
でも、この子。
ひとつだけ欠点がありまして。
それが、いっつも眠そうにしていること、なんです。
佐々木くんは、よくまぶたを半開きにして、
しょっちゅう目をこすっていました。
絶えず欠伸をしていて、休憩時間になると、
机につっぷして、数分もしないうちに眠ってしまっていたくらいです。
さすがに、接客をしている時はシャキッとしていましたが、
店が空いてきた時や、休憩の時ばかりは、
何日も寝てないんじゃないかってくらい、とっても眠そうにしていたんですよね。
学生だし、夜更かしが楽しい気持ちはわかるので、
それに関して、特に口出しすることはなかったんですが。
でも、ある日。
昼のせわしい時間が終わって、休憩室へ向かう佐々木くんが、
あんまりにも生あくびをくり返していたので、思わず、声をかけてしまったんです。
「ねえ、なんでいっつもそんなに眠そうにしてるの?」って。
すると、彼は「ああ」と眠そうに首を振りつつ、
「おれ、めっちゃ年下の弟がいて。夜、遊んでってせがまれるんスよ。それに付き合ってたら、いっつも寝るの遅くなっちゃって」
と、あくびを噛み殺しながら言いました。
なんとも優しい理由に感動した私は、その勢いのまま、
弟の年齢や、どういう遊びをしているのか、などを詳しく聞きました。
弟さんは三才で、高校二年生の彼とは、十一才差。
特にブロック・パズルが好きらしく、
楽しそうに、弟と作ったパズルの話をしていました。
『いつも夜通し付き合わされて』なんて言っていたけど、
眠そうなわりにとても嬉しそうで、弟思いなのがよく伝わってくるほどです。
優しいお兄ちゃんだなぁ、とほんわかしたのをよく覚えていますよ。
でも、後々考えてみると、三才の子に夜通し付き合うのは、
子どもの発育的によくないんじゃ? なんて思ったりもしました。
ただ、彼が三年生になった年の夏――
本当に突然、佐々木くんは亡くなってしまったんです。
朝、起きてこない彼を、親が確認しに部屋に行ったら、
すでに亡くなっていた、と、そういうことのようで。
お葬式は、うちの店のメンバーを数名つれて伺いました。
他の参列者たちもみんな、押し黙ってうつむいているし、
ときどき、すすり泣く声が聞こえて、暗く重たい空気です。
彼の学校の同級生も来ていて、
大勢の人が、彼の死を悼むように遺影を見つめていました。
佐々木くんのご両親は、息子の死に意気消沈していて、
見ているのがつらいくらい、泣き崩れていました。
親族の方が、代わりに色々対応されていて、
私たちも挨拶をしてから、席につきました。
でも、どうにもおかしいんですよ。
彼がいつだか話していた、弟さんの姿が、どこにもないんです。
いくらまだ三才とはいえ、兄が亡くなったのなら、ふつう参列するはずでしょう?
お花を入れて、棺を閉める段階になっても現れないし、
あまりにも気になったので、私は後で親族の方にそっと聞いてみたんです。
「彼の弟さん、今日、いないんですか?」って。
すると、親族の方は明らかに困惑した表情をして、
「えぇと……あのうちは、あの子一人しかいませんけど」
と、戸惑うように言ったんです。
彼から弟の話を聞いていた、うちの飲食店メンバーも驚いて、
詳しく話を聞きたがったんですが、さすがに、今は葬式の場です。
その帰り、同乗する車内では、
『あいつの言っていた弟ってなんだったのか』と、
皆でちょっとした議論にしましたよ。
佐々木くんはとてもウソを言っているように思えなかったし、
もしウソにしても、もっと別の言い訳があるでしょうし。
そして、その謎の真相は葬儀から一か月後、
彼と親しかったアルバイトの子から、もたらされました。
いたんですよ、彼の弟。
といっても、腹違いの……いえ、浮気相手の、というべきかもしれません。
佐々木くんのお父さん、数年前に浮気をして、
相手の女性を妊娠させてしまったそうなんです。
その女性はかなり事情持ちの人で、両親と相手の女性との話し合いの末、
できた子どもは、中絶という形になったと聞きました。
それが、だいたい今から四年前。
そう……この世には生まれていなかったんですよね、彼の、弟さんは。
それに――さっきの話は、
佐々木くん本人には隠されていたから、
弟がいるなんてこと、知らなかったはずなんだ、って。
でも――本当に、可哀そうですよね。
何の落ち度もない、むしろあれほど心優しい彼が、
どうして、その弟に連れていかれなければならなかったのか。
ああ……そうでした。彼の死因について、お話していませんでしたね。
彼の死因は、窒息死。
死にざまは、異様な光景だったそうです。
口の中には、弟さんが好きだと言っていたパズルのブロックが、
気道をふさぐように、びっしりと詰め込まれていたのだそうで。
まるで、誰かが無理やり、押し込んだかのように。
……あまりにもお兄さんが優しいから、
弟さんも、あの世にいっしょに連れて行きたくなってしまったんですかね。
私の話は以上です。ありがとうございました。
===
※ 次回更新 → 4/28(月) ~ 3話
うちの会社、飲食店なんですけどね。
そのバイトで、いっつも眠そうにしている子がいたんです。
名前は……そうですね、仮に佐々木くん、としましょうか。
彼は、ホール係をメインにやってくれていたんですが、
まだ高校生だというのに、かなり仕事ができる子でした。
テキパキ動くし、いつもにこやかなのでお客さん受けもいいし、
うちで働く他の従業員たちからも、かなり可愛がられていたんですよ。
でも、この子。
ひとつだけ欠点がありまして。
それが、いっつも眠そうにしていること、なんです。
佐々木くんは、よくまぶたを半開きにして、
しょっちゅう目をこすっていました。
絶えず欠伸をしていて、休憩時間になると、
机につっぷして、数分もしないうちに眠ってしまっていたくらいです。
さすがに、接客をしている時はシャキッとしていましたが、
店が空いてきた時や、休憩の時ばかりは、
何日も寝てないんじゃないかってくらい、とっても眠そうにしていたんですよね。
学生だし、夜更かしが楽しい気持ちはわかるので、
それに関して、特に口出しすることはなかったんですが。
でも、ある日。
昼のせわしい時間が終わって、休憩室へ向かう佐々木くんが、
あんまりにも生あくびをくり返していたので、思わず、声をかけてしまったんです。
「ねえ、なんでいっつもそんなに眠そうにしてるの?」って。
すると、彼は「ああ」と眠そうに首を振りつつ、
「おれ、めっちゃ年下の弟がいて。夜、遊んでってせがまれるんスよ。それに付き合ってたら、いっつも寝るの遅くなっちゃって」
と、あくびを噛み殺しながら言いました。
なんとも優しい理由に感動した私は、その勢いのまま、
弟の年齢や、どういう遊びをしているのか、などを詳しく聞きました。
弟さんは三才で、高校二年生の彼とは、十一才差。
特にブロック・パズルが好きらしく、
楽しそうに、弟と作ったパズルの話をしていました。
『いつも夜通し付き合わされて』なんて言っていたけど、
眠そうなわりにとても嬉しそうで、弟思いなのがよく伝わってくるほどです。
優しいお兄ちゃんだなぁ、とほんわかしたのをよく覚えていますよ。
でも、後々考えてみると、三才の子に夜通し付き合うのは、
子どもの発育的によくないんじゃ? なんて思ったりもしました。
ただ、彼が三年生になった年の夏――
本当に突然、佐々木くんは亡くなってしまったんです。
朝、起きてこない彼を、親が確認しに部屋に行ったら、
すでに亡くなっていた、と、そういうことのようで。
お葬式は、うちの店のメンバーを数名つれて伺いました。
他の参列者たちもみんな、押し黙ってうつむいているし、
ときどき、すすり泣く声が聞こえて、暗く重たい空気です。
彼の学校の同級生も来ていて、
大勢の人が、彼の死を悼むように遺影を見つめていました。
佐々木くんのご両親は、息子の死に意気消沈していて、
見ているのがつらいくらい、泣き崩れていました。
親族の方が、代わりに色々対応されていて、
私たちも挨拶をしてから、席につきました。
でも、どうにもおかしいんですよ。
彼がいつだか話していた、弟さんの姿が、どこにもないんです。
いくらまだ三才とはいえ、兄が亡くなったのなら、ふつう参列するはずでしょう?
お花を入れて、棺を閉める段階になっても現れないし、
あまりにも気になったので、私は後で親族の方にそっと聞いてみたんです。
「彼の弟さん、今日、いないんですか?」って。
すると、親族の方は明らかに困惑した表情をして、
「えぇと……あのうちは、あの子一人しかいませんけど」
と、戸惑うように言ったんです。
彼から弟の話を聞いていた、うちの飲食店メンバーも驚いて、
詳しく話を聞きたがったんですが、さすがに、今は葬式の場です。
その帰り、同乗する車内では、
『あいつの言っていた弟ってなんだったのか』と、
皆でちょっとした議論にしましたよ。
佐々木くんはとてもウソを言っているように思えなかったし、
もしウソにしても、もっと別の言い訳があるでしょうし。
そして、その謎の真相は葬儀から一か月後、
彼と親しかったアルバイトの子から、もたらされました。
いたんですよ、彼の弟。
といっても、腹違いの……いえ、浮気相手の、というべきかもしれません。
佐々木くんのお父さん、数年前に浮気をして、
相手の女性を妊娠させてしまったそうなんです。
その女性はかなり事情持ちの人で、両親と相手の女性との話し合いの末、
できた子どもは、中絶という形になったと聞きました。
それが、だいたい今から四年前。
そう……この世には生まれていなかったんですよね、彼の、弟さんは。
それに――さっきの話は、
佐々木くん本人には隠されていたから、
弟がいるなんてこと、知らなかったはずなんだ、って。
でも――本当に、可哀そうですよね。
何の落ち度もない、むしろあれほど心優しい彼が、
どうして、その弟に連れていかれなければならなかったのか。
ああ……そうでした。彼の死因について、お話していませんでしたね。
彼の死因は、窒息死。
死にざまは、異様な光景だったそうです。
口の中には、弟さんが好きだと言っていたパズルのブロックが、
気道をふさぐように、びっしりと詰め込まれていたのだそうで。
まるで、誰かが無理やり、押し込んだかのように。
……あまりにもお兄さんが優しいから、
弟さんも、あの世にいっしょに連れて行きたくなってしまったんですかね。
私の話は以上です。ありがとうございました。
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