魔力を失ってもいいんですか?パーティーを追い出された魔力回路師は気ままに生きる

夜納木ナヤ

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【カナ視点】失われた力を求めて

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【カナ】

 大きい男と小さい男に連れられて、モンスターのいた洞窟を出た。
 
 置いてきた一人は大丈夫だろうか?
 ううん、きっと今頃大変なことになっている。

 その人の回路は、魔剣を使ったと同時に壊れたのは分かった。

 すぐに直そうとした。
 だが、私は無力だった、

「気にすることはないよ」
「そうだ、見切りをつけるタイミングを探していたんだ。ちょうどよかった」

 二人をそう言って私を責めたりはしない。むしろ感謝しているようだ。

「ミキヤなしで俺達がS級勝てるわけがないんだ」
「まったく、どこで勘違いしてしまったんだろうね」
「そうそう、もしかして気づいてて回路を直さなかったのか?」

 この人達は、私が回路を直せなかったのではなく、直さなかったのだと思っているようだ。

「そんなわけないよね。行こうか、サクマ」
「ああ、嬢ちゃんも元気でな」

 2人は勝手に納得すると、さっさと行ってしまった。
 残った一人を助けに行くべきだろうか?

 だけど、私が言って何になる。

「それに、ダメだった…」

 他の魔力回路師の作った回路に触れる。その目的は達成できた。

 だが、なにも解決はできていない。
 今の私の魔力回路師としての力はほとんど残っていない。

 せめて不調の原因が分かれば良かったのだが、その糸口すら見つけられなかった。

 分かったのは、私とたまたま見かけたの魔力回路師の実力差だ。
 作られていた回路は精密で、私には解読することすら出来なかった。

「ごめんなさい」

 そう言うと、洞窟の前を離れた。
 途方にくれ、どうやったのか町にたどり着いていて、ただ呆然と彷徨っていた。

 そんな私に声をかけてくる人がいる。

「回路の調子が悪いみたいですね。見てあげましょうか?」

 細身の男性だ。
 優しい顔立ちで、眼鏡が良く似合う。

 だが、レンズの奥にある瞳は、とても濁っていた。
 狙いは考えるまでもない。私の体だ。

「本当に治るの?」

 怪しいのは分かっている。

 だけど、着いていく価値はある。
 この人は魔力回路師だ。

 手段はどうあれ、前のように回路を操れるようにしてくれるかもしれない。

「俺様、ブラデに任せておけば心配ありませんよ」

 私が無言で頷くと、男は舌なめずりをした。

 連れられてやってきたのは、見慣れたホテルだった。
 彼はすぐに手続きを終えると、私を部屋に連れて行った。

「服を脱いで横になるんだ」

 魔力回路師は肌に触れなくても、回路を作ることが出来る。
 彼の要求は無茶苦茶だ。

 だけど、最初から目的は私の体だ。
 
 言われるがままに服を脱ぐと、ベッドに横になった。
 思えば、先に裸になって待つ経験はいままでない。

 私はこれまで他の男と部屋に入ったことはあるが、いつも先に待っていてもらった。

 恥ずかしくなってきて、近くにあったシーツで体を隠した。
 すると、狙ったようなタイミングで男が近づいてきた。

 怖い…目ツキが凄い。
 優しそうな外見とは裏腹に、その目はギラギラと光り、私に襲いかかろうとしている。

「なんだよ、怯えちまって。こうなるのが分かっていて来たんだろ!」

 男はシーツをはぎ取ろうと手を伸ばす。
 その瞬間、指先は私の胸に触れた。

「キャッ」
「うお!?」

 声を上げたのは同時だった。
 
 突き飛ばした覚えはないのだが、男は後ろにのけ反った。
 私を狙っていたその顔は、険しいものに変わっている。

「てめえ、魔力回路師かよ!」

 怒っている。
 どうして?私が魔力回路師って分かっていて声をかけたんじゃないの?

「ふざけんな!魔力回路師は魔力回路師に触れたらいけねえんだよ!」

 そんなルールは初めて聞いた。

「分かってて誘ったんじゃないの?」
「ちげえよ!心臓周りがやけに薄いからそこを治すだけの簡単な仕事だと思ったのによ…やめだ、やめ。俺は帰る。部屋は明日の朝までになってるから好きに使え」

 男は人が変わったように荒っぽい言葉を残すと、私を置いて出て行った。
 
「私はどうしたらいいの…?」

 どうせ行く当てもない。
 とりあえず朝まではここにいさせてもらおう。

 気が付けば涙があふれてくる。
 私を救ってくれる人はどこにもいない。

 いっそのこと、全てを捨ててしまった方が楽なのではないだろうか。 
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