魔力を失ってもいいんですか?パーティーを追い出された魔力回路師は気ままに生きる

夜納木ナヤ

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クレシードの異変

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 呪いを解く手筈を整えるべく、冒険者ギルドを訪れた。
 すると、俺を見るなり、小柄な女の子が駆け寄ってくる。

「ミキヤ様!お待ちしてました!」
「まるで俺が来るのが分かっていたような言い方だな」

 このやたら元気のいい彼女はサトコ。
 俺の担当受付嬢であるサユリの後輩だ。
 髪は短く、言われたことを素直にこなす活発さがある。

「はい!サユリさんから聞いています!」

 力こぶを作って元気いっぱいに声を上げだ。
 あまりの可愛らしい動きに、見ているだけで笑みがこぼれてくる。

「なるほどサユリか。それなら話が早い。外で人が倒れていたけどどうなってんだよ」 
「魔王です!魔王が出たのです!」
「はあ?そいつは一大事だな」
「そうなのです!一大事なのです!」

 サトコは眉間にしわを寄せて緊迫感を伝えよとする…のだが、キャラがキャラだ。
 イマイチ臨場感がない。

 それに、魔王がこんなことをするはずがない。
 本当にいたら一大事いちだいじかもしれないが、町の惨状を見るに、いても部下の部下までがいいところだ。

「ミキヤ様!魔王を倒してください!」
「断る」
「なんでですかぁ!?」

 涙目になって懇願してくる。
 本気で魔王がいると思っているのか…。

「俺に魔王を倒させたせたいならギルド幹部全員の許可を取ってこい」
「無理です!」

 すがすがしいほどの即答だった。
 ちょっとムカついたので頭をコツンと叩いた。

「痛いです!」
「さっきの言葉、サユリに言ったら怒られるぞ」
「うー…それはそうですが…」

 元気があり、素直でいい子なのだが、少し頭が弱い。
 これでよく受付嬢をこなせているものだ。

「魔王は一旦置いておくとして、外で倒れている人たちの症状は?」
「皆さん魔力を使えなくなっているのです!」
「他には?」
「魔法屋でも治せませんでした。お医者さんも調査中で、症状を解明出来次第治療に移るそうです」

 期待していた5倍はいい返答が来た。

 魔法屋が回路を作るのが仕事だが、健康体に対してのみだ。
 それ以外は医者の管轄になる。

「あーそうそう、魔力を使えなくなったのは山に行った人たちがです!」
「山?あーキノコ狩りか」

 となるとキノコは食べられないのか…って、そうじゃなかった。

 キノコ狩りを許可されているのは限られた現地民だけだ。
 森の奥地には離島の採取地に繋がる入り口があり、許可証を掲げることで入ることが出来る。

「てことは表で倒れていたのは護衛で一緒に行った連中か?」
「はい」
「現地民に被害は?」
「出ていませんね」

 それではまるで、冒険者だけを狙ったみたいだ。
 となると犯行は、冒険者ギルドに恨みのある者か。
 
 魔王どころか、部下ですらそんなことはやらないぞ。
 せいぜい部下の部下ぐらいだろう。  

「山で何があったかは聞いているか?」
「いえ。皆さん話せる状況ではないので」
「それもそうか…わかった。すぐに被害者を連れて来てくれ。とりあえず2人ぐらい」
「は、はい!すぐに!」

 トコトコトコとサトコは外にかけていくと、小太りの男と細身の男を引きずって来た。
 小柄なサトコにのどこにそんな力があるんだ?

「連れて参りました!」
「あ、ああ…まあ、いいや…うん」
 
 にしても、すぐにとは言ったが引きずってくることはないだろう。
 男たちも驚いている。

「えっとすまない。俺はさっきここに来たんだが、山に行ったら魔力を使えなくなるってのは本当か?」
「ああ、そうだよ」
「魔法屋でも無理って言われたし…医者もはっきりしねえし、このままじゃのたれ死ぬしかないぞ…」

 かなりやつれている。
 クエストをこなせず、何日も食事をとっていないのだろうか?

「少し体を見せてもらうぞ」

 俺は魔力を地面に垂らし、男たちにつなげた。

 入り口で見た奴と同じだ。
 体の3か所に黒いリングが出来ている。

「お、俺達はどうなるんだっ!?」
「安心しろ、今から治す。サトコ、浄化器を持ってきてくれ」
「は、はい!」

 今度は外ではなく奥に消えていった。
 それからしばらく待つと、大きな器械がこっちに向かって歩いてくる。
 いつから自動歩行の機能なんてついたのだろうか?
 二本のあしが見えていて、足取りはおぼつかないながら確実に進んでくる。

 …って、あの足、どう見てもサトコじゃねえか。
 慌てて駆け寄ると、運ぶのを手伝った。

「おいおい、転ぶぞ」
「だ、大丈夫です!転ぶのは慣れています!」
「いや、器械が壊れたらどうするんだよ」
「そ、そうでした!すみません!」

 騒ぎながらも浄化器は無事届けられた。
 大したことをやっていないはずなのに、サトコが絡むといちいち大事になるな。

「それじゃあ始めるぞ」

 浄化器を男の腕につなげると、意識を集中させる。

「コネクト」

 リングの一部に切れ目を入れ、輪っかを一本の紐に変える。
 あとはそれを、浄化器へと放り込む。
 よし、成功だ。

 体内から呪いは取り除かれた。
 あとは、時間が経てば、浄化器の中で魔力は分解される。

「次は腹…次は足…よし、終わりだ」

 作業時間約3分。
 呪いに触れていた時間よりも、浄化器を腹と足に付け替えた時間の方が長かったぐらいだ。
 
「終わったぞ」

 言い終えると、男は立ち上がり、腕をブンブンと振り回す。

「すごい、体が軽いぞ!」
「な、なんだとっ!?お、俺も治してくれ!」
「あいよ」

 同じ手順でもう1人の男も治療した。
 やはり、黒いリングが3つまとわりついていた。

 この呪いの仕組みは同じのようだ。

「凄いな」
「助かったよ」

 2人は体の調子を確認すると、ほっとしたように言った。

「おかしくなった原因に心当たりはあるか?」
「ん-そうだな…」
「そういえばおかしなキノコを見たな」
「おかしな?」
「ああ。護衛対象には見えてなかったみたいなんだけどよ、俺達が触ったらはじけて消えた」

 この町に来る途中に似たような光景を見た。
 目の前を歩いていた女が光に触れ、目の前で弾けた。

 俺には光に見えていたあれが、キノコに見えていたとしたら状況は一致する。

「ありがとう。参考になった」
「こっちこそ助かったよ」
「出来ることがあったら呼んでくれ。いつでも手伝うから」
「ありがとう」

 2人は手を振ると、ギルドを出て行った。
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