魔力を失ってもいいんですか?パーティーを追い出された魔力回路師は気ままに生きる

夜納木ナヤ

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緑の髪のストーカー

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 採取地の入り口を目指して、森の中を進んでいく。

 道中には、いかにも手作りの『立ち入り禁止』の看板がいくつも立ち並んでいた。
 十中八九、サトコが作ったものだろう。

 そういえば金づちは持って行ってなかったはずだけど、どうやって釘を打ち込んだのだろうか?
 まさか素手で…いやいや、いくらサトコでもそんなことはしないはず…だよな?
 覚えていたら聞いてみるか。

 さて、そろそろ頃合いか。

「おい、いつまで後をつけてくるつもりだ」

 声を上げると、背後でザザっと木が揺れ、何かが隠れる音がした。

 俺が町を出た時からずっと、後をつけてきている奴がいる。

 魔力を森の脈につなげている俺から、隠れることは不可能だ。

 脈は、人で言う魔力の回路だ。
 太い一本を中心に、細かい線が生えていて、森全体に繋がっている。
 
 今の俺は森自身と言っても過言ではないのだ。

「隠れても無駄だぞ。町を出た時から着いて来てるだろ」

 普段はここまでしないのだが、今回は呪いが起きている。
 念のために用意しておいたセンサーに、間抜けな誰かが引っ掛かった。
 
「気づいていたのね」

 諦めたように言うと、ストーカーは姿を現した。
 その正体は、昨日見た緑髪だった。

「体におかしなところはないか?」
「あら、優しいのね」
「一瞬だけど関わっているからな。野たれ死なれたら気分が悪いだけだよ」
「そう、ありがとうと言っておくわ」

 彼女の様子を見るに、体に異変はなさそうだ。
 だが、おかしな点はあった。

「それで、アンタは何者だ?ただの人じゃないよな?」

 木や草はわずかながら魔力を宿していて、森の隅々までシルエットでわかる。
 その中には、目の前の女も含まれていた。

 全身だったら森の精霊かとも思ったが、奇妙なことに右耳だけだ。

「貴方こそ、何者?森が怯えているわ」

 ざーっと風が吹き、木々が揺れた。

「俺はミキヤ。魔力回路師だ」
「魔力回路師…」

 彼女は言葉を反芻すると、嫌そうな顔を浮かべた。

「その魔力回路師がどうしてここに?立ち入り禁止のはずでしょ」

 そう言って、いかにも手作りの看板を指さした。
 うーん、よくよく見ると汚い字だ。

「俺はギルドから許可をもらっている。緑髪はもらっていない。質問は以上」
「緑髪というのは私のこと?」
「質問は以上って言ったはずだろ。まあいいや、緑髪は緑髪だ。他にいないだろ?」

 指を刺しながらいうと、睨みつけられた。
 いかにも気の強そうな子だ。
 
 それに、必要以上に警戒されている気がする。

「呪いを治して回っていたのは貴方?」
「治したが回ってはいないな。サトコは走り回っていたけど」
「茶化さないで!」

 彼女が叫ぶと、森がざわめいた。
 なんだ?
 森の魔力が、彼女の感情に呼応するように波打っている。

「ねえ、森に魔力をつないでどうするつもり?」
「ほう…分かるのか」

 どういう仕組みだ?
 タエと同じ魔眼か?
 それとも魔具か?

 脈から情報を探るが、おかしなところは見られない。

「ええ、森がびっくりしているわ」
「そいつはまるで、アンタ自身が森みたいな言い方だな」

 おチャラけてみせたつもりだったが、緑髪の表情は揺らがない。

「へー、笑わないのね」
「生憎、『魔王の部下と戦ったことがある』ってギャグを、真面目な女の子から聞いたばかりでな」

 本当だったんだけどな。
 だから俺は、緑髪の言葉も8割は本気で受け取っている。

「それは笑えな…痛っ」

 緑髪は急に右耳を抑えると、その場に膝をついた。

「大丈夫か?」

 俺が近づこうとすると、睨みつけてけん制してくる。
 なぜそこまで触らるのを嫌がる。

「アンタからは危険な匂いがする。森がそう言っている」
「そいつは冤罪だ。俺は何もしていないぞ?」

 まだ、な。

「森がどうこうは一旦置いておくとして、そろそろ目的を教えてくれないか?俺も暇じゃないんだ」
「…アンタ、採取地に行くのよね」
「そのつもりだ」
「私も連れて行きなさい」

 密猟者…ではなさそうか。
 だったら森の声なんて不審がられることをわざわざ言うはずもない。

「森が泣いているの」

 言い切った彼女は、両腕で体を抱くと、不安そうに身をよじらせた。

 悪い子でないのは話していればわかる。
 だが、目的が見えてこない。

「コネクト」

 俺の魔力は森の脈を離れ、緑髪へと伸びていく。

 すると、やっと見つけた。
 森の一部ではない、彼女自身が。

「そういうことか…」

 回路は存在しない。
 魔力も平均と比べるとかなり弱い。

 だが、さっき抑えた右耳。そこだけは、異常なほどの密度の魔力で満たされている。
 それも彼女のものではない。
 
 人が持つことが出来ないほどに、純粋で強力な魔力。
 
「そうか、精霊使いなんだな」
「な、どうしてそれを…」

 それならばさっきまでの言動も納得がいく。
 
 精霊使いは、体の一部に精霊を宿した存在だ。
 宿した精霊の種類にもよるが、鳥や魚と会話できたり、中には無機物と話を出来る者だっている。

「今調べた」

 隠す理由もないので正直に言うと、嫌そうな顔をされた。

「気持ち悪い…魔力回路師ってやっぱりそうなのね…」

 やっぱりってなんだよやっぱりって。

「そうよね、初対面で追っかけまわして触ろうとしてくるような奴よね。魔力回路師で納得だわ」
「おいおい、凄い偏見だな」
「いいえ、アンタで二人目。確定だわ!」

 どうして魔力回路師と言うだけで、みんな過剰反応をするのだろうか。
 俺は至って普通だぞ?

 おかしな奴が1,2、3…全部で3人いるだけで…って、5人中3人か。
 これだと過半数越えじゃねえか…。
 衝撃的な事実に気が付いてしまい、誰か1人でも殴りたくなった。
 もちろんカナだけは例外だ。

「まあいいや。ついて来るなら好きにしていいぞ」
「その代わりに服を脱げって言うつもりね!」

 ミサキの顔が浮かんだ。
 出会ったことは嫌われていたっけ。

「どっかで聞いたセリフだな…言わない言わない」

 適当に手を振ってあしらうと、怪しそうな顔をされた。
 面倒な奴だな。

「行くのか行かないのかどっちだ」
「い、行くわ!」
「決まってるなら細かいことはいいだろ」
「だけど…」

 何を渋っているのか分からない。

「迷っている間に俺の問いに答えろ。行くなら名前を言え。言わないなら置いていく」

 すぐに背を向けて歩き出すと、焦ったような声がした。

「エイラ!エイラよ!!って…止まりなさいよ!ちゃんと名前を言ったじゃない!!!」

 歩く速度を速めると、小走りに駆け寄ってきた。
 それでも俺が無言でいると、今度は不安そうな顔を浮かべて、隣を歩く。

 そのまま奥に進んでいくと、紋様入りの壁が見えて来た。
 ここが採取地の入り口だ。
 
「なあ、もしここで服を脱げって言ったらどうする」
「え、えーっと…ここまで来ちゃったし…でもここは奥だから誰も来ないし…あーもう、変なこと言わないでよ!」

 本気で悩んだ挙句、声をあげて威嚇してきた。
 全く、獣じゃないんだから…。
 
「それだけ元気なら大丈夫だな。行くぞエイラ、ああそういえば俺の名前を言ってなかったな。ミキヤだ」

 ギルドの許可証を掲げると、道が開かれた。
 とっとと中に入ろうとすると、エイラは立ち止まったままだ。

「早くしろ」

 手を掴んで引っ張ると、初めて抵抗されなかった。
 そして俺たちは、採取地へと足を踏み入れた。 
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