長年のスレ違い

scarlet

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第一章

名刺交換

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「じゃあ、隣同士名刺を交換してください」

今日はパソコン室で自分のオリジナルの名刺を作った。それを隣同士交換することになり、杉戸尾くんと名刺を交換することになった。

「杉戸尾くん……はい!」

杉戸尾くんは中々受け取ろうとしない。
さっきよりも力強くグイッと押すと、なんとか受け取ってくれた。

「………」

何も言わずに黙って、自分の名刺を私に渡してくれた。授業中でもくれなかと思ったのに。

「あ、ありがとう」

杉戸尾零夜と明朝体の黒で書かれていて、周りは白で柄は無しのシンプルな名刺だった。
何だかそれが杉戸尾くんらしかった。

私なんて、名前はピンクのゴシック体で周りは白で……少し派手すぎたような気がする。

「杉戸尾くんに名刺もらったの!?」

「え、あ、うん…」

昼休み、女子の間では杉戸尾くんの話題になっていた。

名刺を他の人にあげるの意外。
私は授業中だったから、くれたのかもしれないけど、毎回面倒くさそうにしながら断りそうなのにな…

「杉戸尾くんが誰かにあげるわけ無いでしょ?」

クラスでも目立つ女の子達……杉戸尾くんのファンの人が名刺をもらった子の周りに集まってきた。

ファンのトップリーダーが雨宮紫苑さんで、美人で清楚な女の子で、男子が苦手らしい。
今は居ないけど。

「あの、その……」

名刺をもらったと言っていた女の子が、少し顔を青白くしてなんだか慌てているような気がした。

「一ノ瀬さん、この名刺本当に杉戸尾くんの?」

杉戸尾くんにもらったと言っていたその名刺は、杉戸尾くんの物ではなかった。

名前は明朝体の黒で合ってるけど、周りが白の中にいくつか柄が入っていて、すぐに違うと分かった。

でも、なんで嘘をついたの?と、名刺をもらった子たと言っていた子を見た。
すると、手がガタガタと震えていて、顔が更に真っ青になっていた気がした。

今ここで本当の事を言ったら、この子が1番に責められるよね…

「……杉戸尾くんの名刺です」

本当は違うけど、この子は後悔をしているみたいだし、助けてもいいよね?

話がついた後に教室を出ようとドアを開けたら、目の前には杉戸尾くんが。

もしかして、さっきの会話聞かれていた?

視線を合わせづらくて、横を通りすぎようとしたら、

ーグイッ

杉戸尾くんに腕を引っ張られて、人気のない場所に。

「何言ってるんだ?」

いつもよりも鋭く睨みつけられた。
迫力が倍にあったため、心の底から怖く感じた。
ビクビクと手が震えているのがわかる。

「ご、ごめんな、さい!」

自分のした事は悪いことだと感じて、涙目になりながらも、聞こえるか聞こえないかの声でも謝った。

「あいつらに言ってきてやる」

教室に向かおうとした瞬間に、腕を必死に掴んだ。

ここで杉戸尾くんが本当のことを言ったら、あの子が!

「お願いします……お願いします………」

怖くて泣きそうになっても、何とかこらえて杉戸尾くんにお願いをしながら、手に力を込めた。

あの子は悪いことをしたけど、後悔してた。
それって、やり直せるんじゃないかって思った、から…

「無理」

完全にシャッタアウトされた気分になった。
でも、これが自分のことだったら、諦めがつくけど……これは私じゃなくて、あの子のだから!

「お願いします、お願いします………」

私がそう言うと、杉戸尾くんは何も言わずに私の手を軽く振り払って、教室の方に向かって行った。

何をするのか不安になってそっと追いかけてみた。

「なんであの子にあげたの?」

ファンの人達が杉戸尾くんをサッと囲んだ一瞬、私の方を一瞬向いたような気がした。

「何となくだよ」

……杉戸尾くん。
ハァとため息をつきながらも、嘘をついてくれた。
ありがとうという気持ちで胸がいっぱいになった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

教室に入ろうとした瞬間、女子達が俺の話題について話していたのを耳にした。
それに関わるのは面倒くさいと思い、屋上にでも行こうとしたら、

「……杉戸尾くんの名刺です」

と、一ノ瀬は誰かにそう言い放った。
教室から出て来て、俺を見た瞬間気まずそうな顔をして、下を向いていた。

なんであんな嘘の事をあいつらに言ったのか、よく分からなかった。
一ノ瀬以外、誰自分の名刺をあげた覚えは全くない。

ーグイッ

この場じゃ、素の自分を出していたら、この会話を聞いていた周りの奴らに素がバレるため、人気のない場所まで一ノ瀬を連れてきた。

「何言ってるんだ?」

本当の事を言えない、こんな奴を見てるとイラつく。
だから、女子の中でもこいつは苦手なんだよ。

「ご、ごめんな、さい!」

俺がこいつにきつくあたって言って、無理やり謝らせているみたいな感じがあって、バカバカしく思った。

こいつは一体何がしたいのか、よく分からない。
女ってそーゆう奴らの塊なんだよな……分かってたけど。

「あいつらに言ってきてやる」

誤解を解きに、教室に向かおうとしたら、いきなり腕を必死に掴まれた。

どこまでして引き止めたいんだよ。

「お願いします……お願いします………」

少し泣きそうな顔をしながらも、必死に言葉を出して、腕をぎゅっと力強く握りしめられた。

なんで…友達でもない奴のために、そこまで必死になるのかがよく分からなかった。
いつもクラスではぼっちのくせに。

「無理」

もういい加減諦めるだろうと思ったら、まだ俺の腕を離さずに、手足が震えていても、俺を一生懸命見ていた。

「お願いします、お願いします………」

こいつ、友達でもないやつのために必死になって、ここまでして……

いつもは目が合ったら、すぐ反射的にそらすくせに、今日は…今はだけは、俺の目を見ようとしている。
嘘をついたあいつのために。

きっと、嘘をついたことがバレたら、嘘をついた奴がその場所に居づらくなると思って言ったんだな。

……案外、他の奴のためになると意志の強い奴なんだな。少し悔しいけど、こいつを低く見すぎてしまった……ったく、しょーがねぇーな。

「なんであの子にあげたの?」

教室に入った瞬間、いつもつきまとってくる奴らに、いくつか質問を投げつけられた。
そして、俺は一瞬だけ一ノ瀬の方を向いた。

嘘をついたあいつのためじゃなくて、最後まで粘ってきた一ノ瀬のためにつくんだからな…とでも言うように。

「何となくだよ」

一ノ瀬に負けたような……変な気分で、ハァと思わずため息をついていた。

言いたい事を言わないタイプだと思っていたけど、案外人のためになると、嫌でも最後までそいつのために頑張れるタイプだったんだな。

教室を後にして屋上に向かおうとしたら、

「杉戸尾くん!あの、あ、ありがとう!」

と、どこか嬉しそうに一ノ瀬が俺の方に近づいてきた。いつもの変な話し方じゃなくて、ごく自然に。

「杉戸尾くんって、優しいね」

ートクン

今までに俺が見たことのない、とびっきりの笑顔でこちらを向いて言ってきた。
いつもは友達の前でしか、こんな笑顔を見せないのに。俺の前だったら、絶対にこんな顔をしないのに。

急に笑顔向けるとか、なんだよそれ。
ほんと、意味わかんね。

鼓動は今までになったことのないぐらいの速さで、トクントクンと大きな音を立てていた。

俺はなんで、こんな奴にドキドキしてんだよ…

女に優しいなんて言われたことはなかった。
言われたとしても、俺に何かしら好奇心があって…...裏がある奴だけ。

でも、こいつは違う。
他の奴とは違う。
本当の俺と向き合って、優しいと言ってくれた。
俺の全部を見せたっていうのに…

「その笑顔いいぞ、もっと見せろ」

もっとこいつの笑顔が見たくなった。
なんだろうな、この気持ち。
よくわかんねぇーけど、複雑で、純粋。
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