長年のスレ違い

scarlet

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第一章

嘘の噂話

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昨日杉戸尾くんに、

『その笑顔いいぞ、もっと見せろ』

と、突然言われていた。

それからお互いに顔を見合わせてないけど、どんな顔で杉戸尾くんに会ったらいいのか分からない。

あ、あれって、どーゆう意味なのかな?
特に意味はないとは思うんけど、あんな言葉を突然言われるなんて思っもいなかったから。

って、意味があったと思ってるなら、杉戸尾くんが私の事好きみたいに言ってしまってる!
それはない!だけど、なんであんな事を言ったのか、知りたいな。

でも、単純に言っただけなのかもしれない。
あんまり深く考えない方がいいかもしれない。

「零夜!おはよう」

杉戸尾くん!?……う、後ろに居る…

あの瞬間を思わず思い出してしまって、だんだん顔が赤くなっていったのが分かった。

深く意味を追求しない方がいいって分かってるけど、あの言葉を意識してしまって……自分が自分じゃないみたいに変になる。

「はよ」

杉戸尾くんは私の後ろをいつも通りに通って行った。
こっちに1回も振り向かなかった。

あの言葉の意味は何だったんだろう。
私向けていったのかな?って思うほど、昨日の事はなかったかのように意識してない。
こっちが意識してるみたいで嫌だな。

「一ノ瀬さん、ちょっといいかな?」

確か、この人は男子テニス部のキャプテンをしている人だったような気がする。
クラスの女子の話題にもよくなっているから。
そんな人が、部活を入っていない私に何の用事だろ?

先輩の背中を追いかけるようについて行く。
すると、途中、途中に先輩の姿を横目で見て、何人かがこちらに振り返っていたことに気がついた。
本当に、この先輩人気あるんだなって思った。

それと、前から薄々思っていたことだけど。
それと同時に、私の方に視線を向けている人が居る。

何かした?あんまり注目されるのは苦手なんだけどな。

そう思いながら歩いていると、いつの間にか、空き教室に先輩と2人っきり。

廊下での騒がしさとは違って、静けさが残る。
緊張するような空気が漂っている。
この空気苦手なんだけどな。とは思うものの、実際にそんな事を口に出せない。

「一ノ瀬葵依さん、付き合ってください」

え、あれ……今思ったけど、この先輩は確か……宮坂さんと付き合ってなかったけ?
宮坂さんは私と同じクラスの子で、明るくてかわいい女の子。

それなのに、どういう事?
もしかして……別れたの?
そうやって、次々にいろんな疑問が浮かんでくるけど、私の答えは1つだけ。

「ご、ごめんなさい。私は好きな人が居るので…」

気持ちは嬉しいけど、先輩の気持ちには答えられない。
片思いでも、私は翼くんが好きだから…

「だから、噂流れてたんだ」

「う、噂ですか?」

「まぁ、ほかの人に聞いたら分かるよ。とにかく、聞いてくれてありがとう」

「い、いえ!」

噂って……どうしよう。
誤解を生むような、変な噂が流れてないといいけど。

でも、この学年のことだから、噂に変なことを付け足している人が居る決まってる。

先輩と話をつけた後、とりあえず教室に向かってみた。クラスメイトで話す人は居ないけど、なんとなく教室に行ったら分かるような気がしたから。

でも、内容を聞きたいけど、聞きたくないっていう気持ちもある。
どうしよー!と考えている最中に、

「一ノ瀬さん、ちょっといい?」

ふと気がついたら、いつの間にか私はクラスメイトの女子、何人かに囲まれていた。

何かした?
もしかしたら、先輩が言っていた噂と関係してるとか?
変に勘違いされてたらどうしよう…

「杉戸尾くんと付き合ってるって、ほんとなの?」

ただ冷たく、冷静に、そうきっぱりと聞かれた。

「……つ、付き合ってない!」

これって、もしかしてあの噂の内容?
なんでこんな嘘の噂が流れてしまってるの?
……もしかして、昨日の会話見られてた?
それで誤解した人居たの?

「しかも、藍の彼氏とったでしょ!?」

え!なんでそういう事にもなってるの!?

宮坂さんの親友の、樫野さんは私に対して怒っていた。

もし、そういうことになっているのだったら、怒っても仕方がないけど、これは違う!
完全に勘違いされてしまっているよ。

「藍は上手くいってたのに、一ノ瀬さんが居たから別れるはめになったの!」

……私のせいで2人は別れてしまったの?
4年間も続いていたのに。
とんでもない事をしてしまった気がした。
樫野さんの言葉が心に刺さった。

ードンッ

「杉戸尾くんと先輩をどっちも奪うの!?」

樫野さんは涙ながらに、私に向かって叫んだ。

そんなの……奪う気なんて、全く無かった。
私は翼くんの事が好きなだけなのに。

「藍がどんなに苦しんだか、寂しかったのか……あんたには、分かんないよね!」

確かに、分からない。
好きな人に告白した事すらなかったから、そんな苦しみや悲しみを抱いたことはない。
でも、

「あんたのいる場所、今すぐ消してやるから」

「………や、やめて……ください」

変わるんだ。
自分の気持ちを、意見をはっきりと言える人に。
憧れの美香ちゃんみたいに。

「は!?何?あんたの意見なんか聞いてないんだけど」

怖い!怖いくて、今すぐでも逃げたい。
けど、みんなに誤解されたくない。

迫力に負けそうだったけど、気持ちを強く持って、真っ直ぐ前を向いた。

「ふ、2人とも、奪う気なんて………な、ない!」

「な!」

樫野さんは手を上に素早く振り上げた。
反射的に目をつぶって、数秒待ってみるものの、叩かれたような…そんな感覚はなかった。
気になって、警戒しながら目を開けてみると、

「大勢でどうかした?」

目の前には、堂々としている杉戸尾くんの姿が。
何?とびっくりして、腰が抜けそうになる。

杉戸尾くんが居ることで、緊張がほぐれたような気がして、気持ちが少しずつ落ち着いたような感じがあった。杉戸尾くんの優しさに知ることが出来たから。

「な、何でって、藍の彼氏を取ったから!」

「一ノ瀬さんはそんな事をしないと思うよ」

その言葉が、素直に……ただ単純に嬉しかった。
杉戸尾くんに認められた気がして。

「でも!杉戸尾くんは一ノ瀬さんと付き合ってるんでしょ?」

「付き合っていないよ」

大勢居る中でも、はっきりと言ってくれた背中に安心して………思わず涙がこぼれ落ちそうになる。
また、杉戸尾くんに守ってもらった。
元はといえば、私のせいなのに。

「あの!……あ、ありがとう!や、やっぱり、杉戸尾くんは……優しいね!」

翼くんと親友になれたのも、
美香ちゃんが友達になれたのも、
この前助けてもらった瞬間、
そして、今この瞬間から分かった気がする。

恐れずに、もっと、もっと早く話しかければ良かった。翼くんが杉戸尾くんを連れて家に来た時から。

「………お前は」

杉戸尾くんは真剣な眼差しで、そっと私を見つめる。

「好きな奴………いるのか?」

えっと、私は……杉戸尾くんに好きな人いるかって聞かれたんだよね?
何でそんなこと聞くんだろ?って思うけど、その疑問に対して、私の答えはただ1つだけ。

「いるよ。好きな人」

翼くんが好き。
ただ、それだけ。それだけだけど、この気持ちには重みがある。
長年ずっと翼くんの事だけしか見ていない。
翼くんのことが好きだから、今でも変わらずに思い続けている。

続けていれば、きっと良いことがある……そう思っても、良くない事があっても、翼くんの笑顔を見るたんびに、そんな考えが吹き飛ばされる。

「そうなのか」

杉戸尾くんの顔が悲しいと言っているような気がした。で、でも、そんなはずないよね。
ここで悲しい顔をしていたら、私の事を好きみたいに……と、思わず、顔が赤くなってしまう。

杉戸尾くんが私なんかを好きになるはずは全く無いのに、何想像してるの!?
自分の想像がバカみたいに思えてきて、

「あ、あの!杉戸尾くんは!?」

なんだか恥ずかしくて、話題を変えようとしたら、またその話に沿ったようなことを聞いてしまった。

それに、こんな事を聞いて、私に真面目に答えてくれるはずがないのに!

期待はしないけど、待ってみても返事はない。やっぱり言う気は……

「や、やっぱり…」

「いる」

言わなくてもいいと訂正しようでしたけど、今、杉戸尾くんはいるって言ったの?と、耳を疑った。

「え?」

「いるよ」

杉戸尾くんに好きな人!?
女子に興味がない杉戸尾くんが居るなんて、予想外で、意外だよ!
杉戸尾くんは一体誰を好きなのかな?

「目の前に」

ん?目の前って……と、後ろを振り返ると、窓からは美香ちゃんの姿が。
友達と楽しそうに笑っていた。

え!杉戸尾くんは美香ちゃんの事好きなの!?ってことは、2人はとっくに両思い?本気なのかな?

なんだか上手くいきすぎて、逆に怖いなと、疑いながら、振り返ると、杉戸尾くんよ顔はみるみるうちに真っ赤に染まった。

本気なんだ!すごい、すごいよ!両思いなんて!!

今すぐ美香ちゃんをこの場に連れて来たいほど、舞い上がっている。
嬉しい気持ちでいっぱい。

杉戸尾くんはハッと目を覚ましたかのように、目を見開いて、口元を抑えていた。
顔だけじゃなくて、耳まで真っ赤になってる……

思わず、言ってしまった感じなのかな?
言った本人がすごくびっくりしてる。

「上手くいくといいね!応援するね!」

そっか、美香ちゃんが好きなんだ!

今思えば、美香ちゃん以外の女の子と、めったに話したりしないよね。
杉戸尾くんが恋するなんて、少し意外だけど、相手が美香ちゃんなら、わかる気がする。

私の好きな2人だから、上手くいってほしいな。
いつか、2人は付き合うんだろうな……と、そんなことを想像していたら、嬉しくて、思わずにやけてしまいそう。

お似合いなカップルになると思う。美香ちゃんは社交的で、サバサバしているから、杉戸尾くんの女子嫌いにピッタリなんだよね。お互いに欠けている欠片を、上手いこと合わせられるような気がする。

「……忘れろよ、さっきの言葉」

「え?」

「からかっただけだからな」

そう言いつつも、顔は真っ赤に。私に言う気はなかったみたいだけど、つい、本音を言ってしまった感じだった。美香ちゃんを好きなんだと改めて思った。

そういえば、翼くんの好きな人知らない気がする。そういう話を今までした事なかったけ?つい、意識してしまうから、中々そういう話出来てなかった。

翼くんはきっと、元気で明るい人が好きなんだろうな。……私とは全然性格が違う子なんだと改めて知らされる。
翼くんのタイプじゃないってこと知ってるけど、自分で改めて考えると……傷つく。

杉戸尾くんなら知ってるかな。翼くんの好きな人。

「あ、あの………翼くんって、好きな人…い、いる?」

本人に聞くのと同じくらい、すっごく緊張する。だって、これで………いるって、言われたら……その時は、長年の恋……失恋確定だから。

「お前、翼のこと好きなのか?」

「ち、違うよ。と、友達が!」

反射的に返事をしてしまっていて、思わず、変に慌ててしまった。勘のいい杉戸尾くんなら、すぐにバレそう…

「………そうなのか。まぁ、いーけど」

良かった。何とか、誤魔化せきれた気がする。

「俺じゃなくて、翼に直接聞けって言って」

「う、うん」

………今思うと、杉戸尾くんに答えもらわなくて、良かったのかもしれない。正直、心の準備が出来てなかった部分もある。

翼くんは好きな人いるのかな?私が翼くんに抱いている気持ちと、同じような気持ちを感じているのかな?そう思うと、その人が羨ましく感じる。翼くんの好きな人になりたい……
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