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第二章
第27話
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翌日の朝のホームルームでは、前日にメールでコンセプトを考えるように送られてきていたのが功を奏して、すぐにコンセプトが多数決で決定た。少し肌寒い文化祭の時期だったが、例年晴れることを想定して、南国風ビーチリゾートカフェということでまとまった。
そして六限のロングホームルームでは、すぐさまにアイデア出しとイメージ画像などを調べて、小物を仕入れる係、看板係、内装係、メニュー作りの係と分担していく。
奈々と男子の実行委員二人は、まゆの口出しによって、ずいぶんと助けられながらもサクサクと決定し、残りの時間は各班ごとに材料などをまとめる話し合いになった。
美空と実行委員の二人は、予算や当日のタイムテーブルの確認、雑用やトラブル対応ということで、現時点で分かっている予算や材料についてを話し合う。
「報告と連絡と相談はしっかりしてね。手伝いが必要なら、私も頑張るから」
美空たちは各班を回りながら、アイデアに意見をしたり、予算的な面を考えたりとしていく。あっという間にロングホームルームの時間は過ぎ去り、そのまま放課後まで話し合いを続けて残るクラスメイト達を見ながら、美空はわくわくした気分になっていた。
衛生面や火の取り扱いなども確認するために、細かい規定などを職員室へと聞きに行ったところで、夕とばったり会った。
「先輩」
声をかけると、夕の隣にいた女子生徒が振り返る。それは、いつか美空が死んでしまおうと思った時に見たきれいな先輩で、美空は息が詰まった。お辞儀をして、そのまま通り過ぎようかと悩んだところで、夕が笑顔になって近寄ってきた。
「美空くん、職員室に何か用事?」
「え、ああっと。担任の先生に、文化祭の出し物の規定の紙を用意してもらうことになってて、それを取りに来たんです」
「出し物は、何にしたの?」
「ビーチリゾート風のコーヒーカフェです」
それにきれいな先輩が目を輝かせた。
「楽しそう。二年何組? ねえ、葵田くん、一緒に行こうよ」
きれいな先輩が、夕のブレザーの裾をちょんちょんと摘まんだ。美空は何やら見たくないものを見てしまった気分になって、少し気持ちが落ち込む。一緒のクラスだったら、こうして毎日毎時間、同じ時を過ごせるのに。そう思った瞬間、夕は先輩の手を優しく振りほどいた。
「佐野さんとは行かないよ。僕は、美空くんと一緒に行くからね」
言われて、きれいな先輩は目をきょとんと見開く。
「え、だってこの子のクラスなのに?」
「うん。僕たちつきあっているから。当日も、美空くんと一緒に過ごすんだ。佐野さんのお誘いは受けられない。ごめんね」
それにきれいな先輩は驚いた顔をして、弾かれたように美空を見つめた。それから複雑な顔をしつつも、「そっか、そうだったんだね」と気まずそうにした唇を噛んだ。そこには、夕への気持ちを押し殺したのであろう、苦渋が滲んでいるように見えた。
「ごめん、葵田くんが誰かとつきあっているのは知らなくて。二人で当日は楽しんでね」
気まずくなってしまったのか、苦笑いをしながら手を振って佐野先輩は去って行った。その後ろ姿を見送って、美空は複雑な気持ちになってしまった。きっとさの先輩は、夕のことが好きだったのだ。
「いいんですか? 追いかけなくて……あの人、先輩のこと好きだったんじゃ」
後姿が見えなくなるまで見てから夕の方を見ると、ずい、と顔を寄せられて思わず美空は一歩下がった。
「僕は、美空くんにだけ恋をしているからいいの」
告白もされていないしねと言われて、美空はそういえば恋愛感情かどうか分からないからつき合いたいと言ったものの、きちんと好きという気持ちを伝えていないのに、と何やら釈然としない気持ちになった。
その日は、佐野先輩の顔がずっとちらついて、忘れられなかった。
そして六限のロングホームルームでは、すぐさまにアイデア出しとイメージ画像などを調べて、小物を仕入れる係、看板係、内装係、メニュー作りの係と分担していく。
奈々と男子の実行委員二人は、まゆの口出しによって、ずいぶんと助けられながらもサクサクと決定し、残りの時間は各班ごとに材料などをまとめる話し合いになった。
美空と実行委員の二人は、予算や当日のタイムテーブルの確認、雑用やトラブル対応ということで、現時点で分かっている予算や材料についてを話し合う。
「報告と連絡と相談はしっかりしてね。手伝いが必要なら、私も頑張るから」
美空たちは各班を回りながら、アイデアに意見をしたり、予算的な面を考えたりとしていく。あっという間にロングホームルームの時間は過ぎ去り、そのまま放課後まで話し合いを続けて残るクラスメイト達を見ながら、美空はわくわくした気分になっていた。
衛生面や火の取り扱いなども確認するために、細かい規定などを職員室へと聞きに行ったところで、夕とばったり会った。
「先輩」
声をかけると、夕の隣にいた女子生徒が振り返る。それは、いつか美空が死んでしまおうと思った時に見たきれいな先輩で、美空は息が詰まった。お辞儀をして、そのまま通り過ぎようかと悩んだところで、夕が笑顔になって近寄ってきた。
「美空くん、職員室に何か用事?」
「え、ああっと。担任の先生に、文化祭の出し物の規定の紙を用意してもらうことになってて、それを取りに来たんです」
「出し物は、何にしたの?」
「ビーチリゾート風のコーヒーカフェです」
それにきれいな先輩が目を輝かせた。
「楽しそう。二年何組? ねえ、葵田くん、一緒に行こうよ」
きれいな先輩が、夕のブレザーの裾をちょんちょんと摘まんだ。美空は何やら見たくないものを見てしまった気分になって、少し気持ちが落ち込む。一緒のクラスだったら、こうして毎日毎時間、同じ時を過ごせるのに。そう思った瞬間、夕は先輩の手を優しく振りほどいた。
「佐野さんとは行かないよ。僕は、美空くんと一緒に行くからね」
言われて、きれいな先輩は目をきょとんと見開く。
「え、だってこの子のクラスなのに?」
「うん。僕たちつきあっているから。当日も、美空くんと一緒に過ごすんだ。佐野さんのお誘いは受けられない。ごめんね」
それにきれいな先輩は驚いた顔をして、弾かれたように美空を見つめた。それから複雑な顔をしつつも、「そっか、そうだったんだね」と気まずそうにした唇を噛んだ。そこには、夕への気持ちを押し殺したのであろう、苦渋が滲んでいるように見えた。
「ごめん、葵田くんが誰かとつきあっているのは知らなくて。二人で当日は楽しんでね」
気まずくなってしまったのか、苦笑いをしながら手を振って佐野先輩は去って行った。その後ろ姿を見送って、美空は複雑な気持ちになってしまった。きっとさの先輩は、夕のことが好きだったのだ。
「いいんですか? 追いかけなくて……あの人、先輩のこと好きだったんじゃ」
後姿が見えなくなるまで見てから夕の方を見ると、ずい、と顔を寄せられて思わず美空は一歩下がった。
「僕は、美空くんにだけ恋をしているからいいの」
告白もされていないしねと言われて、美空はそういえば恋愛感情かどうか分からないからつき合いたいと言ったものの、きちんと好きという気持ちを伝えていないのに、と何やら釈然としない気持ちになった。
その日は、佐野先輩の顔がずっとちらついて、忘れられなかった。
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