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第三章

第44話

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 そんな気持ちとは反対に、忙しい日々が待っていた。受験という名のモンスターがすぐそばまで立ちはだかっているのだ。

 日が昇って沈むごとに、みんなの緊張感が少しづつ高まって行くのを感じる。模擬試験の結果の一点に、神経をすり減らす。行きたい大学、やりたいこと、それらを本格的に考えなくてはならない。

 物凄く迷って、いまだに行先を決められない生徒もいれば、高校入学当初から、行きたい大学を決めている人、途中から意識し始めた人、それぞれが、それぞれの想いを胸に抱いていた。

 美空も、もれなくその流れに乗っかろうとして、乗っかり損ねていた。何をやろうにも、気力が追い付かない。全身全霊で取り組みたいと思えるものが見当たらない。なりたい将来像が見つけられずに、だからと言って焦る気持ちも無かった。

 家族や先生と話をしても、進路の紙を見ても、ピンと来ない。元々好きだったのは読書くらいで、だから何を専攻にしていきたいかなど、見当もつかない。自分が文系だということくらいは、理解できていたがそれ以上でもそれ以下でもなかった。

 このままでは何となくまずいと思ったので、美空は正式に陸上部のマネージャーになった。朝練だけでなく、放課後の練習にも参加するうちに、タイムの伸ばし方や、フォームの改善などに興味を持った。

 興味を持ったことに対しては、集中できる性格だということが分かり、それは将来へ繋げられる何かのきっかけの一つだと感じていた。

 それと同時に、陸上部に通いながら、カラオケ店の早朝アルバイトにも復帰し、いつの間にか季節は美空が夕と出会った時からとっくに一年を回っていた。

 授業をさぼって海へ行ったこと、始めて異性と二人きりで観た映画、ゲームセンターのUFOキャッチャーで取ったお揃いの小さなぬいぐるみ。

 未だ、ミサンガは切れないまま、美空の腕に残っている。

 そうして両親と相談して、文系だった美空が医療系の大学へと進学したのは、陸上の大会について行ったときに見た、義足の選手たちの圧倒的な美しさに惹かれたからだった。

 その姿は、美空の心を激しく高揚させて感動させた。何とも言えない感情が湧き上がってきて、美空は率直に言えば興奮したのだ。スポーツ医学にも興味を持っていた矢先のことで、美空の心は義足に求心された。

 すぐさまインターネットで知りたい情報を調べ上げ、そして部活の顧問の先生に頼んで、選手に直接話を聞いたりするうちに、美空の心はだんだんと固まって行った。

 もの作りが好きなわけでも、得意なわけでもない。それでも、興味を持ったことに一生懸命にチャレンジしたいと思えたのは、美空の心を大きく成長させた。

 文系だった美空が、医療系の大学へと進学するには、並大抵の努力ではできなかった。いきなり学科変更になってしまい、文系のクラスではしていなかった数学は、独学と先生に個別で面倒を見てもらうことになった。

 先生たちも初めのうちは心配していたのだが、美空の強い思いを汲んで手助けをしてくれた。両親も不安そうだったのだが、頑張る娘の姿を見てたくさん応援してくれた。

 毎日必死になって勉強して、難しい問題に頭を悩ませつつも、美空はとにかくできることを毎日コツコツやった。猛勉強をした結果、浪人せずに希望の大学へと入学することができたのは、美空一人の力だけではない。

 それを、美空はひしひしと感じていた。生かされているのかもしれないと、そんなことを合格発表の時に思ったのだった。
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