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第3章
第36話 相談して
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「あーっと、その。私は仕事をしただけですので」
「ダメダメ。さっき市原社長にね、ボーナスの内申のポイントに加算してあげてって言っちゃったし、本人も了解していたから」
「は、はあ……」
冬夜が顔が青い芽生に気がついて、肩にそっと触れた。
「折茂、具合悪い? 顔青いし身体、冷たいけど」
途端に、涼音から殺気が立ち上るのを見て取った芽生は「大丈夫です!」とぴしっと背筋を正した。目を泳がせながら、芽生は冬夜に向き直る。
「あ、あの、主任。ちょっともう……デスク戻っていいですか?」
女子社員の視線が恐ろしいと目で訴えると、ばっちり伝わったようで、冬夜はにっこりと笑った。それに安堵すると、芽生は陽にお辞儀をした。
「御剣社長、気にかけていただいてありがとうございます。司の早川の指導のお陰です。ありがとうございます。仕事が終わらないので、席に戻ります。失礼します」
(主任、後は得意のフォローよろしくお願いします!)
芽生は慌ててデスクに戻った。その間にも、冬夜は話題をするりとすり替えて、二人の機嫌を損ねないようにしつつ話を進めていき、しばらくすると煌びやかな社長二人を外まで送っていった。
芽生はそれを肌で感じ取ってから、ふう、と机で一息ついた。
「じみ……折茂さん、何呼ばれてたの?」
いつもは話しかけてこない右隣の机から声をかけられて、芽生は参ったなと思った。おしゃべり好きで有名な女子社員で、変に話に尾ひれをつける癖があるのだ。
「お茶がおいしかったそうで、褒めて下さいました」
「それだけ?」
「はい」
「へー。どうやってお茶入れたの?」
「七十度くらいで、煎茶を……」
それにふーんという返事が返ってきて、絶対お茶の淹れ方に興味ないなと芽生は内心ため息を吐いた。
「面白くないの」
そう呟く声が聞こえて、芽生はげんなりした。面白さを求められても困る。芽生は今処理すべき仕事に全神経を注ぐことにして、その呟きを耳から排除した。
十五時から十六時までの間に入る十五分の休憩は、個々人が自由に取るように言われており、だいたいの社員が十五時ピッタリに休憩を取る。その休憩時間に気がつかないほどに、猛烈に仕事をしていた芽生は、肩を叩かれてはっとした。
「……主任」
「折茂、ちょっと面談ブース来て」
冬夜がニコニコ笑っているので、悪い話ではないと思い、芽生は席を外してフロアをいったん出ると、外にある小さな面談ブースへと入った。
「主任、さっきはフォローありがとうございました。ほんとに、怖かった」
「ははは! それで真っ青になっていたわけね」
「はい。しかも席に戻ったら、隣の三井さんに嫌みまで言われて、もうなんだってこんな……悪いことしていないのに」
そうだね、と冬夜が芽生を見てニコニコ笑う。
「さっきは、俺もありがとう。まさかあそこで折茂が俺の名前出すとは思わなかった。市原社長に、俺までボーナス点加算してくれるって言われちゃったよ。今度なにかおごらなくっちゃ」
それに芽生は安堵と同時に苦笑いをした。
「ちなみに主任。主任って、恋愛経験豊富ですか?」
「え? どうして?」
「私、全く恋愛経験ないんです。なんですけど、先日どうやら告白されたようで。ですが、そのセリフが、好きだよ、じゃなくてつき合ってやるから俺のものになれだったんです」
それに冬夜は絶句した。
「この場合って、どう反応するのが正解なんでしょうか?」
冬夜は真剣に悩んでいる芽生の肩に触れた。見ると、本当に心配そうな顔をしている。
「折茂、それはちょっとあれだ、やばい奴だ」
「ですよね。男性としてやばいのは分かっていますが、人間としてはやばくない人なので。しかも、こうして主任にお話ししてしまうほどには、私の気持ちは揺らいでいるし、嫌いじゃないし、むしろいつも考えてしまうと言いますか」
「うーん……折茂がその人でいいなら、それでいいけど。恋に正解も不正解もないしね。何か困りごとがあればすぐ俺に相談して。口は固いので有名だから」
それにうなずくと、冬夜はまずは前祝ねと言って紙パックの苺ジュースをくれた。それに大喜びして、芽生は仕事へと戻った。
「ダメダメ。さっき市原社長にね、ボーナスの内申のポイントに加算してあげてって言っちゃったし、本人も了解していたから」
「は、はあ……」
冬夜が顔が青い芽生に気がついて、肩にそっと触れた。
「折茂、具合悪い? 顔青いし身体、冷たいけど」
途端に、涼音から殺気が立ち上るのを見て取った芽生は「大丈夫です!」とぴしっと背筋を正した。目を泳がせながら、芽生は冬夜に向き直る。
「あ、あの、主任。ちょっともう……デスク戻っていいですか?」
女子社員の視線が恐ろしいと目で訴えると、ばっちり伝わったようで、冬夜はにっこりと笑った。それに安堵すると、芽生は陽にお辞儀をした。
「御剣社長、気にかけていただいてありがとうございます。司の早川の指導のお陰です。ありがとうございます。仕事が終わらないので、席に戻ります。失礼します」
(主任、後は得意のフォローよろしくお願いします!)
芽生は慌ててデスクに戻った。その間にも、冬夜は話題をするりとすり替えて、二人の機嫌を損ねないようにしつつ話を進めていき、しばらくすると煌びやかな社長二人を外まで送っていった。
芽生はそれを肌で感じ取ってから、ふう、と机で一息ついた。
「じみ……折茂さん、何呼ばれてたの?」
いつもは話しかけてこない右隣の机から声をかけられて、芽生は参ったなと思った。おしゃべり好きで有名な女子社員で、変に話に尾ひれをつける癖があるのだ。
「お茶がおいしかったそうで、褒めて下さいました」
「それだけ?」
「はい」
「へー。どうやってお茶入れたの?」
「七十度くらいで、煎茶を……」
それにふーんという返事が返ってきて、絶対お茶の淹れ方に興味ないなと芽生は内心ため息を吐いた。
「面白くないの」
そう呟く声が聞こえて、芽生はげんなりした。面白さを求められても困る。芽生は今処理すべき仕事に全神経を注ぐことにして、その呟きを耳から排除した。
十五時から十六時までの間に入る十五分の休憩は、個々人が自由に取るように言われており、だいたいの社員が十五時ピッタリに休憩を取る。その休憩時間に気がつかないほどに、猛烈に仕事をしていた芽生は、肩を叩かれてはっとした。
「……主任」
「折茂、ちょっと面談ブース来て」
冬夜がニコニコ笑っているので、悪い話ではないと思い、芽生は席を外してフロアをいったん出ると、外にある小さな面談ブースへと入った。
「主任、さっきはフォローありがとうございました。ほんとに、怖かった」
「ははは! それで真っ青になっていたわけね」
「はい。しかも席に戻ったら、隣の三井さんに嫌みまで言われて、もうなんだってこんな……悪いことしていないのに」
そうだね、と冬夜が芽生を見てニコニコ笑う。
「さっきは、俺もありがとう。まさかあそこで折茂が俺の名前出すとは思わなかった。市原社長に、俺までボーナス点加算してくれるって言われちゃったよ。今度なにかおごらなくっちゃ」
それに芽生は安堵と同時に苦笑いをした。
「ちなみに主任。主任って、恋愛経験豊富ですか?」
「え? どうして?」
「私、全く恋愛経験ないんです。なんですけど、先日どうやら告白されたようで。ですが、そのセリフが、好きだよ、じゃなくてつき合ってやるから俺のものになれだったんです」
それに冬夜は絶句した。
「この場合って、どう反応するのが正解なんでしょうか?」
冬夜は真剣に悩んでいる芽生の肩に触れた。見ると、本当に心配そうな顔をしている。
「折茂、それはちょっとあれだ、やばい奴だ」
「ですよね。男性としてやばいのは分かっていますが、人間としてはやばくない人なので。しかも、こうして主任にお話ししてしまうほどには、私の気持ちは揺らいでいるし、嫌いじゃないし、むしろいつも考えてしまうと言いますか」
「うーん……折茂がその人でいいなら、それでいいけど。恋に正解も不正解もないしね。何か困りごとがあればすぐ俺に相談して。口は固いので有名だから」
それにうなずくと、冬夜はまずは前祝ねと言って紙パックの苺ジュースをくれた。それに大喜びして、芽生は仕事へと戻った。
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