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第3章
第37話 サンドイッチ
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(涼音さん、昨日の夜、バイト先来なかったけど、ご飯食べたのかなぁ……)
朝食を作りながらそんなことを考えていた芽生は、もういいやと、ついでに涼音のお昼ごはんも作ってしまった。月末処理にバタバタと忙しく過ぎ、やっと落ち着いて月初を迎えていた。
まだフロア内は慌ただしく、そのせいもあって、芽生はすっかり涼音に会えずにいた。週末に行っても忙しくしており、さらには休日出勤だからと食事を作り置きだけして帰ってくるだけだった。
バイトの日に来るかと思いきや、まだ忙しいのか姿を見ていない。結局、心配しすぎてサンドイッチをラップにくるんでいた。
(これなら、サクッと食べられるはず……って、おせっかいだな私も)
そんなことを思いながら、出社するために芽生は川沿いの道を歩く。そして、連日の月末の振り返りをしていてふと、御剣社長に連絡をし忘れたことを思いだした。
「やばい、御剣社長! 私めちゃくちゃに失礼なことを……!」
時刻は九時すぎ。芽生はもらった名刺を取り出し、そこに書かれた番号に電話をした。
『――はい、もしもし』
「朝早くから申し訳ありません。市原商事にてお世話になりました、総務部の折茂と申します」
『ああ、折茂さん。連絡くれないかと思っていたよ』
「お礼が遅くなってしまって申し訳ありません」
いいよいいよ、と電話越しにでも分かる色っぽくて艶のある声。プライベート用だと言っていたのを思い出し、芽生は何やら罪悪感を感じてしまった。
『また俺が行くときは、今かけてもらったこの番号に電話してもいい?』
「はい、もちろんです。仕事中だと出られないので、朝か夜、昼間でしたら会社にご連絡いただければ助かります」
『ふふふ。堅苦しいこと言わないでよ』
「ですが……本来でしたら私がこうしてお話しできるような方ではありませんので」
そこまで言って、そういえば涼音だってそうなのに、とまたもや芽生は涼音のことを考えてしまって、どうしてこんなに気になってしまうんだろうと首をかしげた。
『いいのいいの。でもこの番号は内緒ね』
「もちろんです。殺されても口を割らないようにします!」
意気込んで一人でガッツポーズをしていると、電話越しから笑い声が聞こえてきた。
『いいね、折茂さんのキャラ。また行くね。連絡ありがとう』
「いえ、こちらこそ朝早くからお騒がせしました。失礼します」
緊張しすぎてバクバクした心臓を抑え込み、そそうが無かったかを真剣に考えなおしながら歩いた。
「涼音さんにも、メールしておこっかな……」
涼音とは、結局返事どころかどういう関係なのかさえ曖昧なままなのに、芽生は彼のことが気がかりだった。携帯を取り出すと、文字を打ち始める。
〈お昼、サンドイッチ作りました。渡せますか?〉
メールを送って五秒後に電話が鳴った。
「わ、わ……え、涼音さん!? もしもし?」
『出勤したら社長室に来い』
「あ、はい……」
ぷつっと切られて、それだけ?と思いつつ、芽生は口を尖らせた。わざわざ電話したのは忙しいからだろう。
「相変わらず、強引だよなぁ」
出社して制服に着替えると、まだ始業までにはかなりの時間があった。芽生は急いで誰もいない廊下を駆け抜けると、突き当りのエレベーターに乗ってボタンを押す。
「強引なんだけど、放っておけないし……私やっぱり好きなのかな、涼音さんのこと」
キスをされるのも、強引にされるもの、芽生は心の底から嫌ではないことに気がついていた。ふと気が緩むと涼音のことを考えてしまうし、どうしているか気になってしまう。
(もうきっと、立派に恋してるんだな、私)
おいしそうに芽生の食事を食べる姿、会社では見られない優しい笑顔、強引なのに切なくなるような寂しい瞳を向けてくる姿。全てが、忘れることができなかった。
社長室の前に立ってノックをしようとすると、ガチャリと扉が開いてあっという間に芽生を捕まえると中へと引き込んだ。
朝食を作りながらそんなことを考えていた芽生は、もういいやと、ついでに涼音のお昼ごはんも作ってしまった。月末処理にバタバタと忙しく過ぎ、やっと落ち着いて月初を迎えていた。
まだフロア内は慌ただしく、そのせいもあって、芽生はすっかり涼音に会えずにいた。週末に行っても忙しくしており、さらには休日出勤だからと食事を作り置きだけして帰ってくるだけだった。
バイトの日に来るかと思いきや、まだ忙しいのか姿を見ていない。結局、心配しすぎてサンドイッチをラップにくるんでいた。
(これなら、サクッと食べられるはず……って、おせっかいだな私も)
そんなことを思いながら、出社するために芽生は川沿いの道を歩く。そして、連日の月末の振り返りをしていてふと、御剣社長に連絡をし忘れたことを思いだした。
「やばい、御剣社長! 私めちゃくちゃに失礼なことを……!」
時刻は九時すぎ。芽生はもらった名刺を取り出し、そこに書かれた番号に電話をした。
『――はい、もしもし』
「朝早くから申し訳ありません。市原商事にてお世話になりました、総務部の折茂と申します」
『ああ、折茂さん。連絡くれないかと思っていたよ』
「お礼が遅くなってしまって申し訳ありません」
いいよいいよ、と電話越しにでも分かる色っぽくて艶のある声。プライベート用だと言っていたのを思い出し、芽生は何やら罪悪感を感じてしまった。
『また俺が行くときは、今かけてもらったこの番号に電話してもいい?』
「はい、もちろんです。仕事中だと出られないので、朝か夜、昼間でしたら会社にご連絡いただければ助かります」
『ふふふ。堅苦しいこと言わないでよ』
「ですが……本来でしたら私がこうしてお話しできるような方ではありませんので」
そこまで言って、そういえば涼音だってそうなのに、とまたもや芽生は涼音のことを考えてしまって、どうしてこんなに気になってしまうんだろうと首をかしげた。
『いいのいいの。でもこの番号は内緒ね』
「もちろんです。殺されても口を割らないようにします!」
意気込んで一人でガッツポーズをしていると、電話越しから笑い声が聞こえてきた。
『いいね、折茂さんのキャラ。また行くね。連絡ありがとう』
「いえ、こちらこそ朝早くからお騒がせしました。失礼します」
緊張しすぎてバクバクした心臓を抑え込み、そそうが無かったかを真剣に考えなおしながら歩いた。
「涼音さんにも、メールしておこっかな……」
涼音とは、結局返事どころかどういう関係なのかさえ曖昧なままなのに、芽生は彼のことが気がかりだった。携帯を取り出すと、文字を打ち始める。
〈お昼、サンドイッチ作りました。渡せますか?〉
メールを送って五秒後に電話が鳴った。
「わ、わ……え、涼音さん!? もしもし?」
『出勤したら社長室に来い』
「あ、はい……」
ぷつっと切られて、それだけ?と思いつつ、芽生は口を尖らせた。わざわざ電話したのは忙しいからだろう。
「相変わらず、強引だよなぁ」
出社して制服に着替えると、まだ始業までにはかなりの時間があった。芽生は急いで誰もいない廊下を駆け抜けると、突き当りのエレベーターに乗ってボタンを押す。
「強引なんだけど、放っておけないし……私やっぱり好きなのかな、涼音さんのこと」
キスをされるのも、強引にされるもの、芽生は心の底から嫌ではないことに気がついていた。ふと気が緩むと涼音のことを考えてしまうし、どうしているか気になってしまう。
(もうきっと、立派に恋してるんだな、私)
おいしそうに芽生の食事を食べる姿、会社では見られない優しい笑顔、強引なのに切なくなるような寂しい瞳を向けてくる姿。全てが、忘れることができなかった。
社長室の前に立ってノックをしようとすると、ガチャリと扉が開いてあっという間に芽生を捕まえると中へと引き込んだ。
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