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第2章

第15話

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 月曜日に出社したときには、複雑な気持ちとワクワクする気持ちが胸に詰まって、万葉はどうにもこうにも、浮足立ってしまっていた。悟られないようにするために、いつもよりも顔面に力が入る。

 万葉は仕事ができて、むしろ仕事しか興味がないという、バリキャリのイメージが会社では板についている。そんな万葉がいきなり色ボケ感を出したら、フロア中から引かれるのは目に見えてわかっていた。

「おっはよー恵ちゃん。あれ、怒ってる!?」

 桃花が万葉を見るなり、目を見開いた。それほどまでに、にやける顔を止めようとして、万葉は怖い顔をしていたのだった。

「え、そんな顔してた!? 違うの……ちょっと、色々とあって」

「えー何々、聞きたいわあ」

 万葉は辺りを見回す。近くに人がいないのを確認すると、二人してデスクにへばりつくようにして身を寄せた。

「いい、驚かないでね? そして、絶対に誰にも言わないでね?」

「あらやだ、私が口固いの知っているわよね?」

 それに万葉はうんと頷いてから、もう一度辺りを見回して桃花の耳にそっと「結婚しました」と告げる。

「え、え、え……? ええと、冗談よね? というか、誰と?」

「飲み友達と、居酒屋で、ノリで……」

 桃花はとろんとしている目を、これでもかというほどに見開いた。

「ちょっと恵ちゃん、いいの、それで!?」

「いいかどうか言われると、ちょっと不安なんだけど、でも今のところ支障はないっぽいし……」

「もしかして、いつも話していた、あのイケオジの人?」

 万葉は頷いた。そして恥ずかしくなって両手で頬を掴む。気が付けば耳まで真っ赤になっていた。

「やだ、恵ちゃん可愛い……そんなに赤くなって……でもお姉さんは心配よ、恵ちゃんが」

「も、ほんっと、どうしよう桃花さん……なんかもう、気持ちがふわふわしちゃって。最初はやばい、取り返しがつかないことしちゃったって焦ったのに、なんかあの人のこと知ろうと思ったら、胸騒ぎが止まらなくなっちゃって」

「あらやだ、恋ねえ……」

 桃花はよしよしと万葉の頭を撫でる。

「今どきって、もしかしてそういうのもありなのかもしれないわね。っていうか、そうでもしないと、恵ちゃん結婚しなそうだったし、ちょっと心配だけど、いいんじゃない?」

 桃花は肯定派だったようで、万葉の不安に寄る眉根にトンと指を押し付けてぐりぐりした。

「イケメンで若見えなんでしょ? 歳の差婚も最近は結構あるし、恵ちゃんが幸せって思えるのならそれでいいじゃないの。それに、そんな顔したって、もうしちゃったんでしょ?……いまさら、後戻りできないじゃない」

「うん、そう……」

「恋愛結婚よりお見合い結婚の方が上手く行くっていうし、これから好きをたくさん見つけて行けばいいだけよ。恋愛と順序が違うけれども、行きつくところは幸せな二人の未来にかわりは無いわけだし」

 桃花の言葉に、万葉は勇気をもらった。

「そう、だよね。恋愛結婚だけが全てじゃないし、今から師匠の事たくさん知ればいいわけで……ほんと、名前も知らなかった人と結婚なんてありえるんだね」

「名前も知らない人との結婚。まるで映画のタイトルね」

 まるでドラマのようだったのだが、そんな現実が自分の身に起こるとは考えもしなかった。フィクションが今まさに自分の中に降りてきていた。
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