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第4章
第34話
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お風呂から上がってからソファへ行くと、師匠は大人しく座って、万葉の部屋にあった本を読んでいた。スウェット姿が珍しく、思わず二度見してしまったのだが、一見するとどうやっても四十を超えているようには見えない。
「着心地どうですか?」
「ええ、とても楽ですよ。弟さんにお礼を伝えておいてください」
「なら良かったです……ご機嫌ですね。何を読んでいたんですか?」
麦茶を渡すと、師匠はにっこりと微笑んで、万葉のお気に入りの小説の表紙を見せた。
「これ、面白いですね。でも僕がご機嫌の理由は、万葉さんのお部屋に泊まっているからです……同じ匂いのシャンプーだなんて、背徳的ですね」
真っ向から言われて万葉はむせた。爽やかな顔をして、なんてことを言うんだと半眼で抗議する。
「ところで万葉さん、掛布団が置いてありますけど……?」
「ああ、私、ソファで寝ますから。師匠はベッド使って下さい、ご老体に障ります」
「何を言ってるんですか? 僕は男ですし、勝手に押し掛けたんですから、ソファでいいです。万葉さんはお仕事で疲れているでしょうから、ちゃんとベッドで寝て下さい」
「はい? 嫌に決まってますよ!」
嫌です、だめですの言い争いになり、結局はらちが明かないままとなった。しばらく言い争ってから、もう寝ましょう、と師匠がため息を吐いて、万葉も頷く。全く意見が分かれたまま、平行線だった。
「じゃあ、私はこっちで……ひゃあ!」
ソファに座ろうとすると、するりと後ろから手が伸びてきて万葉を捉える。
「だめです」
「な、師匠! 下ろして!」
お姫様抱っこをされて、そのままベッドへと運ばれる。ゆっくりと下ろされて、有無を言わさない笑みで黙らされた。
「いい子でこっちで寝て下さい」
去ろうとする師匠の裾を、逃がすまいと万葉はぎゅっと掴んだ。
「嫌です……だったら、一緒に寝て下さい。ベッドもセミダブルだから」
「……煽ってます?」
「違います。ベッドで寝ることを誘っています……その、ソファで寝てご老体が……ああもう、一緒に寝ましょう、師匠。私、壁に寄るんで」
それに師匠は困ったように微笑み、そして頷いた。
「据え膳ですねえ、万葉さん。ひどいったらありゃしない」
「……私は、嫌だとは言っていませんよ?」
「あはは、それもそうですね」
師匠がベッドに入ってくると、師匠の重みでベッドが軋んで傾く。万葉は枕元に置いてあるリモコンで電気を消した。
「でも、今はまだ手出ししません……」
壁にくっつくようにして万葉が縮こまっていると、師匠が後ろからぎゅっと抱きしめてきた。
「貴女に好きになってもらったら、ちゃんと手出ししますから。お休みなさい、万葉さん」
耳に唇が触れて、そして去って行く。万葉が首だけ動かすと、師匠も反対側を向いてしまっていた。
「お休み、師匠……」
万葉もそうっと呟くと、目をぎゅっとつぶった。師匠の唇が触れた耳たぶだけが、妙に熱い。痛む胸を押さえながら、万葉は早く寝てしまおうと眠りに手を伸ばした。
「着心地どうですか?」
「ええ、とても楽ですよ。弟さんにお礼を伝えておいてください」
「なら良かったです……ご機嫌ですね。何を読んでいたんですか?」
麦茶を渡すと、師匠はにっこりと微笑んで、万葉のお気に入りの小説の表紙を見せた。
「これ、面白いですね。でも僕がご機嫌の理由は、万葉さんのお部屋に泊まっているからです……同じ匂いのシャンプーだなんて、背徳的ですね」
真っ向から言われて万葉はむせた。爽やかな顔をして、なんてことを言うんだと半眼で抗議する。
「ところで万葉さん、掛布団が置いてありますけど……?」
「ああ、私、ソファで寝ますから。師匠はベッド使って下さい、ご老体に障ります」
「何を言ってるんですか? 僕は男ですし、勝手に押し掛けたんですから、ソファでいいです。万葉さんはお仕事で疲れているでしょうから、ちゃんとベッドで寝て下さい」
「はい? 嫌に決まってますよ!」
嫌です、だめですの言い争いになり、結局はらちが明かないままとなった。しばらく言い争ってから、もう寝ましょう、と師匠がため息を吐いて、万葉も頷く。全く意見が分かれたまま、平行線だった。
「じゃあ、私はこっちで……ひゃあ!」
ソファに座ろうとすると、するりと後ろから手が伸びてきて万葉を捉える。
「だめです」
「な、師匠! 下ろして!」
お姫様抱っこをされて、そのままベッドへと運ばれる。ゆっくりと下ろされて、有無を言わさない笑みで黙らされた。
「いい子でこっちで寝て下さい」
去ろうとする師匠の裾を、逃がすまいと万葉はぎゅっと掴んだ。
「嫌です……だったら、一緒に寝て下さい。ベッドもセミダブルだから」
「……煽ってます?」
「違います。ベッドで寝ることを誘っています……その、ソファで寝てご老体が……ああもう、一緒に寝ましょう、師匠。私、壁に寄るんで」
それに師匠は困ったように微笑み、そして頷いた。
「据え膳ですねえ、万葉さん。ひどいったらありゃしない」
「……私は、嫌だとは言っていませんよ?」
「あはは、それもそうですね」
師匠がベッドに入ってくると、師匠の重みでベッドが軋んで傾く。万葉は枕元に置いてあるリモコンで電気を消した。
「でも、今はまだ手出ししません……」
壁にくっつくようにして万葉が縮こまっていると、師匠が後ろからぎゅっと抱きしめてきた。
「貴女に好きになってもらったら、ちゃんと手出ししますから。お休みなさい、万葉さん」
耳に唇が触れて、そして去って行く。万葉が首だけ動かすと、師匠も反対側を向いてしまっていた。
「お休み、師匠……」
万葉もそうっと呟くと、目をぎゅっとつぶった。師匠の唇が触れた耳たぶだけが、妙に熱い。痛む胸を押さえながら、万葉は早く寝てしまおうと眠りに手を伸ばした。
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